アメリカにおける仕事と育児の両立支援に関する諸政策

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桜美林大学 講師 永由 裕美

はじめに

アメリカにおいて連邦レベルで仕事と家庭生活の両立を支援する唯一の法が「家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act、以下FMLAとする)」である。アメリカでは、元々法律による労働条件規制が少なく、年次有給休暇付与の義務づけも行われていない。FMLAに関しても1993年の成立に至るまでには、かなりの紆余曲折があり、成立までにおよそ9年を要している。

以下では、まずFMLAにおける仕事と育児等の両立支援に関わる制度及び州の関連制度、その利用状況等を論述したい。そして、各種統計・調査等に基づき男女労働者を取り巻く現状、その他の両立支援に関わる施策を簡単に取り上げる。

1. 出産休暇、育児休業、看護休暇など仕事と育児の両立支援制度

(1) FMLAにおける休暇制度の概要

連邦レベルでは、年次有給休暇も法制化されておらず、妊娠、出産、育児に関し、主に妊娠・出産差別を禁止する目的を持った妊娠差別禁止法(Pregnancy Discrimination Act of 1978(注1))、職場での搾乳を目的とした休憩時間を定める患者保護並びに医療費負担適正化法(注2)、そしてFMLAの3つの法律が保護を与えているに過ぎない。

FMLA(注3)は、被用者に対し、12カ月間に合計12労働週の枠内で育児休暇、介護休暇、病気休暇、出産休暇(いずれも無給)を各々取得する権利を与えている。

①適用対象:適用対象となる使用者は、(a)州際通商に従事し、または影響を与える活動を行い、かつ当年または前年において20週以上の期間にわたる各労働日に50人以上の被用者を雇用する民間部門の使用者、(b)州や連邦政府機関等を含む公的機関、(c)公立・私立を含む小学校・中学校であり、後二者は雇用する被用者数は問わない。休暇を取得できる被用者(有資格被用者)の要件は、現使用者により12カ月以上雇用され、かつ直近12カ月間に1,250時間以上勤務したことである。

②休暇取得事由:(a)息子・娘の誕生及び世話、(b)養子縁組・里子制度により、息子・娘を受け入れるため、(c)配偶者、息子、娘、親が「深刻な健康状態(serioushealth condition)」にあり、その世話をするため、(d)本人がその地位の職務を遂行することが出来ないような深刻な健康状態にあるため、(e)配偶者、息子、娘または親が現役の軍務に就いていることにより生じる緊急事態(注4)、を理由に休暇を取得できる。

③対象家族と「深刻な健康状態」の範囲:対象家族については、「配偶者」は夫又は妻を意味し、法律上の婚姻関係が必要とされ(同性間の婚姻関係も含む)、「親」は実の親または親代わりの立場にあった者で、義理の親は含まれない。

「深刻な健康状態」とは、医療施設における入院、または継続的な治療を要する疾病、負傷、肉体的・身体的状態等を意味する。「継続的な治療」とは、原則連続3日以上にわたり仕事や日常生活が不能になることを指すが、「妊娠による日常生活等の不能、または産前ケア」等の場合には「連続3日以上の不能」を要さずに「継続的治療」に当たるとされている。

④休暇期間と手続:12カ月間に合計12労働週の休暇を取得することができる。但し、前述②の(a)、(b)の場合は、誕生・受け入れから12カ月以内に限定され、妻と夫が同一使用者に雇用されている場合は、同(a)と(b)の休暇、(c)の親の世話のための休暇に関し、12カ月間に2人合わせて合計12労働週までと上限を設けることも可能である。

休暇は連続した期間に限定されず、「断続的休暇」や「時短勤務による休暇」も認められる。②(a)、(b)に関しては、上記の方法で取得するためには使用者の同意が必要とされ、その場合でも使用者はこうした休暇の形に調整可能な別の職への転換を一時的に求めることが出来る。休暇の最小単位は定められておらず、時間単位の取得も可能である。

そして、②(a)、(b)については、休暇取得の必要性が予見可能である場合(出産予定日や養子の受け入れ予定日)、30日前までの通知が求められる。

⑤休暇中及び復帰後の取り扱い:使用者が有給の休暇を提供している場合には、その休暇分をMLAの12労働週に含めることができる。休暇中は団体健康保険制度の適用が継続されなければならず、職場復帰にあたり、被用者は元の職または賃金その他の労働条件が同等の別の職に復帰する権利を有し、休暇開始前に有していた雇用上の諸給付を失うことがあってはならない。

