労働運動の再生:アメリカ
解説/AFL-CIOの分裂とその背景

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2005年9月

分裂をめぐる大会前後の動き

低落を続ける組織率への危機感を背景に、SEIUなどAFL-CIO傘下の主要5組合は、組織化の取り組みが不十分であるとAFL-CIOを批判し、05年6月、CWCを結成した。両者の主張は組織化を最重要課題とする点では同じであったが、政治活動へのスタンス、傘下組合への組織化予算再分配の比率など複数の争点について溝が埋まらず、CWC加盟の4組合(SEIU、チームスターズ、UFCW、UNITE-HERE)は7月24日、翌日からのAFL-CIO大会のボイコットを発表。続いて大会初日の25日にSEIUおよびチームスターズが、大会終了後の29日にはUFCWがAFL-CIOからの脱退を表明し、AFL-CIOは、組合員の約3分の一を失うことになった。

大会初日、スウィニー会長はボイコットした組合を強く非難し、「大会に出ないのは、組合員と全ての労働者に対する耐えがたい侮辱」「企業や保守派の政敵が、この国始まって以来最も強力な反組合体制となっている現在、労働運動の分裂は労働者とその家族のよりよい生活への希望を踏みにじるもの」と述べた。

その後大会では、スウィニー会長、トラムカ会計、チャベスートムプソン副会長が27日、いずれも無選挙で再選された。会長選挙では、UNITE-HEREのウィルヘルム会長がスウィニー会長の対立候補として想定されていたが、UNITE-HEREが大会をボイコットしたため、十分な対立候補が擁立されずスウィニー会長の再任が決まった。

【CWCとは】

CWCに加盟した労働組合はCWCの現在以下の7つであり、傘下組合員は合計で約700万人に上る。初代議長はアンナ・バーガー(SEIU書記長)、初代書記長はエドガー・ロムニー(UNITE-HERE上級副会長)である。

  1. チームスターズ/IBT(140万人)
  2. 国際建設労働組合/LIUNA(80万人)
  3. 縫製・繊維労組・ホテル・レストラン従業員組合/UNITE-HERE(45万人)
  4. 全米サービス従業員労働組合/SEIU(180万人)
  5. 全米食品・商業労働組合/UFCW(140万人)
  6. 大工・指物師合同友愛会/CJA(5.2万人)
  7. 全米農業労働者組合/UFWA(3.1万人)

以上は、CWCのウェブサイトより引用。なお、UNITE-HEREとLIUNAはAFL-CIOから脱退の手続きをとっていない。

AFL-CIOとCWCの違い

両者ともアメリカ労働運動の再興を目指しているが、構成員が異なるため主張にも自ずと違いが生じる。CWC側はサービス産業を中心として、ビル清掃員など、不法移民を含む賃金・労働条件が最下層の労働者を組織化の主な対象とし、最低賃金水準の向上と、社会保障の付与によって生活基盤の安定を目指している。一方、AFL-CIO主流派あるいはCWC以外の産業別労働組合は鉄鋼や自動車等の業種や公共セクターが中心であり、組合員は既にある程度の生活水準を達成したミドルクラスが中心である。彼らの主張は、健康保険や年金といった既得権の維持、アウトソーシングを促進する自由貿易協定への反対などである。CWCとAFL-CIOの間では、組織化の意味や対象、予算の使い道や重要性に相違が生まれる。

組織化が最重要課題に上がる背景~組織率の動向と産業構造の変化
アメリカの組織率の推移を見ると、AFLとCIOが合併した1955年以来、70年代にかけて増加傾向にあり、74年頃にピークに達した後は、低落傾向が続いている。(図参照)製造業の衰退、サービス業の急成長という産業構造の変化が組織率の低下に大きく影響しており、自動車等の製造業では組合員が大幅に減少しているが、改革の先頭に立ったSEIUは大幅に組合員を増やしている。今後就労者増が予測されるのも、サービス業が中心である。また、長引くイラク戦争も組合員の減少と無関係ではない。危険と直面している兵士は、予備役として企業から派遣されていることが多く、派遣元の企業では労働組合員である。AFL-CIOは今回の大会において、イラクからのアメリカ軍の即時撤兵を訴えることを決議した。

