資料シリーズNo.282
諸外国における勤務間インターバル制度等の導入および運用状況に関する調査―フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ―
概要
研究の目的
働き方改革関連法において努力義務化された「勤務間インターバル制度」について(参議院附帯決議(平成30年6月28日付))、次回の法改正において義務化を実現することも目指して、実態調査をするべきとあるため、英米独仏における法制度の導入と運用状況を明らかにする。併せて、勤務間の休息確保を確実にするために関係が深い「つながらない権利」について、英米独仏における法制度および法制化に向けた議論の動向を明らかにする。
研究の方法
文献調査
主な事実発見
調査結果の概要
- 勤務間インターバル制度
欧州諸国の勤務間インターバル制度の法規定と運用について調査した結果、勤務間の休息時間設定の意義とその背景や、勤務間の休息の確保のための制度の運用状況が明らかとなった。労働時間規制の適用除外となり長時間労働をする労働者が一定の割合でいることは確かだが、多くの労働者は11時間の勤務間の休息の確保をはじめとする労働時間規制を順守する範囲内で就労していると考えられる。
各国の勤務間インターバル制度の比較を図示したのが図表1である。欧州諸国の英・独・仏については、労働時間規制を比較可能なかたちで示したが、アメリカについては労働時間の上限規制自体が連邦法でも州法でもないため、関連する制度や議論について紹介するかたちをとっている。
フランス ドイツ イギリス アメリカ【参考】 1日当たり休息 11h 11h 11h 【連邦規則(職種限定):パイロット、商用ドライバー、鉄道会社職員、原発の労働者】
【連邦労働省ガイドライン:シフト労働者=連続8時間勤務、週5日、勤務間に8時間の休息】EU労働時間指令の国内法化 1998年 1994年 1998年 義務づけ(罰則あり) 義務づけ(罰則あり) 義務づけ(罰則あり) 労働時間上限 10h(最大12h(協約)) 8h(10h(平均)) - 1週間当たり休息 24h+11h 24h 24h 労働時間上限 35h(48h(平均)、最大60h) 48h(平均) 48h(平均) 残業上限(年間) 220h ー ー 適用除外 ・企業の上級幹部 ・管理的職員 ・役員又は自ら方針を決定する権限を有する者 【最長労働時間適用除外:管理職、運営職、専門職、外勤営業職、コンピュータ関連職(ホワイトカラーエグゼンプション)】 労働時間規制の適用除外 ・坑内、農業、海上労働、公立の病院・医療施設等、国有企業(ガス、電気、国鉄等) ・公勤務機関における部局長
・商船の乗組員
・公勤務、航空、道路輸送等・家族労働者など 勤務間インターバル制度の適用除外 ・年間労働日数制 ・緊急の業務 ・非常時(特別に異なる働き方) ・緊急時
・サービス・生産の継続性
・移動労働、オフショア労働等特例措置
(時間短縮)9h 10h(病院、看護、介護の呼出待機は別途) 時間数の明記無し(代替休息を前提) ・サービス・生産の継続性 ・病院、看護、介護、飲食、宿泊等の施設、運輸、メディア、農畜産業等 条件の規定 労働協約 労働協約 労働協約 - 「つながらない権利」
つながらない権利に関する法整備状況と制度化に向けた動きについては、フランスにおいて法制化されているが、法律が権利の行使方法を規定しているわけではなく、労使交渉に委ねられている。雇用主に交渉義務はあるが、協約の締結義務はなく、罰則規定もない。そのため、労使合意に至った協約は毎年3割程度である。その他のドイツ、イギリス、アメリカでは法制化に向けた議論がみられるものの、休息確保の重要性が議論の対象となっているが、労使の任意の合意によって休息を確保すべきとする見解が強く、法制化には至っていない(図表2参照)。
フランス | ドイツ | イギリス | アメリカ | |
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法制度 | 2016年8月8日の法律 (労働法典L.2242-17条7号) |
・立法化の議論があるが、法制度はない。 | ・法制度なし。 | ・連邦レベルの法制度なし。州や市、郡等でも確認できない。 |
