1996年 学界展望
労働法理論の現在─1993~95年の業績を通じて(9ページ目)


おわりに

道幸

非常に多様なテーマが多様なアプローチでいろいろな議論がなされており、労働法は大きく変わりつつあるという印象を強く受けました。取り上げた論文は力作が多く、非常に興味深く読みました。とりわけ、政策論とは別に一種の権利論みたいなものを新たに構築する方向にあるのかどうか、もしもあるとすると、どういう観点から―たとえば個人の権利とか、自主決定とか、自立とかの形で議論が学界全体で形成されていくのか。もしくは、全体的に労働法学自体が、解体していくのか、ちょうどターニングポイントにある時期ではないかという感じを受けました。

山川

今回は豊作であったように感じています。対象に選ばれたものは非常に緻密といいますか、突き詰めた検討を行っている論文が多いと思います。やはり時代の状況などもありまして、かつて花見先生がおっしゃったように(『労働の世界について考える』183頁)、どうしてもこの問題を解決しなければならないという切実さが現れているような気がします。その意味で、読むのに疲れたとしても、読後感は非常によいものでした。

また、今おっしゃられたように、伝統的な労働法の領域にとらわれない、学際的、あるいは分野横断的な論文が多くなりました。現代の社会の中で、労働者のトータルな幸福を考えるには、そのように検討範囲を広げざるをえないのかなという気がいたします。もちろん伝統的な分野でも、労働法における権利義務というものをどう考えていくかなど、まだ未解決な問題はたくさん残っていると思います。

中嶋

私は、前回もこの検討会のメンバーだったのですが、まず前回は取り上げたい論文は、ゼロとは言わないけれども、ほんとうに少なかったということを述べておりました。今回は幸いにして、口はばったいようですが、非常に豊作で、とてもよかったなと思います。今回対象論文を絞るのも大分苦労しました。

それから、多彩になったということにつきましては、やはり、たとえば岩村さんの論文とか、水町さんの論文、あるいは国際労働関係の3論文ですね、もう我々は古いというか、対応できなくなってきたなと、我ながら寂しい思いがする反面、労働法の発展ということでは大変喜ばしいことだと考えております。

また、次回はメンバーの選定も含め、もっと立体的に、広範に、この座談会の取り上げ方について日本労働研究機構に考えていただきたい。これで座談会を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。