民生分野における保障と改善に関する政府の新政策

カテゴリー:労働条件・就業環境勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2025年6月

中共中央弁公庁と国務院弁公庁は6月9日、「国民生活のさらなる保障と改善に関する意見(注1)」(以下「意見」)を公表した(注2)。「意見」では、国民の関心が最も高い民生分野(社会保険、雇用支援、教育、社会福祉支援等)における切実かつ現実的な利益に関わる問題に焦点を当て、4つの重点分野にわたる10項目の政策措置が提案されている。またこの提案に伴い、政府による関連財政支出もさらに拡大される見通しである。

社会保険加入の戸籍制限を全面撤廃

「意見」は、社会保険の公平性の向上を重視し、適用範囲の拡大や低所得層への重点的な支援といった政策措置が盛り込まれている。

今後は、都市部から農村部まで、また労働者から一般の都市・農村住民に至るまで、社会保険の加入対象を全面的に拡大し、対象を確実にカバーすることで、漏れのない支援体制の実現を目指す。具体的な対策は以下の通りである。

  • 就業地域での社会保険加入に関する戸籍制限を全面的に撤廃する。各人の就業形態に応じた社会保険加入措置を整備し、特にフレキシブルワーカー、農民工(注3)、新就業形態の労働者、大卒者を重点対象とし、適切な政策の検討・策定を進める。
  • 都市部の従業員における基本養老(年金)保険および医療保険の加入率を引き上げる。都市・農村部住民向けの基本養老保険については、保険料水準の見直しと補助制度の最適化を図る。納付の柔軟性を高めるとともに多く納めた分だけ多く受け取れるインセンティブ制度を整備する。
  • 都市・農村住民向け基本医療保険の財源調達メカニズムを強化し、都市・農村住民一人当たり可処分所得と連動した納付制度を推進する。継続加入者や当該年度に給付を受給しなかった者に対しては、大病保険の給付上限を引き上げる措置を講じる。従業員基本医療保険の個人勘定については、地域間の共助を段階的に推進する。
  • 大卒者や就職困難者などを対象に、社会保障補助を実施する。技能向上補助金の申請対象を、失業保険の受給者にまで拡大する。条件を満たす地域においては、生育保険(出産保険)の出産手当金を被保険者に直接支給する仕組みを導入・促進する。

「意見」はさらに、低所得層への支援強化の一環として、対象者の認定方法の整備、動的なモニタリングと警戒体制の強化、そして最低生活保障基準の合理的な設定といった対策を示している。具体的には、生活保護に至らない貧困世帯や、やむを得ない支出により困窮している世帯も適切に保護を受けられるよう、低所得者の認定基準や、世帯の経済状況を把握するための手法を策定する。また、最低生活保障基準を合理的に見直すとともに、最低賃金水準の調整メカニズムも整備することで、より公平かつ実効的な支援体制を構築する。

常住地による公的サービスの提供

「意見」はまた、都市・農村、地域など、人々の属性に関係なく、すべての人が公的サービスを平等に享受できるよう、公的サービスの質の全面的な向上と、常住地における提供体制の整備を政策として打ち出している。この公的サービス資源(資金・人材)の均衡配置は、県レベルの区域を基本として、都市・農村一体で進める。さらに、辺鄙で就職が困難な地域や農村には、柔軟な形式での公的サービス提供を支援する。その上で、人口流入が集中する都市を中心に、「一都市一政策(都市の実情に応じた地域ごとの適切な政策を策定・実施すること)」の原則に基づき、常住地において公的サービスを提供し、農村戸籍のまま都市へ移住した人々に対しても都市戸籍者と同等の権利を保障する体制を整える。

教育・医療資源の均等化

「意見」は、教育・医療分野についても、質的向上と均等化を図り、都市部に偏在する資源(資金・人材)を県や農村部へ移転し、高齢者・乳幼児に対するサービスを拡充する政策を提示している。

教育分野では、今後5年をかけて、義務教育学校の標準化建設を段階的に全国すべての学校で行うことを目指す。さらに、新設・改築・増築を通じて、質の高い普通高校を1000校以上整備し、特に県レベルの普通高校の基礎的な教育環境の改善に重点的に取り組む。同時に、新たに整備する大学の教育資源(資金・人材)は、中西部の人口が多い省に対する配分を強化する。

医療分野においては、基礎医療に関する強化プロジェクトを実施し、都市部の医療資源(資金・人材)の県レベル、農村部への移動を推進し、ネットワーク型の医療サービス体制を構築する。

介護・保育分野においては、要介護の高齢者のケアを重点的に行い、介護施設における医療・介護の連携サービスの提供能力を高め、介護型ベッドの供給を拡充する。公立の保育施設は、多様な手段による受入れの拡充を図るとともに、企業・事業所の福利厚生制度における保育サービスの普及を促進する。

民生分野への財政支出の拡大

財政部社会保障司の葛志昊氏は6月に行われた記者会見の中で、「2025年には民生分野への財政支出のさらなる拡大も盛り込んでいる。民生関連支出(社会保険、雇用支援、教育、社会福祉支援等の支出)はいずれも4.5兆元近くに上っており、それぞれ6.1%・5.9%の増加を見込んでいる」と述べた(注4)。主な支援予定額は以下のとおりである:

  • 雇用支援の強化:6674億元(約14兆4885億円)の雇用補助金を中央財政から配分し、失業・労災保険料率の引下げ措置の延長、見習い支援金の前倒し支給などを実施する。
  • 基本養老金(基本年金)の水準引き上げ:国家財政負担による都市・農村住民の基礎養老金最低額をさらに月20元(約434円)引き上げ、退職者の基本養老金(基本年金)も段階的に増額する(注5)
  • 医療保障の充実:公衆衛生支出を一人当たり年99元(約2148円)に、都市・農村住民医療保険補助を一人当たり年700元(約1万5190円)に増額する。
  • 教育支援の拡充:中央財政から学生への支援補助金を809.45億元(約1兆7565億円)に増額し、奨学金の水準と支援範囲を拡大することで、地域間・都市農村間・学校間の教育資源格差の縮小を図る。
  • 貧困者支援の強化:中央財政から1566.8億元(約3兆3990億円)を支出し、特別貧困者・生活保護対象者などに対する救済政策を着実に実施する。

参考文献

  • 中国政府網、中国国家発展と改革委員会

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