ドイツの育児休業制度と両立支援策

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JILPT 主任調査員補佐 飯田 恵子

はじめに

ドイツの「育児」や「両立」に関する政策は、戦後40年にわたり東西が分裂していたため、地域で異なる発展を遂げた。旧東ドイツでは、レーニン(旧ソビエト社会主義共和国連邦の初代指導者)の「働かざる者食うべからず」という言葉に代表されるように「国民総活躍社会」を重んじる社会主義政権下で、共働き世帯のための保育施設の整備や両立支援が早くから進んだ。他方、旧西ドイツでは、父親だけが働く世帯モデルが支配的で、保育施設の整備や両立支援はあまり進展しなかった。また、3歳までは親元で育てるべきという“3歳児神話”もあり、幼い子を保育園に預けて働く母親を「カラスの(=薄情な)母(Rabenmutter)」と呼び、非難する風潮も存在した。

このような東西の歴史的相違がある中で、1990年の統一後は、西側の政策・制度が引き継がれた。しかし東西地域の違いは、現在まで少なからず残っており、社会的な影響を及ぼしている。例えば3歳未満児の保育需要に対する保育供給率は現在も東西で異なっており、旧東ドイツ地域では比較的保育園に子どもが入園しやすいのに対して、旧西ドイツ地域では入園しにくく(図1)、保育時間も旧東ドイツ地域より短い。以上の事情からフルタイムで働く母親の割合は、旧東ドイツ地域で55.7%、旧西ドイツ地域で25.2%と大きく異なっている(2012年)。

図1:3歳未満の保育需要と保育供給率 (2016)
画像:図1

資料出所:BMFSFJ(2017)

なお、共働き世帯に対する保育施設の整備や両立支援にドイツ政府が積極的に取り組むのは、少子高齢化と労働力不足に対する懸念が本格化した2000年代に入ってからのことになる。

1. 制度・政策の変遷

(1)戦後東西に分裂 ―異なる政策・制度

ドイツの家族政策は、1949年に東西に分裂し、再び1990年に統一するまで異なる政策の道筋をたどった。

旧東ドイツでは、女性は出産しても働き続ける共働きが支配的な家族モデルだった。また、社会主義の下で「出産」も「就業継続」も奨励され、女性がフルタイムで働き続けられるように、早くから保育施設の整備等が進んだ。

他方、旧西ドイツでは、夫が稼ぎ、妻が家庭を支える家庭内役割分担モデルが主流で保育施設の整備も旧東ドイツと比較して進まなかった。また、ナチス政権下における人口政策の反省から「国家は私的領域の意思決定に直接関与しない」という立場をとり、出生奨励策を避ける傾向にあった。

(2) 東西統一後 ―母親のキャリア中断が課題に

1990年統一以降は、基本的に旧西ドイツの制度が旧東ドイツ地域にも適用された。1990年代には、育児手当や児童扶養控除の大幅な引き上げが行われ、育児休業期間や育児手当の支給期間が延長された(育児休業期間は1992年に18カ月から36カ月に、育児手当支給期間は1993年に12カ月から24カ月に延長された)。しかし、こうした家庭内育児の期間延長や奨励策は、結果的に母親の長期離職につながり、多くの母親が復職後に両立困難に陥るか、解雇されるかして、母親のキャリア中断を招くことになった。また、統一直後の旧東ドイツ地域では、体制の急激な変化による社会的混乱や高失業率が続き、合計特殊出生率が急速に低下(1990年の1.52から1994年には0.77まで低下)し、少子高齢化が大きく進んだ。

(3) 2000年代以降 ―包括的な子育て支援策への転換

2000年代に入ると、少子高齢化と労働力不足が経済・社会全体へ与えるマイナスの影響が本格的に認識され始め、家庭内の経済的な負担調整を中心とした政策から、仕事と家庭の両立支援を中心とする包括的な子育て支援策への転換が図られた。

第2次シュレーダー政権(2002~2005年)は、出生率を上げ、両立支援に重点を置く諸施策を推進した。政府の委託を受けてリュールップ教授らがまとめた2003年の『積極的な人口開発のための持続可能な家族政策』報告書では、出生率の上昇と女性の就業継続(両立支援)に向けた具体策として、①保育施設の拡充、②両親手当の導入、③パートナー月の導入、の3つが提言され、以後の家族政策の源流となった。

