米東海岸の港湾労組が47年ぶりに大規模スト
―6年間に61.5%の賃上げで暫定合意
労働協約改定に伴う米国海運連合(United States Maritime Alliance、USMX)と国際港湾労働者協会(International Longshoremen’s Association、ILA)による米東海岸の港湾労働の労使交渉が期限内に合意できず、ILAは10月1~3日にストライキを行った。現地報道によると、この間、少なくとも14カ所の港湾が閉鎖され、47年ぶりの大規模なストライキとなった。賃金引き上げの水準に加え、自動化技術の導入をめぐって労使が対立していたが、ILAは10月3日、今後6年間で61.5%の賃上げを行うなどとするUSMXの提案を受け入れて暫定合意に達し、ストライキは収束した。ただし、自動化技術の導入に関しては合意に至らず、来年1月15日を期限に交渉を継続することとなった。
賃上げ水準と自動化技術導入をめぐる対立
今回の労働協約(基本契約/Master Contract)改定交渉で、組合側は当初、近年のインフレに対応するため、6年間で77%の賃上げを要求した。これに対し、使用者側は40%の引き上げを提示。その後、約50%の引き上げを提案したが、組合側はこれを拒否した。
さらに、港湾ターミナルでの自動化技術の導入をめぐっても労使が対立。組合側は、アラバマ州モービルの港湾ターミナルにおけるコンテナ搬送トラックの自動化が労働協約に違反していると主張し(注1)、その撤回を求めて2024年6月に交渉が中断した。ILAは「完全または半自動化によって組合員の仕事と生計が失われることは受け入れられない」と訴え、自動化に強く反対した。
欧州やアジアの港湾では、自動クレーンや自動ゲート、自動コンテナ輸送トラックなどの自動化技術が導入されているが、米国では労組の反発が強く、導入が遅れている。
東海岸からメキシコ湾岸にかけての港湾業務が停止
ILAは9月17日、「USMXと新たな労働協約が締結できなければ、業務を停止する」と警告した。労働協約は9月30日に失効し、ILAは10月1日からストライキに突入。現地報道によると、約4万5,000人の組合員が参加し、米東海岸からメキシコ湾に至る少なくとも14カ所(注2)で港湾業務が停止し、1977年以来47年ぶりの大規模なストライキとなった。
全米商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)によると、ストライキが行われた港湾では、米国のコンテナ輸出の68%、輸入の56%を取り扱っており、1日の貿易額は21億ドルを超える。しかし、エネルギー供給やばら積み貨物、軍需品やクルーズ船などは対象外として業務が続行された。
大統領は介入せず
連邦のタフト・ハートレー法は国家緊急事態(National Emergencies)の際、大統領に80日間の争議差し止め(冷却期間の設定)などの権限を定めている。全米商工会議所は同法に基づき、9月30日、バイデン大統領に対してストライキ回避への介入を要請。今回のストライキに対して大統領がこれを発動するかどうかに関心が集まっていた。
バイデン大統領はストライキ初日の10月1日に「団体交渉は、労働者が正当な賃金と福利厚生を得るための最善の方法だ。USMXに対して交渉の席に着き、ILAの労働者の貢献に見合った適切な賃金を支払うための公正な提案をするよう強く求めた」とコメントし、ストライキに介入せず、団体交渉を見守る姿勢を示した。
6年間に61.5%の賃上げで暫定合意
ILAは10月3日、6年間で61.5%の賃上げを行うなどとするUSMXの提案を受け入れ、ストライキは収束した。これにより、労働者の平均賃金は時給39ドルから時給約63ドルに上昇する見込み。しかし、自動化技術の導入については合意できず、交渉は来年(2025年)1月15日まで継続する。
なお、9月26日に南東部に上陸した巨大ハリケーン「ヘレン」による被害もあり、労使は迅速な交渉を行い、暫定合意に至った側面もあるとみられる。バイデン大統領は「港湾を再開し、ハリケーン・ヘレンからの復旧と再建に必要な物資の供給を確保するために愛国心を持って行動してくれた組合員、運送業者、港湾運営者に感謝したい。団体交渉は効果があり、中間層から低所得層までより強力な経済を築くために不可欠だ」とコメントを発表し、団体交渉の効果を評価した。
西海岸の労使交渉
