1999年 学界展望
労働法理論の現在─1996~98年の業績を通じて(1ページ目)


はじめに

毛塚

それでは、学界展望の座談会を始めたいと思います。

今回は1996年から1998年の3年間の労働法学界の業績を取り上げることになります。これまでの慣例に従い、主に我が国の労働法理論、とくに解釈理論を中心とした論文を検討の対象としています。これは本企画が労働法学の理論状況を隣接学問分野に紹介することも一つの目的としていることによるものかとも思います。

いずれにしましても、外国法研究や歴史研究といった研究業績は議論の対象となっていません。また、この間には、野田進『労働契約の変更と解雇』、菅野和夫『雇用社会の法』、さらには籾井常喜編『戦後労働法学説史』、渡辺章編『日本立法資料全集・労働基準法』といったすぐれた研究や労作があるわけですが、そのようなものは議論の対象にはなっていません。

選考過程もこれまでの慣例に従いまして、10本ほどの論文を選ぶ過程では編集部の文献リストアップに基づきまして、注目される論文を約30編ほど選び、これを参加者が、さらに10本ほどに絞りました。正直、選択には迷いましたが、参加者の1人でも2人でもおもしろいと思うチャレンジングな論文を中心に選びました。取り上げた以外に、すぐれた業績が多々あると思いますが、その点は、選者の目が悪いということでご容赦願いたいと思います。

討議対象論文

総論

  • 西谷敏「労働者保護法における自己決定とその限界」『現代社会と自己決定権─日独シンポジューム』(信出社)

賃金

1.能力・成果主義賃金

  • 毛塚勝利「賃金処遇制度の変化と労働法学の課題─能力・成果主義賃金制度をめぐる法的問題を中心に」『日本労働法学会誌』89号

2.賃金控除の理論

  • 坂本宏志「賃金控除の理論的基礎」『日本労働法学会誌』90号

労働時間

1.年次有給休暇

  • 山田桂三「年次有給休暇法理の再構成」『佐賀大学経済論集』29巻1=2号

2.女子保護規定の廃止に伴う問題

  • 奥山明良「女子保護規定の廃止に伴う法律問題─時間外・休日労働、深夜業を中心に─」『日本労働法学会誌』92号

労働条件変更

1.集団的労働条件の変更

  • 大内伸哉「労働条件形成・変更の段階的正当性─労働条件変更法理の再構成(1)~(4完)」『法学協会雑誌』(東京大学)113巻1~4号

2.変更解約告知

  • 毛塚勝利「労働条件変更法理としての『変更解約告知』をどう構成するか─スカンジナビア航空事件を契機に─」『労働判例』680号
  • 土田道夫「変更解約告知と労働者の自己決定─スカンジナビア航空事件を契機として(上)(下)」『法律時報』68巻2号・3号

集団的労働法

  • 石井保雄「職場占拠法理の研究(1)~(10完)」『亜細亜法学』18巻1号、同2号、19巻1=2号、20巻1=2号、21巻1号、22巻1号、26巻2号、28巻1号、29巻2号、38巻1号

法政策的課題

1.社会保険法における被用者概念

  • 竹中康之「社会保険における被用者概念─健康保険法および厚生年金保険法を中心に」『修道法学』(広島修道大学)19巻2号

2.引退過程

  • 岩村正彦「変貌する引退過程」『岩波講座 現代の法12 職業生活と法』(岩波書店)
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