法律の規定内容および立法化に向けた議論等 | ・従業員数50人以上の企業は、義務づけられている労使交渉で、「つながらない権利」の行使方法や条件を協議する義務。 ・ただし、雇用主に交渉義務はあるが協約締結の義務はなく、罰則規定もない。 ・労使合意が得られない場合、労働組合の代表者がいない企業を含めて、企業内委員会で意見聴取をした上で、雇用主は憲章(社内ルール)の策定する必要がある(権利履行確保のためのルールづくり、デジタル・ツール使用に関する研修や意識向上活動の実施などを規定)。 |
・間接的な規定として、事業所組織法に2021年追加「法律や労働協約に定めがない場合は、情報通信を用いて行われるモバイルワークの具体的内容を事業所委員会において共同決定しなければならない」 | ・国内の議論は限定的だが、労組を中心に制度化を求める動きがあり、地方の公共部門(スコットランド)では労使合意などの取り組みが進んでいる。 | ・ニューヨーク市議会に2018年「勤務時間外における電子通信での連絡を規制する条例案」が提出も成立せず。 ・燃え尽きの抑止、ワークライフバランスの確保、よりよい労働条件の提供による求人難解消等の観点から法制化を求める意見あり。 |
各国の主な調査結果
英独仏の各国では1993年EC労働時間指令93/104/EC(現EU労働時間指令2003/88/EC)が国内法化されており、原則として11時間を義務づけている。
- フランス
フランスでは、1998年第1次オブリー法により1日11時間の休息が義務づけられており、1週間当たり24時間の休息(日曜休日の原則)が義務づけられている。しかも、2000年には週35時間の法定労働時間が定められて、時間外労働を含む1週間の上限時間が原則として48時間と定められている。ただし、勤務間インターバルの適用除外や特例措置があり、経営幹部職員はほとんど全ての労働時間規制が適用されないほか、サービス・生産の継続が重要な業務、運送サービス業務、保管・管理業務などは業務の性質を踏まえて、労働協約を締結することにより9時間までインターバル時間を短縮することができる。関連統計を参照すると、フルタイム労働者の時間外労働を含む1週間の就労時間は38.9時間(2022年)である。2016年の数値であるが、時間外労働の時間数は1週間に2.19時間であり、このような統計数値を踏まえると、勤務間インターバル11時間は概ね遵守されていると考えられる。
「つながらない権利」については、フランスでは2017年に法制化された(労働法典L.2242-17条7号)。ただ、法律で「つながらない権利」に関する規則を規定しているわけではなく、労使交渉の協議事項に含めることを規定するものである。労働協約に規定されることを促す内容だが、労使で合意に至らなければ「つながらない権利」に関する規定をしたためた憲章の策定を促す条文となっている。この規定に違反したとしても罰則はない。「つながらない権利」に関する労使の取り組み状況について、政府による2022年の労使交渉に関するレポートでは、当該年に行われた労使交渉の結果、全ての労使が合意して成立した労働協約のうち「つながらない権利」に関する規定を設けているのは29.3%、3分の2の労働者が賛成した協約に限れば66.2%となっている。
- ドイツ
ドイツは、EU労働時間指令に沿って国内法を整備し、労働時間法(ArbZG)で「勤務間インターバル」を義務化することによって労働者の健康確保をしている。同法5条(1)は、1日の勤務終了後、少なくとも11時間の連続した休息時間を付与しなければならないと規定している。例外として、病院、看護、介護、飲食、宿泊等の施設、交通事業者、放送局、農業、畜産業については、連続休息時間を10時間まで短縮することができる(同法5条(2))。さらに、病院、看護、介護施設においては、呼出待機中の要請による休息時間の短縮は、当該の短縮が休息時間の半分を超えない場合、他の時間で調整することができる(同法5条(3))。「勤務間インターバル」の適用対象外となるのは、管理的職員や医長、公勤務機関における部局長等、人事事項について決定権限を持つ幹部労働者等である。また、公勤務、航空、内水航行、道路輸送の労働者等も、その特殊な勤務形態から、一部適用が除外されている。