続く第1次メルケル政権(2005~2009年)も、その流れを引継ぎ、2005年には終日保育拡充法(Tagesbetreuungsausbaugesetz)を施行し、需要に応じた保育の拡充を進めた。この時期に最大の転機となったのは、2007年に導入された「両親手当(Elterngeld)」である。それまでは、子どもが満2歳になるまで就業の有無に関係なく、原則として子ども1人につき月額300ユーロの「育児手当(Erziehungsgeld)」が支給されていた。しかし、この育児手当は、①支給額が少なく効果的な所得保障となっていない、②家庭内で主要な稼ぎ手である父親の休業が事実上不可能、③長期間にわたる育児休業や育児手当支給が母親の復職を困難にしている、等の問題点が指摘されていた。そこで、これらを解決するため、2007年1月以降に生まれた子から、新たに従前の手取り所得の67%(月額300~1,800ユーロまで)を支給する「両親手当」が導入された。同時に2カ月の「パートナー月(一方の親のみだと手当受給期間は12カ月だが、両親とも休業して育児をすると2カ月延長され、通算14カ月になる)」も導入された。これは両親が共に働き、共に育児する家族政策が成果を上げていた北欧諸国の制度がモデルになっている。両親手当は、①育児休業中の所得減少を手厚く補填(67%)することで労働者の出産・育児休業を促し、②パートナー月によって少なくとも2カ月間の父親の育児休暇を促し、③12カ月の支給期間制限によって母親の早期復職を奨励したのである。

第2次メルケル政権(2009~2013年)下では、2013年8月から「1歳以上の全ての子どもの保育を受ける権利」が保障されるようになった。これは“3歳までは親元で”という社会通念や親の仕事と育児の関わり方を大きくパラダイムシフトさせた。

第3次メルケル政権(2013~2017年)下でも、家族政策は進展を見せた。2015年には従来の両親手当をより個別に柔軟化し、母親と父親の家事育児の平等分担と早期の復職をさらに促すため「両親手当プラス(Elterngeld Plus)」が導入された。

2. 出産・育児休暇と手当の制度概要

(1)出産休暇 ―2018年改正で保護対象が拡大

母性保護法(MuSchG)に基づき、使用者は産前6週間から産後8週間の保護期間中は、妊婦を就労させてはならない。就労禁止期間中、当該の労働者(妊婦)が公的健康保険に被保険者本人として強制加入または任意加入している場合、母性手当(Mutterschaftsgeld)として、従前(就労禁止期間の開始前13週間または3カ月間)の賃金と同額(1日当たり平均賃金)を受給することができる。1日の受給額のうち最大13ユーロまでは疾病金庫が負担するが、残りは使用者が付加手当として負担する。なお、労働者(妊婦)が公的健康保険に加入していない場合は、就労禁止期間中の平均賃金相当額は、連邦保険局(Bundesversicherungsamt)から総額210ユーロの一時金が支給されるが、従前賃金との差額は、公的健康保険に被保険者本人として加入している場合と同様に、使用者が付加手当として負担する。

なお、母性保護法は2018年1月1日から改正法が施行された。一部は、2017年5月の公布直後から施行されており、①障がい児を出産した場合、従来の8週間から12週間へ産後休暇期間が延長(MuSchG6条)、②妊娠中と産後4カ月の解雇規制を、妊娠12週以降の流死産の場合にも適用(MuSchG9条)、の2点が変更された。この他、2018年の改正によって、従来の労働者(家内労働者も含む)に加えて、学生や職業訓練生等も保護の対象となった。

また、これまで個別に規定されていた公務員、裁判官、軍人も全て統一され、同じ保護水準が適用されるようになった。同時期の保険契約法改正(2017年4月11日施行)により、産前産後休暇中の現金給付が、公的保険同様、民間の法定医療保険にも義務付けられた。この他、妊娠中や授乳中の母親が安全に働ける環境であるかの確認(2018年末までに実施)が使用者に義務付けられた。同改正法は、妊娠中、出産直後または授乳中の労働者の安全衛生改善に関するEU指令(Directive 92/85/EEC)の国内法化に対応している。

