1996年 学界展望
労働法理論の現在─1993~95年の業績を通じて(1ページ目)


はじめに

中嶋

それでは、学界展望の座談会を始めます。

今回の対象期間は、1993年から95年までの3年間でして、座談会の進め方の方針は従来どおりとしました。

すなわち、この座談会は、この3年間に発表された論文を中心に検討します。そして、外国法研究を中心とした論文と、単行本は除いてあります。論文の選択に関しては、作成された文献リストに従って、初めに注目すべきものを約30本選択し、それを参加者3人が持ち帰って、また読み直し、その中から14本を選択しました。そして、これらについては、それぞれ労働法学の伝統的な手法に従ってテーマを7項目のグループに分類しました。(討議対象論文参照)

今回の特徴的な点として、最初に「総論」という分類があり、これはこれまであまりなされてこなかった立法政策に関する提言を行った菅野=諏訪論文と、それから労働法と社会保障法とのいわば橋渡しを試みた岩村論文の二つがございます。将来の立法政策論議及び社会保障法との連関関係を考える上で、貴重な道筋を示してくれた、あるいは土俵の立て方を提言してくれたという意味で、これらを取り上げたものです。

それでは、最初に山川さんのほうから、この順序に従ってお願いいたします。


討議対象論文

総論

  1. 菅野和夫・諏訪康雄「労働市場の変化と労働法の課題」『日本労働研究雑誌』418号
  2. 岩村正彦「労働者の引退過程と法政策」『ジュリスト』1063号、1064号

労働契約

  1. 土田道夫「労働契約における労務指揮権の意義と構造」『法学協会雑誌』105巻6号、10号、12号、107巻7号、109巻1号、12号、111巻9号、10号
  2. 島田陽一「労働者の私的領域確保の法理」『法律時報』66巻9号

労働保護法

  1. 西谷敏「労働基準法の二面性と解釈の方法」『労働保護法の研究』有斐閣
  2. 籾井常喜「労働保護法と『労働者代表』制」『労働保護法の研究』有斐閣
  3. 小畑史子「労働安全衛生法規の法的性質」『法学協会雑誌』112巻2号、3号、5号

非典型雇用

  1. 水町勇一郎「『パート』労働者の賃金差別の法律学的検討」『法学』58巻5号

紛争処理

  1. 浜村彰「労働契約と紛争処理制度」『日本労働法学会誌』82号
  2. 毛塚勝利「労働紛争処理法」『ジュリスト』1066号

不当労働行為

  1. 道幸哲也「労働委員会命令の司法審査」『法律時報』65巻10号、11号、12号、66巻1号、2号、3号

国際労働関係

  1. 山川隆一「国際的労働関係と労働基準法」『季刊労働法』173号
  2. 荒木尚志「国内における国際的労働関係をめぐる法的諸問題」『日本労働法学会誌』85号
  3. 野川忍「国外における国際的労働関係をめぐる法的諸問題」『日本労働法学会誌』85号
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