2024年の「大規模労働争議」は31件、前年とほぼ同水準
―労働統計局集計
米労働統計局(BLS)が2月21日に発表した2024年の大規模労働争議(1,000人以上が参加する大規模なストライキ等)は31件で、前年の33件とほぼ同水準だった。大規模労働争議参加者数は約27万1,500人と、前年より18万7,400人減っている。
近年の参加人員は増加傾向
BLS集計の「大規模労働争議」には労働組合によるストライキのほか、経営側のロックアウトに伴う作業停止を含む。また、作業停止を行った人数が1,000人以上規模の争議を「大規模労働争議」と定義している。
BLSによると、米国で2024年に大規模労働争議は31件発生した(図表1)(注1)。2001年以降で最も多かった2023年の33件と、ほぼ同水準となっている。1950年代や70年代は400件を超えた年もあったが、1980年代半ば以降は100件に達した年がなく、総じて少ない水準で推移していた。過去20年間(2005~24年)の年間平均件数は17.4件である。
図表1:大規模労働争議の発生件数と参加人数の推移(1947-2024年)
(単位:左軸=件、右軸=千人)
出所:連邦労働省労働統計局ウェブサイトより作成
大規模労働争議の参加者数は約27万1,500人と前年より18万7,400人減った。ただし、2018年以降は2020年からのコロナ禍による落ち込みを除くと、2000~2010年代半ばに比べて増加した水準となっている。
2024年の大規模労働争議参加者を業種別に見ると、「サービス業」が約23万2,500人と85.6%を占め、このうち「教育・医療サービス部門」が約12万6,500人にのぼる。カリフォルニア大学(約3万7,000人参加、全米州都市労働組合=AFSCMEが組織、2日間)、カリフォルニア大学システム(約3万100人参加、全米自動車労働組合=UAWが組織、19日間)、カリフォルニア州立大学(約2万9,000人参加、カリフォルニア教員組合が組織、1日間)といったカリフォルニア州の大学での争議が目立った。東海岸でもボストン大学で、教育業務に従事する大学院生ら約3,000人の組合員(国際サービス従業員労働組合=SEIUが組織)が参加し、約7カ月間に及ぶストライキが発生している。それぞれの争議の背景や労組の要求はさまざまだが、現地紙などは、物価高を背景にした賃金の引き上げ、福利厚生の向上などが、労使交渉の争点になったことを報じている。
ボーイング、東海岸港湾、AT&Tの争議
このほか2024年には、航空機大手ボーイング社、東海岸の港湾労働、通信大手AT&T社などで大規模争議が生じた。
ボーイング社のストライキは2024年9月13日から11月5日のおよそ2カ月間にわたって行われた(注2)。国際機械工・航空宇宙労働組合(IAM)が組織する機械工ら約3万3,000人が参加した。同社でのストライキは16年ぶりのことで、労働協約の改定にあたり、組合側は物価高を十分に反映した賃上げなどを要求。機体が破損する事故が発生するなど安全管理上の課題を抱えつつ、経営難からリストラを進めたい会社側との溝は深く、交渉は難航した。最終的に4年間で38%の賃上げや新協約承認時のボーナス1万2,000ドル支給などで合意している。
東海岸港湾労働でのストライキは、国際港湾労働者協会(ILA)が2024年10月1~3日に行ったもので、約4万7,000人が参加した(注3)。米国海運連合(USMX)との労働協約改定交渉が、賃上げのほか、自動化技術の導入をめぐって長期化し、47年ぶりとなる大規模なストライキに至った。ただし、ストライキは3日間で収束し、今後6年間に61.5%の賃上げなどを行うことで暫定的に合意。自動化技術の導入に関しては交渉を継続することとした。
その後、労使は自動化技術の扱いでも合意し、今後6年間を対象とする新労働協約は2025年2月25日の組合員投票で承認された。自動化技術に関する合意内容は明らかではないが、現地報道によると、新協約期間中の完全な自動化技術(完全自動ターミナル)の導入見送りや、半自動化技術を導入する際の組合員の雇用の保証などが盛り込まれた。USMXに加盟しているポーツアメリカ(Ports America)社 CEOのマシュー・リーチ氏は「(新たな)契約自体は、雇用を削減しない限り、雇用主にテクノロジーを導入する道筋を与えている」と評価する見方を示している。
