新しい就業形態(フレキシブルワーク)の最近動向

カテゴリー:非正規雇用多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2022年7月

産業構造の変化、情報技術の発展、プラットフォームビジネスやシェアリングエコノミーの発展は、経済社会活動のデジタル化を促し、中国の就業形態にも大きな影響を与えている。中国では現在、電子商取引、オンライン配車、ネットデリバリーなどに従事する、いわゆる「フレキシブルワーク(霊活就業)」という新たな労働関係による就業形態が拡大している。フレキシブルワークは、就業機会確保の観点から政府によって奨励される一方で、労働者権益保護の観点からは課題も残る。以下にその概要を紹介する。

就業機会の確保としての位置付け

国家統計局によると、フレキシブルワーカー数は、2021年に約2億人に達した。また、全国高等教育学生情報・進路指導センターのデータによると、大卒者のフレキシブルワーク就職率は、2020年、2021年ともに16%を超えている(注1)

フレキシブルワークは、安定的就業機会の確保という国の重点方針のなかで、重要な就業形態として位置づけられ、関連政策が相次いでいる。2020年7月31日、国務院弁公庁は「多様なルートによるフレキシブルな就業を支持する意見」(注2)を発表し、フレキシブルワークを奨励した。各省・地域政府もインターンシップ補助金、職業訓練補助金、就職困難者への社会保険補助金などにより、フレキシブルワークを推進している。他方で、2021年7月16日に人民政府は、「新就業形態の労働者の労働権益保障の維持に関する指導意見」(注3)を発表し、新就業形態の労働者の権益保障について、企業が担うべき責任を明記した。これによれば、たとえば、アウトソーシングなどで労働者の権益が損なわれた場合、使用者には関連法規を根拠として相応の責任を問うことを明示している。

フレキシブルワークによる労働市場の動向

中国人民大学と人材派遣会社の人瑞人材科技集団は、2021年7月に、「中国フレキシブルワーク発展報告(2022年)」を発表した。この報告は、企業1189社、労働者1095人からの回答を集計した結果である。2021年のフレキシブルワーク市場の動向、企業の活用状況、フレキシブルワーカーの特徴などを分析している。以下では、同報告からフレキシブルワーカーの実態を概観する。

2021年、中国では61.1%の企業がフレキシブルワーカーを活用しており、2前年の2020年と比較して5.46%増と、その活用は拡大している。活用企業におけるフレキシブルワーカーの割合は、総雇用人数の25.34%を占めているといわれる。今回の調査における回答企業のフレキシブルワーカーの活用割合は、14.50%であった。

企業におけるフレキシブルワーク

企業がフレキシブルワーカーを採用する主な動機は、雇用コストの削減(49.66%)、雇用負担の軽減(30.26%)に次いで、短期プロジェクトや季節的雇用の必要性からの活用(28.75%)の順となっている。さらに、政策や規制のリスク回避、臨機応変な人材登用のための「プール」なども、フレキシブルワーカー活用の動機となっている。

企業がフレキシブルワーカーを活用する際の類型(図1)は、実習(30.16%)、労働者派遣(27.33%)、伝統的なギグワーカー(27.08%)の順に多い。実習が最も普遍的な活用類型となっているが、これは、①実習生が職務学習や経験の蓄積等が目的で、賃金が発生しないため、企業にとってコスト削減を実現できる、②企業が社会保険料などを負担しなくてよい、③企業と学校が提携することで企業の採用難を解決できる、④企業の人員配置の柔軟化を可能にする、⑤企業の必要人材を確保できる、という理由による。

図1:フレキシブルワーカーに関する企業の活用類型
画像:図1

出典:「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」

注:実習とは、職業学校、技能学校、専門職大学の学生は学校の設置基準等の規定に基づいて行われる企業内実習を指す。伝統的なギグワーカー(伝統零工)とは非全日制、兼職、日給等の雇用方式を指す。

図2:フレキシブルワーカーの雇用状況(業種別)
(雇用人数;左軸、割合;右軸)