米西海岸の港湾でも、2022年6月末を期限とする労働協約改定交渉が難航した。太平洋海事協会(Pacific Maritime Association、PMA)と国際港湾倉庫労働者組合(International Longshore and Warehouse Union、ILWU)による交渉が長期化し、2023年4月20日になって自動化技術の導入に関する暫定合意に達した。しかし、その具体的な合意内容は公表されていない。
賃金などの労働条件に関する交渉はさらに続き、同年6月上旬には一部で労働組合員の出勤拒否や業務遅滞行為が見られるなど混乱も発生した。その後、労使は6月14日に賃金等に関しても暫定合意を交わし、8月31日には6年間(2022年7月1日に遡って適用)の新たな労働協約を締結している。
自動化が雇用に与える影響
カリフォルニア大学バークレー校のマイケル・ラハト教授らによる論文「南カリフォルニアのターミナル自動化:西海岸の港湾の成長、雇用、将来の競争力への影響(注3)」(PMA委託研究)は、西海岸の二つの港湾ターミナル(ロサンゼルス、ロングビーチ)の自動化により、処理能力の向上や、サプライチェーンの遅延削減といった効果があったことを指摘している。さらに、2015年から21年までの間に自動化された港湾と自動化されていない港湾の労働力や労働時間の増加率を比較すると、自動化された港湾の方が、増加率が大きく、自動化は雇用を減らすものではないとの見解を示している。
一方、ILWUが調査機関「経済円卓会議(The Economic Roundtable)」に委託した報告書「他の誰かの海―港湾労働者、外国船主、経済効果(Someone Else’s Ocean―Dockworkers, Foreign Shippers and Economic Outcomes)(注4)」は、ロサンゼルスとロングビーチの港湾の自動化により、2020~21年にかけて年間572人のフルタイム雇用が削減されたと推計している。
また、米国会計検査院(United States Government Accountability Office、GAO)が2024年3月にまとめた報告書「港湾インフラー米国港湾の自動化技術の導入とさまざまな効果の報告(PORT INFRASTRUCTURE―U.S. Ports Have Adopted Some Automation Technologies and Report Varied Effects)(注5)では、労使関係者の意見や労使合意の内容を紹介する形で、自動化技術の導入が、労働者の安全性を向上させ、業務の生産性や効率を高める一方で、雇用削減の側面があることにも言及している。
注
- ILAとUSMXが2018年に締結した現行労働協約は、港湾での全自動機器(fully-automated equipment)の設置を禁じ、半自動機器(semi-automated equipment)の新規導入には組合の承認が必要だとしている。(本文へ)
- マサチューセッツ州ボストン、ニューヨーク・ニュージャージー、ペンシルベニア州フィラデルフィア、メリーランド州ボルチモア、バージニア州ノーフォーク、デラウエア州ウィルミントン、サウス・カロライナ州チャールストン、ジョージア州サバナ、フロリダ州ジャクソンビル、同マイアミ、同タンパ、ルイジアナ州ニューオーリンズ、アラバマ州モービル、テキサス州ヒューストンの各港(本文へ)
- Michael Nacht and Larry Henry(2022)Terminal Automation in Southern California: Implications for Growth, Jobs, and the Future Competitives of West Coast Ports(本文へ)
- 経済円卓会議(Economic Roundtable)ウェブサイト参照 (本文へ)
- 米国会計検査院(GAO)ウェブサイト参照(本文へ)
参考資料
- 国際港湾労働者協会(ILA)、CNBC、CBS、全米商工会議所、日本貿易振興機構、ブルームバーグ通信、米国海運連合(USMX)、ホワイトハウス、ロイター通信、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=149.42円(2024年10月10日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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