一部の州で最賃引き上げや有給病気休暇創設などの住民投票を実施

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  • 国別労働トピック:2024年11月

米国各州では11月5日の大統領選挙にあわせて、さまざまな住民投票が行われた。カリフォルニア、ミズーリ、アラスカの各州では、最低賃金を引き上げる法案、マサチューセッツ州ではチップ労働者向けの最低賃金を段階的に廃止する法案、アリゾナ州では逆にチップ労働者向け最低賃金の引き下げを可能にする法案、ミズーリ、アラスカ、ネブラスカの各州では有給病気休暇を創設する法案が、それぞれ投票にかけられた。ミズーリ、アラスカ両州の最賃引き上げ及び有休病気休暇創設などの法案は賛成多数で承認。カリフォルニア州の最賃引き上げなどの法案は否決される見通しとなっている。

最低賃金の引き上げ

カリフォルニア州の法案は、現在(2024年11月11日時点、以下同)、事業所規模にかかわらず時給16ドルとしている最低賃金を、26人以上規模では、2024年内ただちに同17ドル、25年1月から同18ドル、27年から消費者物価指数に連動してそれぞれ上昇させる。25人以下規模では、25年1月から同17ドル、26年1月から同18ドル、27年1月から消費者物価指数に連動して引き上げる。なお、同州では現行法に基づき、25年1月に最低賃金を、事業所規模にかかわらず、消費者物価指数に基づき同16.50ドルへと引き上げる予定にしている。今回の法案はこの引き上げ幅をさらに拡大するものだ。

11月5日に行われた投票の結果、賛成は48.7%、反対は51.3%と現在の時点で反対が多数と、法案は否決される見通しとなった。法案賛成派は、低所得層の住宅費などのニーズを満たすために引き上げが必要だと訴えたが、最賃の引き上げがインフレの悪化をもたらすことなどを懸念する反対派の票数がやや上回っている。

ミズーリ州の法案では現在、時給12.30ドルの最低賃金を2025年1月から同13.75ドル、26年1月から同15ドルへと段階的に引き上げる。アラスカ州の法案では現在、同11.73ドルの最低賃金を27年7月に同15ドルへと引き上げる。ミズーリ州は賛成57.56%、反対42.44%、アラスカ州は賛成56.63%、反対43.37%、とともに賛成が反対を上回り、承認された。

なお、米国各地の選挙や住民投票の情報を総合的に提供するウェブサイト「Ballotpedia」によると、1996年から2023年までの間に16州で延べ28回、最賃引き上げに関する住民投票が行われ、このうち26回で承認されている(注1)

「チップ労働者」向け最低賃金

連邦法は、チップを得ている労働者(サービス業で月額30ドル以上のチップを受け取る者)に対して、「チップ抜きの支給金額」の最低賃金を設定している。ただし、事業主から支払われる賃金と、受け取るチップの合計額が、一般労働者の最賃水準を上回らなければならない。現在の一般労働者の連邦最賃は時給7.25ドルなのに対して、チップ労働者の連邦最賃は同2.13ドルに設定されている。ただし、州によっては、こうしたチップ労働者向け最賃を廃止し、一般労働者と同じ水準に引き上げたり、独自の水準を設けたりしている。

マサチューセッツ州では今回、チップ労働者向けの最賃を段階的に廃止する法案が住民投票にかけられた。現在、一般労働者の州最賃が時給15ドルなのに対して、チップ労働者の最賃は6.75ドルに設定されている。法案はこのチップ労働者の最賃水準を2025年1月から州最賃の64%、26年1月から同73%、27年1月から同82%、28年1月から同91%へと徐々に高め、29年1月から一般労働者と同水準に引き上げる内容であった。

住民投票の結果、賛成は35.58%にとどまり、反対が64.42%と多数を占めて否決された。「コストが増加し、閉店を余儀なくされたり、販売価格の上昇を招いたりする」と最賃引き上げを懸念するレストラン経営者らの主張が、住民の支持を得た形だ。

一方、アリゾナ州では、チップ労働者向け最低賃金の引き下げを条件付きで可能にする法案が住民投票にかけられた。現在のアリゾナ州の最賃は、一般労働者が時給14.35ドルに対して、チップ労働者は一般労働者より3ドル低い水準(同11.35ドル)となっている。法案は、チップ労働者の賃金とチップの合計が、州最賃より2ドル以上高い額となることを証明できる場合、一般労働者より25%少ない最賃額を設定できるようにするものだ。例えば、同州では現行法に基づき、2025年1月から、一般労働者の最賃を物価上昇に連動させ、同14.70ドルに引き上げる予定にしている。同法案の規定が適用されれば、賃金とチップで同16.70ドル以上得ることを証明できるチップ労働者の最低賃金は、一般労働者より25%低い同11.03ドルとなり、現行制度の適用による同11.70ドルより低い水準となる。

投票の結果、賛成は25.53%と少なく、反対が74.47%にのぼり否決された。「レストラン経営者が、労働者自身が稼いだチップをその労働者への支払い責任をカバーするために使う必要があると言っているなら、それはよいビジネスではない」という、最賃水準にチップを含める制度の拡大に反対する意見が、一定の理解を得たとみられる。

有給病気休暇制度の創設

ミズーリ、アラスカ、ネブラスカの各州では有給病気休暇(Paid Sick Leave)を創設する法案が、住民投票にかけられた。ミズーリ州の法案は事業主に対して30時間の勤務につき、1時間の有給病気休暇の付与を義務づける。アラスカ州の法案は、従業員15人以上規模の事業所に対して年間最大56時間、14人以下規模の事業所に対して年間最大40時間の有給病気休暇の付与をそれぞれ義務づける。ネブラスカ州の法案は従業員20人以上規模の事業所に対して最大7日間、19人以下の事業所に対して最大5日間の有給病気休暇の付与を義務化した。

ミズーリ、アラスカの両州の有給病気休暇の創設は、最賃引き上げと同一の法案に盛り込まれ、上述の住民投票で承認された。ネブラスカ州でも、賛成74.27%、反対25.73%と賛成が多数を占めて承認されている。

なお、米国では民間企業の労働者に対する有給休暇の付与を連邦レベルの法律で義務づけていない。ただし、連邦家族・医療休暇法(FMLA)が、自身の深刻な健康状態、出産、育児、家族の看病、介護などを理由とする無給休暇(12カ月間に最大12週間)の付与を定めている。また、非営利組織A Better Balanceウェブサイトによると、13の州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)では、民間労働者に対する有給家族・病気休暇制度を設けている(注2)

そして、同ウェブサイトによると、15の州とワシントンD.C.では、民間部門の労働者に対する有給病気休暇の制度を設けており、さらに3つの州では、理由を問わない有給休暇の付与を州法等で定めている(注3)

参考資料

  • 経済政策研究所、ブルームバーグ通信、A Better BalanceBallotpedia、各ウェブサイト

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