「つながらない権利」に関する法案提出
 ―カリフォルニア州議会

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  • 国別労働トピック:2024年7月

カリフォルニア州議会に2024年2月、勤務時間外における仕事関連の電話や電子メールなどへの対応を制限する「つながらない権利(Right to disconnect)」に関する法案が提出された。米国ではこうした法律を連邦政府、州などの地方政府とも制定していない。カリフォルニア州議会での審議も、経営者団体などが「労働の柔軟性を後退させる」と反発していることなどを背景に難航している。

法案の内容

情報通信機器の発達により、従業員はスマートフォンや電子メールなどで上司や顧客らと、勤務時間後も容易に連絡をとれる状態になった。これが長時間労働や「燃え尽き(バーンアウト)症候群」を促す要因になっているともいわれる。このため、世界各国では、従業員が勤務時間外に業務関係の通信と「つながらない」権利を確保することの法制化等が議論されている。

カリフォルニア州の「つながらない権利」法案(AB2751(注1))は、州労働法の「勤務時間外における雇用主とのコミュニケーション」に関する内容を改正するものとして、マット・ヘイニー議員(民主党)が州議会に提出した。

同法案は、官民の雇用主に対して、従業員がその雇用主からの勤務時間外の通信を無視できる、「つながらない権利」に関する「職場ポリシー」の制定を原則として義務付けるものである。ただし、緊急事態(従業員、顧客、または公衆を脅かし、業務を混乱・停止させたり、物理的・環境的損害を引き起したりする予期せぬ事態)や、24時間以内に勤務時間のスケジュールを変更する必要が生じた場合は除く。

雇用主と従業員は「非労働時間(Nonworking hours)」を記載したポリシーに書面で合意する。「非労働時間」とは「職務記述書等に記載しているか否かにかかわらず、従業員に割り当てられた労働時間の前後」と定義する。雇用主が3件以上ポリシーに違反した記録がある場合、従業員らは州労働委員会に苦情を申し立てることができる。違反した事業主には100ドル以上の罰金を科す場合がある。

立法化に向けた課題

同法案に使用者団体、業界団体、企業などは反発している。カリフォルニア商工会議所は「事実上、すべての従業員を厳格な勤務スケジュールに従わせ、緊急事態がない限り、雇用主と従業員間のコミュニケーションを禁じるもので、職場の柔軟性にとって後退だ。労働時間、エグゼンプト対象従業員に関するカリフォルニアの長年の法律を考慮しておらず(注2)、さまざまな業界や職業の独自性も考慮していない」と批判するコメントを出している(注3)

州議会の労働雇用委員会は4月17日、同法案を賛成多数で可決したが、成立には州議会上下両院での可決と知事の署名が必要になる。法案が実際の職場でどのように機能するか懸念を表明する議員も少なくない。上述の反発や疑問の声を背景に、州議会での審議は進んでおらず、成立する見通しは不透明な情勢となっている。

ブルームバーグ通信によると、同法案が立法化されるにせよ、その過程で修正を伴う可能性が高い。州議会労働雇用委員会の立法スタッフは、残業代支給など労働時間規制の適用除外(いわゆるエグゼンプト)になっている専門職の給与労働者については「つながらない権利」を適用しないようにすべきだという法律修正勧告をヘイニー議員に送った。

また、州・地方政府職員についても、24時間365日稼働する必要がある職務において、職員と勤務時間外に連絡が取れない規定の下では、職務遂行が不可能だという意見が根強く存在する。このほか、弁護士や営業職のような職種の労働者が、顧客らと連絡をとる方法に混乱を来す懸念も指摘されている。

「つながらない権利」に関しては、フランスやスペイン、イタリア、ベルギー、カナダ(オンタリオ州)などで、こうした権利をめぐるルールやポリシーについて各職場で制定することを企業に義務づけるなどの形で法制化している。米国では連邦政府、州などの地方政府とも、法制化は実現していない。2018年にニューヨーク市議会で従業員10人以上の民間企業を対象として、緊急時を除く勤務時間外に、仕事関連の電子通信へのアクセスを禁じる条例案が提出されたが、経営者団体等の反対で採択されなかった。

参考資料

参考レート

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