最重要課題である組織化への取り組み

AFL-CIOのスウィニー会長は大会初日の演説の中で、組織化を最重要課題として、ウォルマート、コムキャスト、クリアチャンネル、トヨタの四社を名指しし、全力を挙げて組織化に当たるとの決意を表明した。ウォルマートはAFL-CIOにとってこれまでも重点的組織化対象であったが、在米日本企業がAFL-CIO会長から名指しされて組織化対象に挙がったことは初めて。また大会において、執行部は、従来の政治を利用して活躍の場を広げる手法から、組織化の拡大に重点を置いた「歴史的転換」を行うと述べた。具体的には、組織化対策に2250万ドルを投じ、10万の組合役員への教育を行うとしている。

日系自動車メーカーの組織化問題

全米自動車労働組合(UAW)は日系自動車組み立て工場に対し組織化攻勢をかけているが、日系自動車メーカー側は組合忌避策をとり、組織化に激しく抵抗している(注1)。一方、米国における日系自動車メーカーの市場シェアの拡大と、GMほかビッグスリーの市場シェアの縮小は留まる様子を見せない。非日系自動車メーカーの市場シェアの縮小は、業績の低迷によりアウトソーシングや人員の削減をもたらし、最終的に労働組合員数の減少につながる。更にGMやフォードは日系メーカーの躍進による業績の不振から、健康保険の負担に関し組合側の譲歩を引き出そうとしており、UAWは、既得権を守るため、未組織企業の組織化を急務としている。コーネル大学のハード教授は、日系自動車メーカーにおける組織化が進まない理由として1)好条件の待遇、2)日本的経営導入による会社への忠誠心、3)組合運動が盛んでない南部地域への工場設置――を挙げ、打開策を講じなければ、UAWは衰退を続けるであろうと警鐘を鳴らしている。なお、この件に関する日本の自動車総連のスタンスは、下記の通り。(「組織化における労組の国際連帯―その重要性と自動車総連のスタンスー(PDF:611KB)」海外労働時報2001年12月号No.318より引用)

自動車総連の海外日系事業体組織化に対するスタンス

以下はわれわれが従来から堅持している3点のスタンスである。

  1. 自動車総連は、「未組織労働者は組織化されるべきである」と考えている。労働者の団結は「労働者の権利」を守るために不可欠であり、建設的な労使協議を通してこそ、健全な企業・産業の発展、またバランスのとれた社会の実現が可能であると考えている。
  2. 自動車総連は、海外日系事業体の組織化は現地従業員の自由意志に基づき、第三者の影響を受けることなく、民主的な方法で決定がなされるべきであると考えている。
  3. 自動車総連は、海外日系事業体の組織化が実現される時には当該国のIMF(国際金属労連)加盟組織による組織化が望ましいと考えている。世界の労働運動にはいくつかの勢力があるが、自動車総連は民主主義に基づいた健全な社会、また世界の安定と発展を目指すIMFの理念に賛同し、その構成組織のひとつとして国際連帯運動に参加している。

組織化対象として筆頭に上がるウォルマート

「いつも低価格」をモットーとし、世界最大の小売業で、かつ世界最大の売り上げを誇るウォルマートは、アメリカだけで130万人以上の従業員を有するが、組合はない。かつて民間の最大の雇用者はGMであったが、今やウォルマートに変わった。そこでUFCWが中心となり、数年に渡りウォルマートに対する組織化を試みている。

2000年にはテキサス州のウォルマートのある店舗で、食肉裁断部門が組織化に成功したが、会社側はその1週間後、全社レベルでその部門を段階的に廃止すると発表した。同社が徹底した組合忌避策を取る理由は、組合が要求する労働条件の向上と、限りないコスト削減によって成り立つ同社のビジネスモデルとが相容れないと予想しているからと言われる。AFL-CIO大会では、世界の労働組合が協力してウォルマートなどグローバル大企業の組織化に当たる必要があると指摘する声が相次いだ。また、ウォルマートが進出してくると、同じ地域内の組合がある他のスーパー従業員の労働条件が引き下げられるとして、UNI(注2)(ユニオン・ネットワーク・インターナショナル)などは、世界各地でウォルマート出店反対活動を行っている。

脱退組合の地方における共闘の行方

AFL-CIOの地方組織には、全国に約50存在する州同盟と、同じく全国に約500存在すると言われる地方労働組合評議会があり、組織化や政治活動などにおいて中心的な役割を担っている。大会最終日には、脱退した組合の排除方針が発表され、州同盟と地方労働組合評議会から脱退組合やその出身役員を排除することになった。SEIUやUCFWは、脱退後も共通目的については地方における共闘を模索する姿勢を見せていたが、AFL-CIO執行部側が全面的に拒否した形である。

