21州が最低賃金を引き上げ
 ―2025年1月、約926万人の賃金が上昇の見込み

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全米50州のうち21州が2025年1月1日に最低賃金を引き上げた。全米規模の物価指標に連動する方式で最賃を改定した州の多くは、2.4%程度の引き上げ率となっている。リベラル系シンクタンク・経済政策研究所(Economic Policy Institute、EPI)の試算によると、今回の最賃引き上げにより、全米で約926万人の労働者の賃金が上昇する。

「物価連動方式」の多くは2.4%程度の引き上げ率に

連邦政府は2009年7月24日以降、最低賃金を時給7.25ドルで据え置いているが、全米50州のうち約半数は毎年のように改定している。州より高い最賃額を独自に設定する市や郡もある。最賃の改定方法(物価連動方式、段階的引き上げ方式など)や改定時期は各地で異なる。2025年1月1日付けで、全米50州のうち21州が最賃を引き上げた(図表1)。

図表1:米国各州の最低賃金引き上げ状況(2025年1月)
州名 改定前
(ドル/時給)
改定後
(ドル/時給)
引き上げ率 引き上げ額
(ドル)
改定方法 改定根拠となる物価指標等の種類※
アラスカ 11.73 11.91 1.5% 0.18 物価連動 アンカレッジ都市圏CPI-U(2023年平均値の前年比)
アリゾナ 14.35 14.70 2.4% 0.35 物価連動 全米都市平均 CPI-U(2024年8月値の前年同月比)
カリフォルニア 16.00 16.50 3.1% 0.50 物価連動 全米都市平均CPI-W(2023年7月~24年6月の毎月の対前年度比の平均)
コロラド 14.42 14.81 2.7% 0.39 物価連動 デンバー等都市圏CPI-U(2024年上半期の前年同期比)
コネチカット 15.69 16.35 4.2% 0.66 (物価連動) 全米ECI(雇用コスト指数、2024年6月値の前年同月比)
デラウェア 13.25 15.00 13.2% 1.75 段階的引き上げ  
イリノイ 14.00 15.00 7.1% 1.00 段階的引き上げ  
メーン 14.15 14.65 3.5% 0.50 物価連動 北東部 CPI-W(2024年8月値の前年同月比)
ミシガン 10.33 10.56 2.2% 0.23 段階的引き上げ  
ミネソタ 10.85 11.13 2.6% 0.28 物価連動 全米 PCE(2024年8月値の前年同月比)
ミズーリ 12.30 13.75 11.8% 1.45 段階的引き上げ  
モンタナ 10.30 10.55 2.4% 0.25 物価連動 全米都市平均 CPI-U(2024年8月値の前年同月比)
ネブラスカ 12.00 13.50 12.5% 1.50 段階的引き上げ  
ニュージャージー※ 15.13 15.49 2.4% 0.36 物価連動 全米都市平均 CPI-W(2024年8月値の前年同月比)
ニューヨーク※ 16.00 16.50 3.1% 0.50 段階的引き上げ  
オハイオ 10.45 10.70 2.4% 0.25 物価連動 全米都市平均 CPI-W(2024年8月値の前年同月比)
ロードアイランド 14.00 15.00 7.1% 1.00 段階的引き上げ  
サウスダコタ 11.20 11.50 2.7% 0.30 物価連動 全米都市平均 CPI-U(2024年8月値の前年同月比)
バーモント 13.67 14.01 2.5% 0.34 物価連動 全米都市平均 CPI-U(2024年8月値の前年同月比)
バージニア 12.00 12.41 3.4% 0.41 物価連動 全米都市平均 CPI-U(2023年12月値の前年同月比)
ワシントン(州) 16.28 16.66 2.3% 0.38 物価連動 全米都市平均 CPI-W(2024年8月値の前年同月比)

※CPI-U(Consumer Price Index for all Urban Consumer、都市部の消費者世帯を対象とする消費者物価指数)、CPI-W(Consumer Price Index for all Urban Wage Earners and Clerical Workers、都市部の賃金労働者世帯を対象とする消費者物価指数)、ECI(Employment Cost Index、雇用コスト指数)、PCE(Personal Consumption Expenditures、個人消費支出)。同じ物価指標を用いる州でも、最賃算出方法の違い(算出額を5セント単位で四捨五入するなど)により引き上げ率が異なる場合がある。

※ニュージャージー州は6人以上規模、ニューヨーク州はニューヨーク市とその近郊の郡における改定前後の金額を記載。

出所:Economic Policy Instituteウェブサイト などをもとに作成

今回の改定でデラウェア、イリノイ、ロードアイランドの各州の最賃が、時給15ドルに達した。これにより10州(注1)とコロンビア特別区(ワシントンD.C.、時給17.5ドル)の最賃が、時給15ドル以上となった。EPIの推計によると、米国労働者の三分の一がこれら11の州・特別区に居住している。