(2)2007年の両親手当 ―父親の育休取得率、大幅に上昇

子と同一世帯で生活し、その世話や養育を行う労働者は、子が満3歳になるまで(36カ月間)育児休暇を取得できる。36カ月の両親休暇のうち24カ月を限度として、子が満8歳になるまで別の期間に休暇を持ち越すこともできる。両親休暇は、両親間で分担して別の期間に、あるいは一方の親が単独で、もしくは両親同時に取得することもできる。

また、連邦両親手当及び両親休暇法(BEEG)により、育児のために休業もしくは部分休業をする親の所得損失分を補填するため、子の出生前の手取り所得の67%(月額300~1,800ユーロまで)が両親手当として支給される。支給率の67%について、平均月間所得が1,200ユーロを超える場合は、超えた額2ユーロ毎に0.1%ずつ最低65%に達するまで引き下げられ、平均月間所得が1,000ユーロ未満の場合は、差額2ユーロ毎に0.1%ずつ最高100%に達するまで引き上げられる。例えば、出生前の月間所得が340ユーロだった場合、1,000ユーロとの差額660ユーロを2ユーロで割り、0.1を掛けて得られた33%が基準の67%に加算されて支給率100%となり、出生前と同額の340ユーロが支給されることになる。支給額は、母性手当や所得代替給付等が併給される場合は減額されるが、最低保障の月額300ユーロは減額調整の対象とはならない。多胎、きょうだい加算もあり、子が1人増えるごとに月額300ユーロが加算される。例えば双子であれば300ユーロ、3つ子であれば600ユーロが毎月加算される。3歳未満の子が2人、もしくは6歳未満の子が3人以上いる場合は、当該期間中、支給率が10%加算(最低額75ユーロ)される。

両親手当の導入によって、以前は3.5%に過ぎなかった父親の両親手当取得率が、34.2%(2014年に生まれた子)にまで上昇した。すでに説明した通り、両親手当は、片方の親だけが受給する場合は最大12カ月間支給される。もう一方の親も受給するとさらに2カ月延長され、通算14カ月間支給される。この追加の2カ月分は「パートナー月」と呼ばれ、もう1人の親が育児休業を取得しなければ受給権は消滅してしまう。ドイツの場合、受給期間を最大の14カ月間にしようとして「パートナー月」の2カ月だけ父親が育児休業を取得して両親手当を受給するケースが多い。実際、2016年の統計では、受給期間が2カ月だった父親の割合は取得者全体の79%に達していた。このように、父親の育児休業は大半が2カ月と短いものの、両親手当の導入によって男性の育児休業取得率は大幅に増加し、父親の育児参加が進んだ。

(3)2015年の両親手当プラス ―個別ニーズに応じた柔軟化

父親の育児参加の促進とともに、母親の早期職場復帰への推奨機能を果たしているのは、2015年7月に導入された「両親手当プラス」である。両親手当をさらに改善した制度で、2015年7月1日以降に生まれた子から「両親手当プラス(ElterngeldPlus)」制度の適用が可能になった。「両親手当プラス」は、親の選択肢が広がった反面、内容は若干複雑になっている。従来の「両親手当」でも短時間勤務との併用受給は可能だったが、時短勤務で得た収入の分だけ両親手当の受給額は減る仕組みだった。新しい「両親手当プラス」では、手当の半額を上限として、受給期間を最長28カ月に延長することができる(現行では最長14カ月)。これによって、短時間勤務をしても両親手当を満額受け取ることができる補正措置が設けられ、早期の職場復帰を希望する親のインセンティブを高める仕組みになっている。同制度の利用者は、導入後2年で13.8%(2015年第3四半期)から28.0%(2017年第3四半期)まで上昇した。この他に2015年の改正では、両親休暇と短時間勤務を組み合わせながら3回に分割して取得できるようになり(従前は2回)、個別のニーズに応じた柔軟な利用がさらに可能になった。

両親手当プラスは、母親にとってはより早期の職場復帰を可能にし、父親にとっては子どもと一緒に過ごす時間をより増やすことができるという制度設計になっている。連邦家族省(BMFSFJ)の委託調査(2016年)によると、調査対象者の3分の2に当たる67%が、さらに未成年の子を持つ両親に限ると4分の3に当たる73%が、両親手当プラスを「とても良い」と好意的に評価している。連邦家族相(当時)は、この調査結果を受けて「最近の母親と父親は、双方が“育児とキャリア”へ関与するライフスタイルを好む。両親手当プラスは、こうした仕事と家族に関する責任を分担しようとする両親を支援するものである。導入から多くの両親がこの新制度を活用し、より多くの父親が育児に参加していることを嬉しく思う」とプレスリリース上で述べている。

