労働運動の再生:アメリカ
インタビュー/AFL-CIOの分裂が日本の労働運動に示唆するもの

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2005年9月

連合副事務局長 高橋均

今回のAFL-CIOの分裂は、日本の労働運動にどのような示唆を与えるのか。日本のナショナルセンター・連合からは、海外来賓として高橋均副事務局長他がAFL-CIO大会に参加した。高橋副事務局長にAFL-CIO分裂についての評価や、今後の焦点について話を聞いた。

―AFL-CIO分裂の背景についてどう見ているか。

分裂に至った引き金としてよく言われるのは、大統領選挙における2000年、2004年の敗北である。2004年の大統領選挙では、AFL-CIOは組織を挙げて民主党ケリー候補を応援したが、敗北した。組織率が低下し、労働運動が政治的な影響力を失ったことがその要因との指摘がある。このことから勝利のための変革連合(CWC)は、政治献金でなく、組織化に資源を集中すべきと主張し、今回の脱退劇に踏み切った。今回の出来事は、一見、組織化のために根源的な変革を求めて、改革派が保守派を見限りAFL-CIOを脱退したように見えるが、必ずしもそれだけとは言い切れない。CWC、AFL-CIO執行部とも内部に改革派・保守派が混在しており、単純に色分けできない。

―CWCは具体的にどのような改革を主張しているのか。

スウィニー会長は10年前に組織拡大を旗印にのろしを上げたが、組織率はその後も低下を続け、十分な成果を挙げられなかった。CWCは、多国籍企業(フェデックス、ウォルマートなど)に対する組織化戦略を打ち出せていないのがその原因とし、スウィーニー会長のリーダーシップではこの現状を脱却できないと主張する。

―組織化の対象としてはどこがターゲットに上がっているのか。

現地では、ウォルマートへの風当たりが最も強いように感じた。国際自由労連(ICFTU)会長、英国労働組合会議(TUC)書記長、カナダ労働会議(CLC)代表などの海外来賓が口を揃え、議題「グローバルエコノミー」との関係で、ウォルマートの組織化を訴えていた。AFL-CIO執行部は、大会の場でウォルマートの組織化に関わっているSEIUとUFCWの引きとめを意図していたのであろうが、実際は両組合がボイコットしてしまった。このほか、トヨタをはじめとして、組織化が進んでいない日系企業への風当たりも強いという感を持った。

―組織化の現場では何が起きているのか。

組織化に努力を傾注しても、会社側の組合忌避策により組合つぶしが横行し、組織化は思うように進んでいない。一番望ましいのは、組合承認選挙をせずとも、労働者の過半数を組織し、会社にそれを承認させること。それが無理でも次の一手は、組合の承認選挙を行う時に、企業と中立協定を結び、承認選挙を邪魔させないことである。SEIU、 縫製・繊維労組―ホテル・レストラン従業員組合(UNITE-HERE)の草の根の活動を見ると、マイノリティをターゲットとし、スペイン語をはじめ組織化対象者の言語が話せるオルグの育成を手がけ、オルグの8割は女性が占めるなど、一生懸命活動しているとの印象を持っている。

―組織化に成功しているSEIUはどのような特徴を持つのか。

SEIUの組織化はビル清掃や介護労働など比較的低労働条件の業種を地域的かつ産業横断的に、きわめて戦略的に進めている。そして着実に成果を上げている。しかし一方でこんな批判も聞かれる。イリノイ州の保育労働者の組織化では、SEIUが組合の承認選挙で代表権を得ることに成功した。その際、使用者である州政府が組合承認選挙を妨害しない代わりに、州の共和党知事候補をSEIUが支持したこと、そして交渉の結果、他の公務員には保障されている健康保険や年金の権利を保育労働者は得られないという条件を受け入れた、という。これに対して、公務員を組織するアメリカ州郡自治体従業員組合連合(AFSCME:American Federation of State, County and Municipal Employees)は、この労働条件変更が他の公務員に波及するとして懸念を示し、SEIUは組織化のためには、なりふり構わずか、と批判している。また、SEIUやチームスターズは中央集権的官僚組織で、民主主義を尊重していないとの指摘もある。すなわち、地方組織が中央の意向に沿わない動きをすると、執行権を停止し、本部が直接信託管理してしまうことへの不満だ。SEIUの今後の課題は、草の根の民主性と、機動的なトップダウンの組織化戦略とのバランスであろう。

