中国、家事代行サービスの品質向上と技能訓練強化
中国商務部など9部門は4月9日、国民の高品質な生活サービス需要に対応するため、「家事代行サービスの消費拡大・グレードアップの促進に関する若干の措置(注1)」を発表した。同措置では、家事代行新サービスの導入と高度化、農村労働力の活用、人材育成および就職支援、社会保険の整備などを含む、家事代行サービス産業に関する12項目の具体的な施策が示された。
新サービスの導入と高度化
家事代行サービス産業の品質向上に向けて、政府は、専門的な清掃や整理収納、空気浄化、栄養コンサルタントなど新サービスへの展開を促進するほか、住宅関連業種との連携を強化し、サービスの多様化と高度化を図る。また、デジタル技術の活用により、サービス提供の最適化と利用者の関与高めていく。
農村労働力の活用
政府は、家事代行サービスを通じた農村振興の一層の推進に力を入れる。具体的には、家事労働力を送り出す地域と受け入れる地域との間で、需給のマッチングを強化するとともに、各地域の特色を活かした「家政労務人材ブランド」の形成・育成への支援を充実させる。
産学連携で人材育成と就職支援
人材育成では、産業(企業)と学校(教育)の協力体制を整える。具体的には、企業と高等職業学校が連携し、実習拠点の整備など現場に即した取り組みを進め、家事代行サービス分野で求められる専門知識と高い職業意識を持つ優れた中堅・上級の技能人材の育成を目指す。
そのうえで、家事代行サービスの技能水準向上に向けて、業界の動向分析や人材ニーズを把握し、地域ごとの実情に応じて人手不足職種のガイドラインを作成し、就業訓練を通じた労働者の就労促進を後押しする。さらに、職業訓練と現場ニーズを結びつける「雇用直結型研修システム」の構築に加え、「家事信用調査」プラットフォームを活用した家事代行労働者の技能向上や、無料オンライン訓練の充実にも取り組む。さらに、女性を主な対象とした多様な職業訓練を複数レベルで展開し、担い手の層の拡大を図る。
保険制度の整備
家事代行労働者の就業環境整備として、政府は保険加入の支援にも乗り出す。全国の家事代行サービス信用情報プラットフォームに実名登録し、「家事支援訪問サービス証」を有する家事代行労働者を対象に、企業が傷害保険や専門職業人賠償責任保険に加入しやすくなるよう制度整備を進める。また、社会保険制度の活用を推進し、企業や従事者に対しては社会保険加入を働きかける。特に、条件を満たすフレキシブルワーカーに対しては、就業地での社会保険加入を確実に実現させる方針である(注2)。
職業技能訓練特別行動の実施
家事代行サービスの職業化と多様化するニーズへの対応などを目的として、人力資源・社会保障部など6部門は5月7日、『家事代行サービス職業技能特別訓練行動の実施に関する通知(注3)』を発表した。2025年から2027年にかけて、家事代行サービス分野の就労を希望する者や、すでに従事している人を対象に、関連職種の技能訓練を広く展開する。年間150万人の受講を目指し、その内訳として補助金を活用した訓練約90万人、工会(労働組合)主催の訓練約10万人、女性向けの家事技能向上を目的とする訓練約20万人、教育機関による訓練約30万人を見込んでいる。これらの取り組みにより、家事代行サービス品質の向上と人材育成を図る。
同通知では、以下の(1)「職務ニーズ」、(2)「技能訓練」、(3)「技能評価」、(4)「就業支援」の4つのモデルを採用し、多様な訓練ルートおよび段階的な訓練体制の整備を求めている。また、労働者の訓練や就労希望を踏まえ、多様なニーズに対応した訓練プログラムを作成し、適切な訓練機関に委託の上うえ、補助金を活用した訓練を実施するとしている。
(1) 職務ニーズの把握
各級の人的資源・社会保障機関や教育機関、工会(労働組合)、婦女連合会などが連携し、公共就業サービス機構や支援プラットフォームを活用し、労働者の就職希望や訓練ニーズを広く調査する。求職や訓練を希望する労働者の情報を正確に収集し、効果的な支援の基盤とする。
(2)技能訓練計画の策定と実施
