労働運動の再生:フランス
労働組合の再生

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2005年9月

伝統的な「低組織率」

フランスの労働組合の特徴のひとつに、「低組織率」が挙げられる。1960年代半ばから70年代半ばまでの「労働運動の黄金時代」でさえも、組織率は25%を超えたことはない。フランスの組合の組織率は、伝統的に低いといえるが、運動の高揚期を過ぎると、その傾向はさらに強まる。70年代半ばから90年代半ばまでに、組織率は20%台前半から9%へ、組合員数は400万人から210万人へと著しく減少した。

こうした20年という長期にわたる深刻な組合離れの原因として、組合構造のあり方が指摘されている。フランスの労働組合は、活動家(リーダー)を中心とした小規模集団のような組織のため、中心となっている活動家が組織(組合、支部)を離れると、組織そのものが一挙に機能停止に陥ったり消滅したりすることが多い。こうした、「『組合員の組織』というよりも『活動家(リーダー)の組織』」という組合構造のあり方が、「労働組合の危機」を招いたとされる。

組合の活性化、一方で進む分裂・再編

しかし、1995年11~12月の社会保障改革をめぐる公共部門の大争議を契機に、組合員数及び争議数が増加するなど、労働組合は活性化の様相を呈す。例えば、CFDT(フランス民主労働同盟)の組合員数は、88年の53万6000人を底として、2001年には86万5000人という、80年代半ばの水準にまで回復。94年に63万3000人にまで落ち込んだCGT(フランス労働総同盟)も、90年代後半から増加傾向を見せ、03年3月の大会議案書によれば、「70万人近く」に回復した。この背景には、1)90年代末からの好景気、2)組織再建や組合員獲得に向けた組合の取組み、3)「週35時間労働法」のように、労働組合を交渉当事者に位置付けて、時短と雇用創出の促進を図った政府の労使関係政策の効果――があるとされる。

ところが、こうした活性化の一方で、90年代以降、運動理念の対立による組織の分裂や再編が進んだ。特にCFDT系の公共部門労組からの分裂・脱退が目立つ。こうした大労組から分裂した組織は、独立系労組とも連携し、代表性をもつ新たなナショナルセンターを目指している(注1)。この背景には、これまでの「異議申立型」の労働運動から、「提案型」路線を強めた同労組の新たな動きへの反発があるといわれる。

団体交渉の枠組みの見直し

このように、90年代半ば以降、新たな動きが出始めたフランスの組合だが、組織率については、現在でも8%前後といわれ、「低組織率」という特徴に大きな変化は現れていない。こうしたなか、2004年5月、「職業訓練と社会的対話に関する法律」が制定された。

同法律により、全国レベル及び業種別レベルの労使交渉について、今後は「多数決原理」が導入されることとなった(注2)。つまり、5大労組(注3)のうち、1労組が使用者側に同意しても、他の4労組のうち3労組が、反対の意志を表明した場合には、交渉は成立しないことになる。これまでは、代表性を有するCGTやCFDT等の5つの労組のうち、1つでも使用者側と合意に達すれば、交渉は成立していた。しかし、極端に低下している組合の組織率を背景に、このような団体交渉のあり方は、人々に受け入れられなくなってきており、組合側も「多数決原理」の導入を認めざるを得なかったといえる。

社会経済状況の変化とともに、組合を取り巻く環境もまた変化している。こうした変化に対応しながら、90年代半ば以降の新たな動きが、今後どのように展開していくのか注目される。

参考

  1. 松村文人(2002)「フランス 広がりを見せる企業交渉」『海外労働時報 2002年6月号 No.325』日本労働研究機構
  2. 「国際講演会:最近のフランスの労働事情-変容する労使関係と35時間労働制-」『海外労働時報 2002年10月号 No.329』日本労働研究機構
  3. J・ワディントン、R・ホフマン編/小川正浩訳(2004)『ヨーロッパの労働組合グローバル化と構造変化のなかで』生活経済政策研究所

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