これ以外に、使用者にはFMLA上の権利行使を妨害、制限、否定するなどの行為が禁止されている。

⑥意義と課題:FMLAは、休暇を取得できる理由が多岐にわたっている点が特徴である。また、労働条件規制が薄いアメリカにおいて、断続的休暇や時短勤務による休暇が認められていること、職場復帰の権利が保障されていることは大きな意義がある。

他方で、「50人以上」の被用者を雇用する者という使用者の要件は、公民権法第7編の「15人以上」に比べてもかなり高く設定されており、実質的にFMLAの休暇制度の普及を阻む一要因となっている。また、有資格被用者に関しても、継続勤務期間と最低勤務時間という要件が課せられており、これから外れる者は制度を利用できないこととなる。こうしたことから、FMLAは主に中・上流クラスの労働者に恩恵をもたらしてきており、男女間の実質的な不平等解消にはあまり寄与してこなかったとの指摘も見られる。従って、今後はFMLAの適用範囲や対象家族の範囲等を拡大することで、より多くの労働者が同法の恩恵を受けられるように改善していくことが課題とされている。

FMLAが無給休暇を保障するに過ぎない点に関しても、休暇取得を抑制する要因であるなど批判が展開され、現時点では休暇中の所得保障が最大の懸案事項となっている((3)で詳述する)。

以上の他に連邦レベルでは、連邦政府職員に対しては出産・育児と仕事の両立支援策としてFMLAより幅広く、手厚いものが制度化されている。

(2) 州レベルにおける家族・医療休暇関連制度

1980年代中盤以降、連邦レベルでの動きに対応し州レベルでも家族・医療休暇制度の立法化が進んだ。ただ、その多くが公務員等を対象としており、民間労働者をも対象とする立法は20州程度に留まっている(注5)

州法の特徴としては、①FMLAより小規模使用者を適用対象とするもの、対象家族の範囲を拡大するもの、休暇期間を拡大するもの、取得理由を広げるもの、②休暇中の所得保障を講じるもの、③一定の家族・医療休暇のために有給の疾病休暇の利用を認めるもの(5州)、④女性のみを対象に妊娠・出産に関連する休暇の付与を義務づけるもの(6州)、⑤子どもの学校関連行事等の活動のために休暇取得を認めるもの、等が挙げられる。

連邦レベルに比較し、州レベルでは家族・医療休暇関連施策として多様な立法的手当がなされるようになっているが、休暇取得理由によっては適用される法律が異なることもあり、その場合使用者に課される従業員数要件や被用者の有資格要件が違うケースもあることに注意を要する。

(3) 休暇中の所得保障をめぐって

FMLA制定以降休暇中の所得保障が最大の懸案事項とされ、連邦レベルでも州レベルでも家族休暇の有給化を求める法案が提出されてきた。

クリントン政権下の2000年6月に連邦労働省は、出生及び養子縁組後に休暇を取得する労働者の所得を一部保障する目的で州が自らの失業保険基金を活用することを認める「出生及び養子縁組のための失業給付規則」を定めた。これを受けて、2001年だけでも20を超える州で法案が提出されたものの実現せず、ブッシュ政権下の2003年には失業保険制度の趣旨になじまないとして、この規則自体が廃止されてしまった。

一方で2002年に初めてカリフォルニア州で「有給家族休暇保険」が創設され、上記とは別の形での所得保障を模索する動きが生じてきた。現在こうした制度を通じ給付を行っているのはカリフォルニア、ニュージャージー、ロードアイランド、ニューヨークの4州であるが、これ以外に立法はあるものの実施に至っていないワシントン州、そして、州ではないが2020年に発効予定のワシントンD.C(. コロンビア特別区)がある。

例えば、2016年に創設されたニューヨーク州の有給家族休暇(PFL)プログラム(発効は2018年1月)は全米で最も強力で包括的とされており、州の一時的労働不能保険を拡大する形で設けられた。同制度では、子の誕生・養子及び里子の受け入れのための休暇、深刻な健康状態にある家族の世話のための休暇等について52週間に8週を上限に給付が行われ(給付期間は段階的に延長され、2021年には12週となる予定)、2018年の給付額は被用者の週平均賃金の50%相当額(上限あり、今後4年間に段階的に引き上げられ、2021年には67%となる予定)である。PFL保険は被用者の保険料で運営され、民間部門の使用者のほとんどが対象となる(公的部門は任意加入)。被用者の有資格要件として、民間部門のフルタイム労働者は26週以上の勤務、パートタイム労働者は175日の勤務が課されている。被用者には、休暇取得を理由とする差別的取扱いが禁止され、職場復帰の権利が保障されている。