各級の人力資源・社会保障部門は、多様な訓練ニーズに対応し、教育、商務、工会(労働組合)、婦人連合会と連携し、実効性ある技能訓練計画を策定・公表する。また、職業学校、公的実習拠点、家政関連企業などの優良訓練機関を選定し、補助金を活用した訓練の実施主体とするとともに、教育機関や労働団体、婦人団体のニーズにも対応する。参加促進のため、政府系ウェブサイトや教育プラットフォーム上に情報を集約し、「家政技能訓練ナビマップ」などの整備により、必要情報へのアクセス環境を構築する。高齢者や低学歴者の多い家政分野の特性を踏まえ、実技中心のカリキュラムも導入する。さらに、企業による新規採用者向けの基礎訓練、在職者向けのスキルアップ訓練のほか、オンライン講座や産学連携による教材提供などを進める。企業には、従業員の職業能力を支える体制整備が求められる。
(3)職業技能評価の充実
職業能力を客観的に評価するため、職業技能等級認定制度を強化し、社会的な認定機関の活用を推進する。訓練修了者には技能等級認定や専門能力検定の受検を奨励し、資格取得を通じた技能証明を後押しする。
(4)就業支援の強化
訓練後の就労支援や職業紹介の体制を強化し、雇用拡大を図る。模範企業の事例紹介や安定就労の促進、労働契約や賃金状況に基づく評価体制の整備にも注力する。また、訓練効果の継続的把握を通じて、政策の改善と支援体制の充実を目指す。
注
- 「商务部等9部门关于促进家政服务消费扩容升级若干措施的通知
」(本文へ)
- 近年、中国では電子商取引、オンライン配車、ネットデリバリーなどに従事する、いわゆる「フレキシブルワーク(霊活就業)」という新たな就業形態が拡大している。フレキシブルワークは、就業機会の確保という観点から政府により奨励されている一方で、労働者の権益保護の面では依然として課題が残されている。例えば、中国の社会保険制度は戸籍制度と密接に関連しており、基本的には現地戸籍を有する住民を対象として構築されている。そのため、戸籍地を離れて「外地」で働くフレキシブルワーカーや、農村から都市部に出稼ぎに来た「農民工(農村戸籍を持つ労働者)」は、現地戸籍を持つ労働者と同等の社会保険サービスを受けることが難しい。また、これらの労働者の多くは雇用主と安定的な労働契約を締結しておらず、雇用関係が不明確であることが一般的である。通常の従業員は、「中華人民共和国社会保険法」により、雇用主に社会保険料の負担が義務付けられており、現地の戸籍の有無にかかわらず勤務地で社会保険に加入できる。しかし、フレキシブルワーカーや農民工は個人請負等の形態で働くことが多く、正式な労働契約がないため、実質的に「戸籍制限」によって勤務地で社会保険に加入できないケースが少なくない。さらに、こうした労働者は頻繁に就業先を変えるなど、居住地と戸籍地が一致しないことも多い。そのため、勤務地で社会保険に加入するには戸籍を移すか、追加の手続きを行う必要があり、それには多大な手間や費用を要する。結果として、勤務地に戸籍を持たない、いわゆる「外地人」にとって、社会保険への加入は依然として高いハードルとなっている。もっとも、近年では各地域において、フレキシブルワーカーが就業地で社会保険に加入する際の戸籍制限が次第に緩和されつつある。2023年1月には、国家発展改革委員会が発表した「全国統一大市場建設指針(試行)」において、就業地での社会保険加入における戸籍制限の全面撤廃と、社会保険関係の移転・継続制度の整備が提起された。これにより、フレキシブルワーカーは就業地または戸籍地のいずれかで社会保険に加入できるようになっている。詳細については、以下の関連情報を参照頂きたい。
・JILPT国別労働トピック(2022年7月)「新しい就業形態(フレキシブルワーク)の最近動向」
・JILPT国別労働トピック(2025年3月)「社会保険の「戸籍制限」撤廃へ ―労働の流動化、多様化を背景に」(本文へ) - 「人力资源社会保障部办公厅等6部门关于开展家政服务职业技能专项培训行动的通知
」(本文へ)
参考文献
- 中国政府網ほか
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