技能人材に対する給与インセンティブの強化
人力資源社会保障部、財政部、国務院国有資産監督管理委員会は5月17日、連名で「国有企業における技能人材の給与配分インセンティブのさらなる強化に関する通知(注1)」(以下「通知」)を発表した。この通知では、給与配分を活用した報奨制度により、技能人材の処遇改善と能力開発の好循環を促す措置が示されており、国有企業に対して具体的な制度の構築が求められている。近年、国有企業では技能人材の待遇改善や人材確保の取り組みが進められており、こうした動きに呼応して、人力資源社会保障部はこれまで2021年に「技能人材の賃金配分に関するガイドライン(注2)」、2022年4月に「新時代における技能人材の職業等級制度の整備・充実に関する意見(試行)(注3)」を発表するなど、関連策を打ち出してきた。これらの政策は、国有企業が技能人材に対する給与インセンティブ制度を構築・展開する際の重要な指針となっている。
技能評価とキャリアパスの多様化を促進
「通知」では、まず技能人材に対する評価制度の見直しを求めている。具体的には、より多様な指標に基づく多面的評価システムを導入し、 技能職、専門職、管理職間の柔軟な人事転換制度の整備を求めている。
技能人材の成長支援策としては、縦のキャリアアップ(同じ職種での昇進)の道筋を作り、職業発展計画を立てる。イノベーション能力や業務の質、実績、貢献度などの多面的な基準に基づき、技能者の評価と報奨制度を整備する。また、横のキャリア(異なる職種や役割への流動)の道筋も作り、技能職とそれに相当する専門職や管理職との相互転換も行える仕組みを構築する。これにより、高度技能人材が職務任用、職位・等級の昇進、研究プロジェクトの申請、表彰・受賞、教育研修などにおいて、同じレベルの専門技術者・管理職と同じ待遇を受けられるようにする。
技能の高さや仕事内容と連動する給与制度の整備
ブルーカラーやエンジニアを中心とする技能人材の賃金体系は「基本給+職務給+能力給+業績給+年功給+諸手当」の6要素で構成されており、「技能人材の賃金配分に関するガイドライン」に基づき、定められている。
今回の「通知」により、職務給は、職務価値と技能等級の双方に連動させ、能力給(技能職の給与等級)は、原則として同等の等級の管理職の給与水準を下回らないようにする。在職中の特級技師や主任技師については、企業内の中堅・上級管理職と同等以上の給与水準を確保する必要がある。トップレベルの高度技能人材については「一人一案(個別協議)」による特別対応を行う。
業績給については、企業の成長成果を技能人材と共有するための配分制度を整備し、企業業績や部署業績と連動した成果連動型の報酬部分を、関連する職種の技能人材に対して導入する。
特別手当の創設
新たに、技能人材を対象とした特別手当制度が創設され、技能等級に連動した「能力手当」の仕組みが整備された。技能人材の職業技能等級は、従来の5段階から8段階へと拡充された「新八級工」(注4)が2022年3月に導入されており、今回の通知では、この新たな技能等級に応じた手当の基準が明確化された。優れた技能を持つ人材が、より高い報酬を得られる仕組みが整備されることで、技能向上への意欲の高まりが期待されている。
その他の手当としては、生産現場が過酷な技能職には「過酷職務手当」を設定できる。技能継承・指導を担う技能リーダーには「師弟指導手当」や「班長手当」を設けることができる。市場で希少価値のある技能や、国内外の技能競技会で受賞歴のある技能人材には、「特別技能手当」や「専門家手当」などを支給することが可能である。
イノベーション活動への報奨
日常的なイノベーション活動に対しては、小さな発明や工夫にも報奨を用意する。重大なプロジェクト技術や品質問題の解決に優れた貢献をした技能人材には、特別賞を授与する。大きな科学技術革新プロジェクトに参加・担当した技能人材には、その貢献度に応じた報奨を与え、条件を満たす場合は、成果による収益分配も行う。
中長期的インセンティブ制度の導入
技能人材に対する中長期的インセンティブを導入し、ストックオプション、プロジェクト配当、職務配当など多様な形態の報酬制度を導入する。また、技能人材に対する報酬の遡及的な補償制度の構築も検討し、基礎研究や重要な技術革新などで過去に顕著な貢献をしたものの、当時の給与に十分反映されなかった実績については、後からその過去の実績に応じて適切に補償する仕組みを設ける。
給与総額配分の傾斜
グループ企業全体の給与総額の配分について、技能人材が多く集まる子会社には優先的に配分を行い、給与総額の増加分についても技能人材に傾斜的に配分する。現場の技能人材の平均給与の伸び率は、原則として同等の管理職や生産支援スタッフを下回らないようにし、高度技能人材の平均給与の伸び率も、原則として同等の専門技術職や管理職を下回らないようにする。
給与情報の公開で企業を支援
各地域では、職種や技能等級ごとの給与相場情報を発表し、企業が制度設計や水準設定を行う際の参考とする。あわせて、関係機関は政策の実効性を高めるため、連携と執行体制の強化を図る。
注
- 人力资源社会保障部 财政部 国务院国资委关于加大国有企业技能人才薪酬分配激励的通知
(本文へ)
- 「技能人才薪酬分配指引
」(本文へ)
- 人力资源社会保障部 关于健全完善新时代技能人才职业技能等级制度的意见(试行)
(本文へ)
- 2022年3月、人力資源・社会保障部は『新時代における技能人材の職業技能等級制度の整備・充実に関する意見(試行)』を発表し、従来の5段階だった技能人材の職業技能等級を8段階に細分化した。具体的には、上位に「特級技師」と「首席技師」を追加し、下位に「見習工(学徒工)」を新設することで、「見習工、初級工、中級工、高級工、技師、高級技師、特級技師、首席技師」から成る“新八級工”の職業技能等級体系を形成した。(本文へ)
参考文献
- 中国政府網など
2025年6月 中国の記事一覧
- 中国、家事代行サービスの品質向上と技能訓練強化
- 女性の地位向上とジェンダー平等の進展 ―国家統計局による最新モニタリング報告
- 民生分野における保障と改善に関する政府の新政策
- 技能人材に対する給与インセンティブの強化
関連情報
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