全米規模の物価指標をもとに改定した州(アリゾナ州、モンタナ州、ニュージャージー州など)では、おおむね2.4%程度の上昇率となっている。

ミネソタ州では、事業所規模が年間売上高50万ドル以上か否かで異なる水準の最賃を設定していたが、時給11.13ドルに統一した(ミネアポリスとセントポールの両市はより高い水準の最賃を独自に設定)。また、同州では引き上げの上限率を、これまでの2.5%から5%へと引き上げている。アラスカ州は2025年1月、物価連動方式により、それまでの時給11.73ドルから時給11.91ドルへと引き上げた。同州では、24年11月5日に行われた住民投票の結果、25年7月に時給13ドル、26年7月に時給14ドル、27年7月に時給15ドルへと段階的に引き上げることが決まっている。ミズーリ州でも同日の住民投票により、25年1月に13.75ドルへ引き上げた後、2026年1月に時給15ドルにすることが承認された(注2)

ミシガン州の最賃引き上げ計画

ミシガン州では最賃の時給12ドルへの段階的引き上げを進めているが、同州最高裁判所が2024年7月、当初の引き上げスケジュールを遅らせた州法を違憲と判断した(注3)。これに伴い州労働・経済機会局は、現在の物価の状況を考慮して、引き上げのスケジュールをあらためて設定。25年中の2度の引き上げになどより、28年2月21日に時給14.97ドルの水準とし、それ以降は物価に連動する形で上昇させることとした(図表2)。一般労働者より低いチップ制労働者向けの最賃は段階的に引き上げ、2030年2月21日に廃止(一般労働者と同水準に設定)する。なお、同州では、前年の州失業率が8.5%を超す場合、最賃の引き上げを行わない。

図表2:ミシガン州の最低賃金引き上げスケジュール(単位:ドル/時給)
適用日 2025.1.1 2025.2.21 2026.2.21 2027.2.21 2028.2.21 2029.2.1
最低賃金額 10.56 12.48 13.29 14.16 14.97 物価連動

出所:ミシガン州ウェブサイトより作成

バージニア州の引き上げは当初より小幅に

バージニア州では2020年の州法改正で、それまで連邦水準(時給7.25ドル)を適用していた州最賃を段階的に引き上げ、26年1月に時給15ドルとし、27年以降は物価に連動して上昇させることとした(図表3)。ただし、25年1月と26年1月の引き上げについては、24年7月1日以前にあらためて州議会で再承認する必要があり、承認されなかった場合、24年10月までに所定の計算式を定め、これに基づき引き上げていくこととしていた。

図表3:バージニア州の最低賃金引き上げの推移と今後の予定(単位:ドル/時給)
適用日 ~2021.4 2021.5 2022.1 2023.1 2025.1 2026.1 2027.1
当初予定 連邦最賃 9.50 11.00 12.00 13.50 15.00 物価連動
実績 同上 同上 同上 同上 12.41
(物価連動)

(物価連動)

(物価連動)

※「当初予定」の州法上の条文は、正式には「時給○○ドル(上記図表の各年の記載額)または連邦最賃のいずれか高い方」としている。連邦最賃は時給7.25ドルで2009年7月24日以降変わっていない。

出所:バージニア州ウェブサイトなどより作成

同州のグレン・ヤンキン知事(共和党)は24年3月、26年1月までに最賃を15ドルへと引き上げる当初のスケジュールを拒否し、州議会での再承認に至らなかった。現地報道によると、同知事は拒否した理由について、「給与と賃金の自由市場は機能している。市場は変化する経済状況や地域の違いに応じて動的に機能する。賃金の義務化は、市場の自由と経済競争力を危険にさらす」との見解を表明している。

これを受け、州労働産業局長は25年1月以降の最賃引き上げ方式について、「最賃水準決定時の直近の暦年におけるCPI-U(都市部の消費者世帯を対象とする消費者物価指数)の年間上昇率」を採用すると決めた。23年12月のCPI-Uが前年同月比で3.4%上昇したことから、25年1月から適用する最賃額は時給12.41ドル(12ドル+(12ドル×0.034)=12.408→12.41ドル/小数点第三位を繰り上げ)となった。

シアトル市などでは時給20ドルを超す

リベラル系シンクタンク・経済政策研究所(EPI)の推計によると、今回の最賃引き上げにより全米で約926万人の労働者の賃金が上昇し、総額約57億1,100万ドルの収入増が見込まれる。

EPIによると、2025年1月1日には、州のほかにも48の市や郡が最賃を引き上げた。ワシントン州シアトル市ではそれまでの時給19.97ドルから時給20.76ドルに上昇したのをはじめ、同州のキング郡(時給16.28ドル→20.29ドルに上昇)、レントン市(時給20.29ドル→20.90ドル)、シータック市(時給19.71ドル→20.17ドル)、タックウィラ市(時給20.29ドル→21.10ドル)で時給20ドルを超えている(改定方法は、キング郡が郡条例制定、他は物価連動方式による)。

今後は2025年7月1日にオレゴン州(物価連動方式による)、コロンビア特別区(ワシントンD.C.、物価連動方式による)、9月30日にフロリダ州(段階的引き上げにより、現在の時給13ドルを時給14ドルに)で引き上げを予定している。

参考資料

参考レート

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