「有給産前休暇」の付与を民間企業に義務化
―ニューヨーク州
ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は12月2日、妊娠した従業員が出産前に20時間の有給産前休暇を取得できる権利の付与を民間企業に義務付けると発表した。こうした取り組みは全米で初めてとみられる。2025年1月1日から有効となった。
各州における有給休暇の法制化
米国では民間企業の労働者に対して、連邦家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act, FMLA)が、自身の深刻な健康状態、出産、育児、家族の看病、介護などを理由とする無給休暇(12カ月間に最大12週間)の付与を定めているが、有給休暇の付与を義務付けてはいない。
各州の取り組みについては、非営利組織A Better Balanceウェブサイトによると、ニューヨーク州を含む13の州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)で、民間労働者に対する「有給家族・病気休暇制度(Paid Family and Medical Leave)」を設けている(2024年11月現在)(注1)。連邦労働省によると、2023年3月現在、雇用主を通して、有給家族・病気休暇を利用できる民間労働者は27%にとどまっている(注2)。
また、全米州議会議員連盟(National Conference of State Legislatures、NCSL)によると、14の州とワシントンD.C.が、有給病気休暇(Paid Sick Leave)の付与を、雇用主に義務付ける州法等を制定している(2020年7月現在)(注3)。その後、少なくともニューヨーク州で2020年9月に同制度を施行(2021年1月から取得可能に)。ミズーリ、アラスカ、ネブラスカの各州が2024年11月の住民投票で、同制度の法制化を承認している(注4)。
ニューヨーク州の「有給家族休暇」と「有給病気休暇」
ニューヨーク州では、上述の「有給家族休暇制度(及び「障害給付制度」)」「有給病気休暇制度」とも法制化している(図表1)。
主な内容(所得補償率、最大付与数) | |
有給家族休暇 | 平均週給の最大67%。年間最大12週間。 |
障害給付 | 平均週給の最大50%。年間最大26週間。 |
有給病気(安全)休暇 | 通常の賃金率。年間最大56時間(従業員100人以上規模の場合) |
有給産前休暇(新設) | 通常の賃金率。年間最大20時間。 |
出所:ニューヨーク州ウェブサイトより作成
「有給家族休暇制度(Paid Family Leave)」(注5)については、現在の雇用主に26週間以上連続して雇用されており、州法定保険に加入している従業員を対象とする。週20時間未満のパートタイム労働者は、現在の雇用主のもとで、延べ175日以上働いていることが条件になる。所得補償率(対象労働者の平均週給に占める所得補償の割合)は最大67%で、州平均週給を上限とする(2025年は1,177.32ドル)。年間最大付与数は12週間である。
また、同州には有給医療休暇に類する仕組みとして、業務外の怪我や病気(Off-the-job injury or illness)で働けない労働者を経済的に支援する「労働者障害給付制度(Workers Disability Benefits)」がある(注6)。対象者は現在の雇用主に4週間以上雇用され、州法定保険に加入している従業員である。支給にあたって7日間の待機期間がある。失業者に支給される場合もある(失業給付との重複受給は禁止)。所得補償率は過去8週間の平均週給の最大50%で、週170ドルを上限とする。年間最大付与数は26週間である。
このほか、同州には「有給病気休暇制度」がある(注7)。同制度は、100人以上規模の雇用主に対して年間最大56時間、5~99人規模、及び4人以下規模(純利益が100万ドル超)ではそれぞれ年間最大40時間の有給病気休暇の付与を義務付ける。なお、4人以下規模(純利益が100万ドル以下)では、年間最大40時間の無給病気休暇を付与しなければならない。有給休暇中の賃金は「通常の賃金率」または「適用される最低賃金率」のいずれか高いほうとする。休暇期間中、手当やチップは請求できず、賃金率の引き下げは禁じられている(注8)。