地方組織においては、脱退側労組が組合員の半数を超えるところもあり、そのような労働組合からは物的・人的資源への不安が訴えられた。それを受けて、8月10日、スウィニー会長は執行部に対し、脱退組合の出身者でも条件付でAFL-CIOの地方組織に参加できるとする内容の提案を行った。本提案をするにあたり、スウィニー会長は、「産別のリーダーがAFL-CIOから離脱したのは地方の組合員の責任ではない。労働者は草の根の労働運動の利益を享受すべきだ」と述べた。一方CWCはこの提案に反発。AFL-CIOは団結を強調しながら、その実、脱退組合出身の組合員が地方組織のトップになることを禁じたり、組合費に差を設けるなど、地方組織に不要な分断をもたらそうとしていると批判した。今後の地方組織の行方については動きがあり次第、別稿にて報告する。

民主党との関係~戦略的選択を行って、集中的に資源を投入する案を採択

大会において、民主党支持のあり方に関する改革案が26日に提案され、可決された。これは、2004年の大統領選挙敗北の反省に基づくものである。これまで大統領選挙活動では、AFL-CIOの各州支部が資金と人材の決定権を握っており、全米レベルでの戦略はなかった。今回、民主党と共和党の勢力が拮抗する州とほとんど勝ち目のない州とで、同様に資源を投入したことが敗因と分析され、中央レベルで集中的に資源を投入する州を戦略的に選択する必要があるとの結論に至った。

労働組合を最大の支持母体とする民主党は、AFL-CIOの分裂により大統領選挙や州レベルの選挙の力学が大きく変わることになるとして危機感を募らせている。民主党の大統領候補は今後、AFL-CIOとCWCの2つの対立する労組連合からの支持を求めなければならず、あるいは、2つの連合が、それぞれ異なる候補を推すケースも予想される。一方、共和党は、AFL-CIOの分裂は労働者運動の衰退をもたらすと同時に、同党が労組票を取り込む絶好の機会でもあるとして、これを歓迎している。

苦戦を強いられる組合、新時代の組合に求められるものとは

7月27日付けウォールストリートジャーナル紙は分裂の要因として、製造業の衰退とサービス業の成長というアメリカ経済の変化を挙げ、労働組合も時代の変化に適応した新しい戦略が必要と指摘している。労働者と企業をめぐる状況について同紙は、「労働組合は、グローバル化等がもたらした工場の海外移転やホワイトカラーの業務のオフショアリングから労働者を保護できていない。一方、企業もカフェテリア式福利厚生を提供するなど、従業員に労働組合の必要性を感じさせない取り組みに成功している。」と解説している。同紙はまた、実力主義を基本とし、組合による労働条件の向上を必要としないハイテク企業や若手従業員一般の特徴を上げ、組織化を困難にする要因の一つとして指摘している。組織率が低下の一途をたどるなか、労働者を巡る環境はグローバル化の影響を受けて大きく変わり、それにつれて労働者が組合に求めるものも大きく変容を遂げた。これからの組合が新時代に合った必要なサポートを労働者に提供できるかどうかが問われていると言える。

参考

  1. 1米ドル=109.72円(※みずほ銀行ウェブサイト新しいウィンドウへ2005年9月5日現在のレート参考)

AFL-CIOの分裂とそれが示唆するもの

  1. インタビュー
    AFL-CIOの分裂が日本の労働運動に示唆するもの
    高橋均/連合副会長
  2. 寄稿
    前進のための後退なのかーAFL-CIOの分裂
    五十嵐仁/法政大学大原社会問題研究所教授
  3. 寄稿
    過去の栄光に倣っても、その歴史の風刺しか生み出さない
    ネルソン・リヒテンシュタイン/カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
  4. 寄稿
    AFL-CIOの分裂
    ケント・ウォン/カリフォルニア大学ロサンゼルス校、労働研究教育センター所長
  5. 寄稿
    AFL-CIO分裂劇に見る二つのアメリカン・ドリーム
    山崎憲/労働政策研究・研修機構を一時休職し、現在外務省よりの委嘱を受け、同省より専門調査員として在デトロイト日本国総領事館に派遣中
  6. 解説
    AFL-CIOの分裂とその背景

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