3. 両立支援にかかる諸政策

(1)政労使の取り組み

両立支援に欠かせない労働時間に関する取り組み等は、主に政労使が連携しながら実施している。「家族を意識した労働時間(Familienbewusste Arbeitszeiten)」構想は、連邦家族省の主導で2010年10月に開始したキャンペーンである。この目的は、母親により多くのキャリア形成機会を与え、父親により多くの家族時間を与えるために、より柔軟な労働時間を提供する企業を支援することである。2011年2月28日には政労使の代表者が「家庭に配慮した労働時間憲章(Charta für familienbewusste Arbeitszeiten)」に署名した。この憲章は、全ての利害関係者が家庭に配慮した労働時間を実現する機会と画期的な労働時間モデルをドイツのために積極的に活用することを目的としている。さらに2015年には、覚書「家庭と職場 ― 新しい両立(Familie undArbeitswelt-Die NEUE Vereinbarkeit)」を交わし、憲章からさらに前進した。覚書には、両立支援の前進指標の確認(例:母親の就業増加、保育設備の改善、企業における柔軟な労働時間に対する意識向上)、課題の特定(父親の家庭参加、女性の就業継続・再開支援、女性の労働時間を増やす支援)、ライフステージに応じた働き方(両立の実現)のために労使で指針を策定すること、等の項目が入っている。この覚書は、欧州社会基金が共同出資した企業ネットワーク「成功要因家族(Erfolgsfaktor Familie)」の活動の一環として策定されたものである。「成功要因家族」には、1,200超の企業が参加しており、ファミリーフレンドリーに関する推奨例(Good example)や情報等を提供し、職場におけるファミリーフレンドリーの課題に取り組むためのコンテストやイベントを開催している。さらに各地に約650のネットワーク「家族のための地域同盟」がある。このネットワークには、行政官庁、労使、財団、協会、職業安定機関(AA)、大学、保育事業者等が参加しており、家族関連サービス(例:地域の保育サービスや家族の介護をする労働者の職業教育)に関する情報提供をしている。

また、ファミリーフレンドリー企業に対する認定制度も1999年から続けられている。認定を希望する企業は、まず、「仕事と家庭」監査を申請する。申請を受けて独立機関であるヘルティ財団が、各企業のプロセスを審査し、目標設定、職場最適化アプローチを点検し、必要に応じて改善点を指摘した上で、基準を満たした場合に「ファミリーフレンドリー企業」として認定する。ドイツでは、大企業(従業員1,000人以上)の42%がこの認定を受けているが、従業員20人未満の小規模・零細企業の認定は8%に留まっており、こうした企業における取り組みの促進が課題となっている。

(2)州公共調達による企業の取り組み促進

州レベルで見てみると、両立のための環境醸成に影響を及ぼす「職場における男女平等の促進」という観点から、複数の州で公共調達制度を活用する動きがある。例えばブレーメン州の公共調達制度は、「男女労働者に対する同一労働同一賃金」の取り組みを企業に求めるとともに、落札額が同じ場合は「男女の機会均等」等に取り組む企業を優遇することが規定されている。具体的には、「公共調達における協約賃金遵守、社会的基準及び競争の確保のためのブレーメン州法(協約賃金遵守・公共調達法)」第4章18条(社会的基準及びその他の基準の考慮)第2項で「建設サービス、物品納入サービス及び役務提供サービスの調達の場合は、国際労働機関(ILO)第100号条約『同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約』(連邦法律公報1956年第II部24頁)等、ILO条約で定められている最低基準を無視して得られ、または製造された物品がサービスの目的物にならないように努めなければならない」と規定している。また、同条第3項で「建設サービス及び役務提供サービスに関する公共調達の場合に、経済的価値が同一の入札がある場合には、社会法典第9編第71条に基づく重度障がい者の雇用義務を果たし、職業訓練ポストを提供し、初期職業訓練の確保を目的とする労働協約による賦課制度に参加し、または職業訓練同盟に参加する入札者が落札する。このことは、雇用における男女の機会均等を推進する入札者に対しても同様に適用される」としている。同条第5項では「第3項の規定による前提条件の証明として、入札者は管轄機関の証明書を提出しなければならず、または雇用における男女の機会均等をどのように推進しているかを説明しなければならない」と定めている。