休暇の使用目的は、心身の疾病・傷害の療養等だが、「安全休暇(Safe Leave)」としても認めている。「安全休暇」は、労働者やその家族が、家庭内暴力や性犯罪、ストーカー行為、人身売買の被害を受け、休暇を余儀なくされる場合が該当する。具体的には、①「家庭内暴力シェルター」などの支援サービスを受ける、②労働者やその家族の安全性を高めるため、一時的または恒久的な転居などの措置を講じる、③弁護士らと面会し、刑事または民事訴訟に関する情報とアドバイスを得たりする、④法執行機関に苦情または家庭内暴力の報告書を提出する、⑤地区検事局(District attorney’s office)に赴く、⑥子どもを新しい学校に入学させる、などである。
有給病気(安全)休暇は時間・分単位(15分、1時間など)で使用できる。ただし、最短使用時間を4時間以上に設定することは、認められていない。
産前有給休暇として年間20時間を追加
今回制定した「有給産前休暇制度(Paid Prenatal Leave)」は、上述の一連の有給休暇にプラスする形で、労働者が取得できる権利、雇用主が提供する義務として定めたものだ(注9)。全米で初めての取り組みとみられる。
従業員規模にかかわらず同州におけるすべての企業を対象に、年間最大20時間の有給産前休暇の従業員への付与を義務づける。パートタイムやエグゼンプト(労働時間規制の適用除外)の従業員、新入社員も付与対象に含む。休暇中の賃金は上述の有給病気休暇と同様である。1時間単位で取得できる。産後には使用できない。
対象になるのは、妊娠に関連した身体検査、医療処置、モニタリング、テスティング、健康な妊娠を確保するために必要な医療提供者との話し合い、不妊治療、妊娠末期ケア、などである。
ニューヨーク州労働局によると、年間約13万人の妊娠した従業員が対象(このうち約6万5,800人が時給制労働者)になると試算している。
注
- 非営利組織A Better Balanceウェブサイト
及び連邦労働省ウェブサイト
参照。
有給家族・病気休暇制度のある13州は、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、デラウエア、メーン、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ニュージャージー、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、ワシントンの各州。(本文へ) - 連邦労働省ウェブサイト
参照(本文へ)
- 全米州議会議員連盟ウェブサイト
参照
有給病気休暇制度を法制化した14州は、アリゾナ、カリフォルニア、コネチカット、コロラド、メリーランド、マサチューセッツ、メーン、ミシガン、ネバダ、ニュージャージー、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントンの各州。なお、これらの州の多くは、自身の病気療養に加え、家族の看病や、家庭内暴力からの被害保護などを目的とする取得も認めている。(本文へ) - 労働政策研究・研修機構(2024)「一部の州で最賃引き上げや有給病気休暇創設などの住民投票を実施」(JILPT海外労働情報・米国)参照(本文へ)
- ニューヨーク州ウェブサイト
参照(本文へ)
- ニューヨーク州ウェブサイト
参照(本文へ)
- ニューヨーク州ウェブサイト
参照(本文へ)
- ニューヨーク州の最低賃金(2025年1月1日時点)は、ニューヨーク市が時給16.50ドル(チップ制労働者は13.75ドル)、それ以外が時給15.50ドル(同時給12.90ドル)、飲食店のチップ制労働者は、ニューヨーク市=時給11ドル、ロングアイランド・ウェストチェスター=時給10.65ドル、その他=時給10.35ドルとなっている。チップ制労働者の最低賃金は、その金額とチップとの合計が通常労働者の最賃額になればよいというものである。例えば、ニューヨーク市でチップ制労働者(飲食店以外)の最低賃金が適用される労働者は、週に2.75ドルのチップを得る必要がある。有給休暇中はチップを得られないため、通常労働者の最低賃金が適用されるとみられる。(本文へ)
- ニューヨーク州ウェブサイト
参照(本文へ)
参考資料
- 全米州議会議員連盟、日本貿易振興機構、ニューヨーク州、ニューヨーク州知事室、ブルームバーグ通信、A Better Balance、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=158.24円(2025年1月10日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2025年1月 アメリカの記事一覧
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