また、出産休暇については、州が独自に一時的労働不能保険(Temporary Disability Insurance、TDI)を設けている場合は、これにより休暇中の所得が一部保障される。現在ロードアイランド、カリフォルニア、ニュージャージー、ニューヨーク、ハワイの5州にTDIがある。

こうした州レベルの取り組みに比べ連邦レベルの取り組みは遅々として進まなかった。オバマ前大統領も2015年の一般教書演説等で有給の家族休暇の必要性を訴えてきたが、共和党や費用負担を嫌う小規模企業などの抵抗を受け実現を見ていない。

しかし、2015年に連邦議会に提出された家族医療保険休暇法案は今までになく大きな注目を集めた。同法案は、家族医療休暇保険プログラムを創設することで、有資格被用者に1年間に12週を上限として休暇中に賃金の66%相当額の給付を行うというものであり、すべての使用者に適用される。

こうした世論を背景に、2016年の大統領選キャンペーンでは、有給家族休暇が大きなテーマの1つとされ、最終的に民主党・共和党の二大政党候補者がキャンペーンにおいて有給家族休暇政策を提示したのである。双方の案には相当の開きがあったものの、二大政党候補者がこうした施策を提示したのは初めてのことであり、それ自体が非常に画期的と捉えられている。

(4) 家族・医療休暇制度の利用状況~育児休業を中心に

連邦労働省はFMLAの利用状況など実態把握を目的とした公式調査を継続的に行っており、2013年2月には3回目の調査報告書である「Family and Medical Leave in 2012: Final Report」を公表している。

その調査結果をまとめると、①FMLAの適用状況については、調査対象のうち適用企業であったのは1割、有資格被用者も約6割に留まり、法の適用範囲が狭く、加えて適用企業は大企業に偏っていた、②休暇を取得した労働者の割合は13%であり、休暇取得期間の平均は34.5日で、10日以下が4割強を占めていた。親休暇については、女性の平均取得日数が57.5日、男性が21.8日と女性は男性の倍以上の長さであったのに対し、男性の7割は10日以下しか親休暇を取っていない、③休暇取得者の6割強が休暇中何らかの形で賃金の一部または全部を支給されていたが、親休暇取得者の中で有給であったのは、女性が2割、男性が13%に留まっている。休暇取得者にとっても、不取得者にとっても、休暇中の金銭的やりくりが大きな懸念材料とされていた。

以上から、FMLAに基づく休暇制度はある程度導入が進んでいるが、労働者による利用は一般的とはいえず、親休暇及び看護休暇の取得は進んでいない。休暇取得を躊躇させる最大の要因は休暇中の所得保障に欠けることであり、調査結果からも所得保障が喫緊の課題であることが明らかとなった。

2. 仕事と家庭の両立に関する状況とその他の両立支援制度

(1) 男女労働者の現状

①就業状態

企業がワークライフバランスや両立支援に関する施策を導入する契機となったのは、労働市場への女性の参加率増大であった。女性の労働力率は2016年時点で56.8%となっており、労働力人口全体に占める女性の割合も2015年には46.8%に達した。加えて18歳未満の子どもがいる母親の労働力率は同年で69.9%であり、アメリカでは1980年までに女性のいわゆるM字型の労働力率は見られなくなった。この間、家族・世帯の状況も大きく変化し、ひとり親世帯が急増した。18歳未満の子どもがいる世帯のうちひとり親世帯が占める割合は同年に31.3%となり、ひとり親世帯のうち母親のみの世帯は実に78%に達する。同様に18歳未満の子どもがいる世帯のうち、母親が世帯の主たるあるいは唯一の賃金稼得者である世帯の割合も4割弱に及んでいる。18歳未満の子どもがいる就労している母親ひとり親世帯の貧困率は2014年には28.4%、母親がフルタイムで働いていてもこの値は14.0%と高く、こうした現状を背景に、国による両立支援策を求める声が高まっている。

②労働時間及び休暇の付与・取得状況

実労働時間数を、OECDのデータで見ると2016年の年平均実労働時間数は1,783時間であり、OECD加盟国の平均値を上回っている。アメリカ労働統計局のデータでは、パートタイム労働者を含む非農業部門で働く労働者の週平均労働時間は同年時点で38.7時間で、男性は40.9時間、女性は36.2時間である。フルタイム労働者に限ると労働者全体では42.4時間、男性は43.5時間、女性は41.0時間であった。一方、ギャラップ社の調査では、フルタイム労働者の週平均労働時間は46.7時間で、週50時間以上働いている者も39%に達していた。