この他にもベルリン州では、公契約の締結や補助金の支給の際に、女性の地位向上に取り組む企業を優遇する規定があるほか、ブランデンブルク州や、ザールラント州、テューリンゲン州にも公契約に関して同様の規定がある。

4. 直近の動向 ―「復帰権」の導入に向けて

ドイツでは現在、「両親手当・両親時間法(BEEG)」や「介護時間法(PfZG)」、「家族介護時間法(FPfZG)」に基づき、一定の要件を満たす労働者は、「育児や介護」を理由とした労働時間短縮請求権と、その後、元の労働時間に戻って働くことができる「復帰権(Rückkehrrecht)」が認められている。他方、2000年に制定された「パートタイム・有期労働契約法(TzBfG)」には、この「復帰権」が認められていない(図2)。同法(TzBfG)に基づき、労働者は理由を問わないフルタイムからパートタイムへの労働時間短縮請求権は認められている。しかし、再び元の労働時間への復帰を希望した場合、使用者の義務は「企業内に空きポストがある場合の情報提供(TzBfG7条2項)」と「優先考慮(同9条)」のみで、復帰そのものは義務付けられていない。そのため「両親手当・両親時間法」や「介護時間法」、「家族介護時間法」の要件に該当しない労働者が、パートタイムへ移行したまま元の労働時間に戻れない状況が続き、課題となっていた。

図2:パートタイム(労働時間短縮)移行に関する現行制度の概要
画像:図2

資料出所:BMAS(2018)

このような事態を改善するため、第3次メルケル政権(2013-2017)では、パートタイム・有期労働契約法(TzBfG)に基づいてパートタイム(労働時間短縮)に移行した労働者にも、法改正で「復帰権」を認めることが予定されていた。しかし、最終的に使用者の強い反発で閣議決定には至らず、第4次メルケル政権へ持ち越された。なお、同改正法案は、第4次産業革命を見据えた労働・社会政策を模索する対話プロジェクト「労働4.0(Arbeiten 4.0)」において、「各人のライフステージに応じた労働者主権に基づく柔軟な労働時間決定」の実現に向けた重要法案としても注目されていた。そのため、法改正の頓挫は地元メディアで大きく取り上げられた。

その後、2018年3月に発足した第4次メルケル政権は、再び同制度の早期改正を目指している。発足直後の4月17日に政府草案(Referentenentwurf der Bundesregierung)を公表し、6月13日に閣議決定されている。公表された草案の骨子を見ると、当該労働者が6カ月を超えて雇用関係にあり、45人を超える従業員を擁する企業で働いている場合、一定期間(1年~5年以内)、元の労働時間を短縮してパートタイムで働き、期間満了後に再び元の労働時間(vorherigen Arbeitszeit)に戻って働くことが可能になる。また、この新たな権利は「育児や介護」といった特定の事由が存在する場合に限らず、「理由を問わず、請求することが可能(ただし、企業規模に応じて申請の上限許容数あり)」である。改正法は、順調に進めば2019年1月1日からの施行が予定されている。

おわりに

以上見てきた通り、ドイツでは戦後の東西分裂を経て、保育事情や女性の就業状況に地域的な相違が見られる。また、統一後の1990年代には、育児休業や手当給付の期間が延長されたが、これが結果的に母親の長期離職と職業中断につながった反省から、2000年代以降は、母親の早期復職と父親の育児休業取得を同時に促進している。特に2015年に導入された「両親手当プラス」は、両親休暇期間中に、両親手当の受給額を減額されることなく短時間勤務ができる仕組みを作り、制度利用率は導入後2年間で13.8%から28.0%まで上昇した。

両立支援策については、政労使による取り組みのほか、州の公共調達制度による企業の取り組み促進などが行われている。また、出産・育児を含む様々な理由から労働時間を短縮してパートタイムへの移行した労働者が、元の労働時間に戻れずにいる問題を解決するため、「復帰権(Rückkehrrecht)」の導入に向けた法改正審議が行われている。早ければ2019年に施行される予定である。

参考文献

参考レート

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