労働運動の再生:イギリス
TUCの組織化戦略

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2005年9月

TUC(英国労働組合会議)が「新組合主義(New Unionism)」の組織化戦略に基づいて1998年に設立した「組織化アカデミー(Organising Academy)」が一定の効果をあげ始めている。現在までに養成した約150人のオルグが、3万人を超える新たな労働組合メンバーを組織化することに成功したという。

「新組合主義」の登場

TUCが新たな組織化戦略として「新組合主義」を打ち出したのは、1996年の大会。歯止めのかからない組織率の低下が背景にあった。サッチャー元首相が就任した1979年当初の1200万人をピークに組合員はじりじりと減少を続け、現加盟人員数はほぼ半減の650万人。保守党政権下の18年間は、労組にとっての冬の時代と言われるが、この間労組の切り崩しと産業構造の変化が重なって組織は弱体化した。組織率も20%前半にまで落ち込むなど影響力の低下も著しく、長期低迷傾向が続いていたが、そこに対応して出てきたのが「新組合主義」であった。

「新組合主義」は複線戦略(twin track strategy)から構成されると言われる。第一の戦略は既に労働組合が承認されている場合で、その組織基盤をより強固にするもの、第二は新しいフィールドを開拓するもの。後者は特にグローバル化する労働市場で保護が遅れているとされる弱い層、すなわち女性層、マイノリティー層、若年者層、小規模企業層、低賃金層、非典型雇用層―などを対象としていることが特徴だ。こうした層への具体的な組織化戦略として考案されたのが「組織化アカデミー」だと言える。

「組織化アカデミー」に寄せられる期待

自前でオルグを養成できる輸送一般労組(T&G)や全国都市一般労組(GMB)など大労組以外の中小16組合が中心となり設立に関与したとされる。「アカデミー」のコンセプトは、既存の組合員へのサービス提供に力点をおく従来型のオルグ手法から脱し、新しいフィールドにおける未組織労働者の組織化に力点をおくことにある。そしてこの戦略のコンセプトは、厳選された訓練生たちのバックグラウンドにも反映されている。第一期生の54名は9割近くが組合員だが、この内63%が30歳未満、5%が女性で、半数近くが労働・社会運動、学生運動などの経験があるという。そしてここで養成された新しいタイプのオルグたちが、自由な発想で組織化キャンペーンの企画・推進を行う。2004年12月JILPTの国際フォーラムで講演したTUCのブレンダン・バーバー書記長は「白人男性で、使い古された、顔色のよくない老人という従来の英国組合リーダーのイメージ像をアカデミーを卒業したオルグたちが変える」と言い切った。このプログラムに参加する訓練生は現在200名を超える。新しい時代の組織化の切り札として労働界の寄せる期待は大きい。

参考資料

  1. TUCウェブサイト新しいウィンドウへ小笠原浩一(1999)
  2. 「イギリス労働組合会議(TUC)のパートナーシップ戦略」大原社会問題研究雑誌No.490/1999.9
  3. 天瀬光二(2005)「英国労働運動の挑戦」ビジネス・レーバー・トレンド2005年2月号

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