有給休暇の付与状況については、2014年に民間部門の雇用者のうち、有給長期休暇を付与されていたのは77%、有給疾病休暇は61%、有給祝日休暇は76%であり、平均付与日数を見ると長期休暇では勤続年以上が10日、5年以上が14日、疾病休暇では7日、祝日休暇では8日となっている。低所得労働者ほど休暇制度の適用を受けない者が多くなっている。

これに対し、実際の休暇取得状況を調べた2017年の調査では、2016年に労働者は平均16.8日の休暇を取得していた。

③親の生活時間

Pew Research Centerは、2011年時点で18歳未満の子どもがいる成人の1週間の生活時間を調べている。それによると、平均して父親は有償労働37.1時間、家事9.8時間、育児7.3時間、母親は有償労働21.4時間、家事17.8時間、育児13.5時間であった(余暇は除く)。1965年と比較すれば、父親の有償労働時間が減り、母親のそれは格段に増加している。父親の家事、育児にかける時間も増えているものの、依然として家事・育児時間は母親の方が長いのが現状である。親の有償労働及び無償労働(家事と育児)時間を足した時間は、2011年時点で概ね54時間程度となった。この時間は、共稼ぎの父親と母親の場合ではおよそ58時間、母親のみが働いている場合の母親も約58時間、父親のみが働いている場合の父親も56.7時間と長く、余暇時間を削って仕事と家庭生活のバランスを図っている状況が窺える。仕事と家庭生活のバランスに困難を感じている者も半数に及び、母親の56%、父親の50%が「やや困難」「とても困難」と回答していた。

図1:共働きカップルの有償労働、家事、育児時間(1週間平均)
画像:図1

出所:Kim Parker and Wendy Wang, Modern Parenthood(Pew Research Center, March 14,2013)

(2) その他の両立支援策

アメリカでは、児童や妊婦がいる貧困家庭を対象とした貧困家庭一時扶助(TANF)はあるが、それを超える一般的な社会手当としての児童手当制度はなく、主に税制により子育て支援が行われている。

税制による子育て支援策としては、所得控除として扶養控除、税額控除として、児童税額控除、所得税額控除、保育費用等控除(Child and Dependent Care Credit)がある。アメリカの保育料金は比較的高く、子育て支援としてこうした税額控除が一定の役割を果たしていると評価できる。

これ以外に、大統領令等に基づき、連邦政府調達の契約者や下請契約者を対象に、雇用機会均等の促進、雇用差別禁止、女性支援、有給疾病休暇の付与といった目的を持った公共調達の手法が取られている。

結びにかえて

アメリカでは法制度が十分といえない中で、民間企業が主導する形で仕事と家庭の両立支援策が整備されてきたが、ひとり親及び貧困家庭の増加、就労形態の多様化、高齢化の進展といった人口動態・経済環境の変化を背景として、企業による支援策の恩恵を受けることが出来ない労働者の増大が見込まれている。

FMLAは多様な休暇を包含することで固定的な性別役割分業・価値観の転換を図ることを目的としており、性中立的な休暇法制により男女間の雇用平等を一層追求した点では、画期的なものと捉えられる。しかし、法制定から20年以上を経て、その目的はシンボリックではあったが、実効性においては「何もないよりはまし」といった批判にさらされている。すなわち、FMLA制定後も男性は主に自らの疾病を理由にFMLA休暇を取得しているのに対し、女性は子ども等自分以外の者の介護・看護を理由に休暇を取得し、しかもその期間が長い傾向にあるといった現状を踏まえ、FMLAは女性の家族介護・看護責任の軽減に寄与せず、家族介護・看護の主たる担い手が女性であるという状況を変えることが出来ていないため、実質的な平等達成に有意義な影響をもたらしていないという認識が広く示されるようになっている。さらに、PDAやFMLAに見られる妊娠・出産を他の労働不能と同視し、できる限り男女の性差を無視するという形式的な性中立法自体が、かえって性別役割分業を強化する結果をもたらしているとの見解も見られる。

男女間の実質的な平等を図りつつ、FMLAを含めた両立支援制度をどのように整備していくのか、今後の進展が注目される。

2018年12月 フォーカス:諸外国における育児休業制度等、仕事と育児の両立支援にかかる諸政策 ―スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、韓国

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