―今回の分裂についてどのように評価をするか。

米国内にも様々な見方があるようだ。1)この状況下での分裂は、労組への裏切り行為である、断じて許せない、2)労働運動は危機を迎えており、座して死を待つよりスターンSEIU会長の新しい動きに賭けた方がよい、3)労働組合の草の根の活動が行われる地方組織(州同盟、地方労働組合評議会)からすると、中央の脱退劇はよく分からない、4)子供じみた指導者同士の争いであって、これは改革論争ではない――などの声がある。またチームスターズは、過去、AFL-CIOから除名された時、縄張りにとらわれずに組織化を進め、組織を拡大したという経緯があるとも伝えられている。今回も、AFL-CIOを脱退したことで、縄張りにとらわれずに組織化できる分、得だという見方もある。連合としては、地方の共闘の行方が不明な現在では、分裂について評価をするのは時期尚早であると思う。

―今後の焦点はどこにあるのか。

組織化にしても政治活動にしても、実際に活動が行われるのは地方であるため、各産別の地方組織の共闘の行方が注目される。地方の活動は、これまでのUNITEとHEREの合併を見ても、あまり影響を受けていない。この点、日本の地方組織とは性格を異にしている。スウィーニー会長は大会最終日、まだ脱退はSEIUとチームスターズの2組合のみという状況で、脱退組合に所属する組合員によるAFL-CIO地方組織への活動参加を禁止するなどの措置を決定。8月分以降の組合費の受け取りを拒否し、その影響を本部に報告するよう指示した。また、予想される財政状況の悪化を理由に4セントの引き上げを発表した。CWCに参加を表明しているものの、AFL-CIO脱退の手続きを未だ踏んでいないUNITE-HERE、 国際建設労働組合(LIUNA)、全米農業労働者組合が今後脱退するのか、また組合費ベースでどれだけ収入が減るのか、今後の影響を見極める必要がある。

―国際労働運動に及ぼす影響はどうか。

財政的にはICFTUの会費問題への影響は不可避だろう。しかし、アメリカの労働組合の国際対応という観点では、各産別がGUF(注1)(グローバル・ユニオン・フェデレーション)に加盟しており、あまり負の影響はないのではないか。SEIUは国際運動に積極的で、ここ半年、脱退を想定して地ならしをしてきたと見られる節もある。脱退組合は、多国籍企業の組織化を視野に置き、様々な国際活動を進め、いずれCWCとしてICFTUに加盟しようとしているのではないかと私は踏んでいる。

―アメリカのナショナルセンターの分裂という大事件は、日本の労働運動へ何らかの示唆があるのか。

日本の労働運動に直接影響があるとは思えない。ただし1930年代に未熟練労働者の組織化に成功し、CIOがAFLから脱退したときと今日の状況を重ね合わせるという前向きな見方をする人もいる。CWC側が低労働条件で働いているマイノリティの底上げ、組織化に成功しているという面で、類似性がなくもない。パートや派遣、請負といった非正規の新しい勢力を既存の組合がカバーしうるのか、という観点ならば、今後の教訓として位置付ける価値はあると思う。

(聞き手:国際研究部調査員吉原夕紀子)

注1

AFL-CIOの分裂とそれが示唆するもの

  1. インタビュー
    AFL-CIOの分裂が日本の労働運動に示唆するもの
    高橋均/連合副会長
  2. 寄稿
    前進のための後退なのかーAFL-CIOの分裂
    五十嵐仁/法政大学大原社会問題研究所教授
  3. 寄稿
    過去の栄光に倣っても、その歴史の風刺しか生み出さない
    ネルソン・リヒテンシュタイン/カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
  4. 寄稿
    AFL-CIOの分裂
    ケント・ウォン/カリフォルニア大学ロサンゼルス校、労働研究教育センター所長
  5. 寄稿
    AFL-CIO分裂劇に見る二つのアメリカン・ドリーム
    山崎憲/労働政策研究・研修機構を一時休職し、現在外務省よりの委嘱を受け、同省より専門調査員として在デトロイト日本国総領事館に派遣中
  6. 解説
    AFL-CIOの分裂とその背景

2005年9月 フォーカス: 労働運動の再生

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