「つながらない権利」については、ドイツでは法制化されていないものの、2011年頃から企業レベルで労働協約を締結する等の取り組みが見られる。また、2021年の「事業所委員会現代化法 (Betriebsratemodernisierungsgesetz)」により、事業所組織法(BetrVG)87条(1)14において、「情報通信技術を用いて行われるモバイルワークの具体的な内容」は事業所委員会において共同決定しなければならないという条文が追加された。
- イギリス
イギリスでも、EU労働時間指令の内容を受けて、労働時間規制(The Working Time Regulations 1998)によって国内法化された。24時間当たり連続11時間以上の休息、7日当たり連続24時間以上(または14日間当たり連続48時間以上)の休息を与えることが、使用者に義務付けられている。ただし、商船や漁船の船員は規則の適用が適用除外されるほか、軍隊、警察、民間航空(乗務員)、運転手(乗客、貨物輸送)は大半の規定が除外される。また、従事する職種・業種や、業務の性質等によって、つまりサービス・生産活動に連続性を要する場合、業務量が急増する場合や異常な状況や災害時等は、労働協約に基づいて規定内容の一部が適用除外となる。
「つながらない権利」については、イギリスにおいて現時点では法制化されておらず、政府には制度化の意向はないものとみられる。ただ、コロナ禍に自宅就業が普及する中で、仕事と私生活の境界線がより一層曖昧になったため、「つながらない権利」が状況改善策の一端として意識されつつあると見られる。例えば、イギリス労働組合会議(TUC)等は、マニフェストなどで「つながらない権利」の法制化を要求しているほか、野党労働党も労組からの要請を受けて、2022年の政策方針文書において法制化を掲げている。地方レベルでは、「つながらない権利」の制度化に向けた動きも始まっており、特にスコットランドでは、政府関係労組の連合体とスコットランド政府との間で、「つながらない権利」の導入に関して合意に至っている。
- アメリカ
アメリカにおける労働時間規制は、連邦レベルでは連邦公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)が最長労働時間を1週あたり40時間と定めているが、割増賃金を支払えば、この労働時間を超えて被用者を使用することが認められている。欧州等のような勤務間にインターバルを設ける規制は、自動車や飛行機の運転手など一部の職種を除き設定されていない。ただし、連邦労働省はシフト勤務の労働者を念頭に、「1日につき連続8時間以内の勤務とし、週5日間で(勤務間に)少なくとも8時間の休息を含む」よう求めるガイドラインを提供している。また、運転手や看護師など一部の職種については、それぞれの所管省庁の規則等に基づき、インターバル規制を設けている。このように、労働者の健康確保、事故防止等の観点から、長時間労働を抑制する措置がとられている。
「つながらない権利」に関する法規制は、アメリカでは連邦、地方(州、市、郡等)いずれのレベルでも確認できない。ただ、2018年にニューヨーク市議会で従業員10人以上の民間企業を対象として緊急時を除き勤務時間外に、仕事関連の電子通信へのアクセスを禁じる等を規定する条例案が提出された。しかし、経済団体が反対したため採択されなかった。具体的な法制化の動きは連邦、地方とも現時点で進んでいない。とはいえ、コロナ禍を経て在宅勤務が普及し、仕事と家庭生活の境界が曖昧になったことを契機として、従業員の健康と安全の確保、燃え尽きの抑止、ワークライフバランスなどの観点から、企業独自の取り組みが見られるほか、法制化の必要性を求める意見が研究者の論文や各種報道等に見られる。
政策的インプリケーション
欧州諸国において義務化されている勤務間インターバル制度の具体的な内容(時間数や運用状況等)は、日本での義務化をめぐる議論の参考となると考えられる。
政策への貢献
勤務間インターバル制度に関する法改正のための参考資料を想定。
本文
研究の 区分
情報収集
研究期間
令和5年度
調査・執筆担当者
- 北澤 謙
- 主任調査員補佐
- 飯田 恵子
- 主任調査員
- 樋口 英夫
- 主任調査員補佐
- 石井 和広
- 主任調査員補佐
(執筆順、肩書きは2024年3月現在)