通信大手AT&T社では、2024年8月16日~9月15日の1カ月間、組合員1万7,000人(全米通信労組=CWA)が参加するストライキが行われた。南西部9州(アラバマ、フロリダ、ジョージア、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、テネシーの各州)の技術者や顧客サービス担当者らが、労働協約改定に伴う賃上げ等をめぐる労使交渉で、会社側の誠実交渉義務違反などを訴えてストライキに突入。5年間に19.33%の賃上げ(配線技術者などはさらに3%上乗せ)、医療保険制度の改善(従業員の医療保険料を1年目据え置き、2~3年目引き下げ、4~5年目緩やかに毎月引き上げ)などで暫定合意に達し、ストライキが収束している。
「労働損失日数」は300万日台
2024年の労働損失日数は約336万4,100日で(図表2)、このうち2カ月に及んだボーイング社でのストライキが約122万1,000日を占めている。2023年は自動車大手3社(ビッグスリー・デトロイトスリー)に対するUAW(約93万日)や、ハリウッドの脚本家組合(WGA、約117万日)、及び俳優組合・全米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA、約1,312万日)による大規模ストライキが生じたため、2000年以降で初めて1,000万日を超えた。2024年はそれに比べると減少したが、2000~2010年代半ばに比べて増加傾向にある。
図表2:労働損失日数の推移(1947-24年) (単位:千日)
出所:連邦労働省労働統計局ウェブサイトより作成
小規模を含む争議は359件
米コーネル大学産業・労使関係研究所(ILR)では、上述のBLS統計の集計対象外となっている1,000人未満規模の労働争議の状況を把握するため、インターネットやSNS、ニュース記事、各種データベースなどの情報を収集・確認・分析し、小規模を含む争議の件数をとりまとめている。
ILRがこのほど発表した集計結果(注4)によると、2024年の労働争議(作業停止)の発生件数は359件(ストライキ356件、ロックアウト3件)で、前年の470件(ストライキ466件、ロックアウト4件)から111件減少している。2023年はスターバックスの店舗やファストフード店で争議が多発し、件数を押し上げていた。
また、2024年の争議参加人員は約29万3,500人で、前年の約53万9,000人から45.5%減少している。2023年は上述のように、自動車大手やハリウッドの脚本家・俳優らの争議に多くの組合員が参加していた。
ストライキの総日数は532万8,345.5日で、前年の2,487万4,522日から大幅に減少したが、2年前の444万7,588人より多い。
業種別に見ると、ストライキの件数が最も多かったのは「宿泊・飲食サービス業」で23.6%を占める。一方、参加者数では大学等での争議の多さを反映し、「教育サービス業」が最も多く、32.7%にのぼった。ストライキの総日数は、「製造業」の40%が最も長い。
労働者が要求する内容のトップ3は、過去2年間と同様に、「賃金の改善」、「健康・安全の改善」、「人員配置の増加」となっている。
注
- 連邦労働省労働統計局ウェブサイト
参照(本文へ)
- 労働政策研究・研修機構(2024)「16年ぶりのストライキが終結―ボーイング社、4年間に38%の賃上げで労使合意」(国別労働トピック2024年11月)(本文へ)
- 労働政策研究・研修機構(2024)「米東海岸の港湾労組が47年ぶりに大規模スト ―6年間に61.5%の賃上げで暫定合意」(国別労働トピック2024年10月)(本文へ)
- コーネル大学産業・労使関係研究所ウェブサイト
参照(本文へ)
参考資料
- 経済政策研究所(EPI)、コーネル大学産業・労使関係研究所、全米通信労組、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=149.26円(2025年3月4日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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