画像:図2

出典:「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」

フレキシブルワーカーの活用を業種別(図2)にみると、建築業が一番多く、産業全体の76.6%を占め、就業者数は4449.6万人である。 次いで、運輸・郵便サービス業が46.39%(576.6万人)で、金融・不動産業、インターネット・IT関連業、教育訓練などがいずれも20%弱という順である。なお、製造業でのフレキシブルワーカー数は1530.2万人だが、就業者数自体が多いため、割合としては14.73%と低い数字となっている。

フレキシブルワーカーの属性と特徴

フレキシブルワーカーの属性をみると以下のとおりである。

性別では、男女比が「ほぼ同程度」と回答した企業は40.85%、「男性多め」が33.7%、これに対して「女性多め」は15.68%とやや少ない。

年齢別では、50歳以下が89.54%と最も多く、その中でも30歳以下(30歳含み)は48.28%と半数を占めており、働き盛りの年代が重要な担い手になっている。

学歴別では、「大卒以上」が21.73%、「大専(注4)/高等職業学校」が29.16%、「高等学校/中等専門学校/中等職業学校/技能学校」が28.47%、「中学校以下」が15.82%であり、フレキシブルワーカーの約80%が高卒以上の学歴に集中している。

なお、フレキシブルワーカーは、その大半がサービス業から転職している(図3)。68%のフレキシブルワーカーは前職がサービス業(伝統的、現代的サービス業の合計)で、前職が製造業(22%)を大きく上回る。

図3:フレキシブルワーカーの転職する前の業種
画像:図3

出典:「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」

労働条件に関して、月収をみると、フレキシブルワーカーの平均月収は5547.88元、非フレキシブルワーカーは5545.30元であることから、両者はほぼ同じである。しかし、労働時間は、フレキシブルワーカーの1日の所定労働時間が平均8時間54分、週平均49時間93分であるのに対して、非フレキシブルワーカーの1日の所定労働時間は平均8時間38分、週平均47時間3分であり、フレキシブルワーカーの労働時間の方が長い。そして、フレキシブルワーカーは雇用安定性も低く、社会保険納付比率も低い。ただし、低い納付比率の中でも「労災保険」の納付比率は最も高く、57.80%に達しており、労災のリスクの高さを伺わせる。一方で、養老保険納付は33.60%に留まる。フレキシブルワーカーの多くはコスト削減を目的とする雇用側との正式な労働関係がないことが多いため、社会保険の加入について、既存の法規ではフレキシブルワーカーの権益が十分保障されていないことが、この図からも読み取れる(図4)。

図4:社会保険納付状況
画像:図4

出典:「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」

フレキシブルワークを選択する主な理由は、手取り収入の増加やキャリア転換である(図5)。半数以上(52.36%)のフレキシブルワーカーが、「厳しい家計」に迫られている。「手取りが高い」という理由で、現在の仕事を選んだ人の割合は36.88%である。フレキシブルワークは不足する家計費を補填するための 働き方と考えられる。

図5:就業動機
画像:図5

出典:「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」

キャリア転換もフレキシブルワークを選択する動機のひとつである。若年層のフレキシブルワーカーは、キャリアの継続を望み、フレキシブルワークを選択することで職業経験を積む傾向がある。就業動機について、半数近くの45.20%が「仕事経験を積む」ためという理由を選択している。次いで、「他の仕事の機会がない、この仕事だけ」(34.73%)、「ブランド企業を重視」(23.39%)、「正社員になるチャンス」(9.42%)という順で、キャリアに関連する回答が確認されている。

実際に、正規雇用に応募することは難しいが、まずフレキシブルワークによって企業に就職し、職場で優れた業績を上げた者が正規従業員への転換機会を得てキャリア目標を達成したケースや、企業が優秀な人材を確保しやすくなったというケースがある。

急速に変化する社会経済の中で、就業形態も大きく変化しつつある。より多くの就業機会を提供するために、フレキブルワークのような働き方が増加することを政府も奨励している。その一方で、労働条件や社会保険など労働者の権益保護の観点から、新しい働き方に対する課題は残されている。

(ウェブサイト最終閲覧:2022年7月11日)

参考文献

  • 「中国フレキシブルワーク発展報告(2022)」、中国政府網
  • 中国新聞網(2022年3月2日)

参考レート

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