首都やカリフォルニア州主要都市などで最賃引き上げ
―物価上昇に連動、7月から適用
首都ワシントンD.C.やカリフォルニア州の主要都市など米国の一部の州や市・郡が、2024年7月1日に最低賃金を引き上げた。これらの地方では毎年この時期に、物価の上昇に連動する形などで最賃を改定している。ワシントンD.C.では時給17.5ドル(2.94%上昇)、サンフランシスコ市では18.67ドル(3.32%上昇)となった。なお、カリフォルニア州ではファストフード店員を対象にした最賃(時給20ドル)を別途制定し、2024年4月から適用を開始した。同州ではこのほか医療従事者らを対象にした最賃を設定したが、州の財政事情などを考慮し、施行を延期している。
連邦最賃の2倍を超す州や市も
米国では連邦政府のほか、多くの州や主要な市、郡などが独自に最賃を設定している。特定の業種や職種を対象にした最賃を設ける場合もある。州や市などの最賃が連邦政府の定めた最賃(連邦最賃)を上回る場合、対象となる労働者には高い水準のほうが適用される。連邦最賃は2009年7月以降、時給7.25ドルで変わっていないが、全米50州のうち約半数は毎年のように改定。連邦最賃の2倍を超す水準を設定する州や市も少なからず出てきている。
各地の最賃の改定時期や改定方法はそれぞれ異なる。時期としては年初に改定するところが多く、2024年1月には全米50州のうち22州が引き上げた(注1)。次いで、暦年の下半期が始まる7月とするところが目立つ。改定方法は、米国全体あるいは各地における毎年の消費者物価指数等をもとに所定の計算式を適用し、物価に連動した額へと自動的に改定するものや、州法などで数年後に到達する最賃の水準を設定し、それに向けて毎年の引き上げ額を設定するものなどがある。後者の場合でも、目標額に達した後は物価連動とするケースが多い。
ネバダ州やシカゴ市で最賃を「一本化」
2024年7月1日に最賃を改定した主な州や市は、首都ワシントンD.C.(コロンビア特別区)や、ネバダ州、オレゴン州、カリフォルニア州の主要都市(サンフランシスコ市・郡、ロサンゼルス市など)、シカゴ市(イリノイ州)などである(図表1)。
図表1:米国の各州・市等における最低賃金の引き上げ状況(2024年7~9月) (単位:ドル/時給)
画像クリックで拡大表示
注:引き上げ時期(改定額の適用日)は備考欄に記載した州・市を除き、いずれも2024年7月1日。
出所:経済政策研究所(EPI)ウェブサイト等より作成
物価に連動する形で引き上げるワシントンD.C.では時給17.5ドル(2.94%上昇)、カリフォルニア州サンフランシスコ市では時給18.67ドル(3.32%上昇)となった。ロサンゼルス市は時給17.28ドル(2.98%上昇)で、別途定める客室60室以上のホテル従業員は時給20.32ドル(2.99%上昇)が適用される。
ネバダ州では健康保険を提供する事業者か否かで最賃に1ドルの差を設けていたが、今回の改定から、健康保険非適用事業者を対象とする高いほうの水準へと一本化した。また、イリノイ州シカゴ市では、従業員4~20人規模と同21人以上規模の事業所との間に設けていた最賃の差を解消させている。
カリフォルニア州ウェストハリウッド市では昨年(2023年7月)の改定で、「50人以上規模」「50人未満規模」「ホテル従業員」をそれぞれ対象とする3種類の最賃を、最も高い「ホテル従業員」対象の水準に統一した。これにより、当時、米国の自治体で最高額の最賃水準(時給19.08ドル)となった(特定の職業・職種等を対象とするものを除く)。だが、中小企業経営者やその業界団体などの反発は強く、昨年の最賃の引き上げや、同市で制定されたフルタイム労働者に対する年間96時間の有給休暇の付与義務により、多くの企業が運営難に陥り、従業員の解雇を余儀なくされたとして、これらの政策の凍結を要求。ホテル従業員対象の最賃は予定どおり7月1日に引き上げたが、その他の従業員対象の最賃引き上げは、2025年1月に先送りすることとなった(注2)。
なお、2024年7月1日時点で最も高い最賃(特定職業・職種を対象とするものを除く)は、ワシントン州のタックウィラとレントンの時給20.29ドル(ともに従業員500人以上規模、前者は2024年1月1日から、後者は2024年7月1日からそれぞれ適用)、次いで、同州シアトルの時給19.97ドル(ただし、従業員500人以下規模には、1時間あたり2.72ドル相当のチップまたは医療給付の拠出を条件に、時給17.25ドルの最賃を認める、2024年1月1日から適用)とみられる。
カリフォルニア州の職業別、職種別最賃
カリフォルニア州では2024年4月、全米に60店舗以上を持つ州内ファストフード店の労働者を対象とする、時給20ドルの最賃の適用を始めた(注3)。
このほか同州では2023年10月13日、医療従事者らを対象にした最賃を新たに設定する州法に、知事が署名して成立した(注4)。医療施設における従事者(医師、看護師など患者に医療サービスを提供する者だけでなく、清掃員や調理人、警備員など医療現場で働く従事者を広く含む)の最賃を、今後十年間で時給25ドルへと段階的に引き上げる。2024年6月1日に施行予定だったが、州の財政赤字解消が問題視されるなかで、1カ月延期された。その後、州知事と州議会指導者が、「2024年7~9月の歳入が当局の推計より3%高かった場合」という条件で、施行日は早くとも10月15日とし、2024年中の引き上げ開始は見送る見込みとなっている。
注
- 労働政策研究・研修機構(2024)「22州が最低賃金を引き上げ―2024年1月、990万人以上の労働者に影響」JILPT海外労働情報2024年1月参照(本文へ)
- 同市では企業が改定後の最賃を適用した場合、(1)破産や閉鎖、(2)従業員の20%以上の削減、(3)労働時間の30%以上の減少、のいずれかを招くことを証明できれば、適用を1年間免除(州最賃を適用)する措置を設けている。企業はこの措置の適用申請について従業員に書面で通知したうえで、必要な書類を作成して市当局に提出する。市は財務状況等を調査のうえ適用の可否を判断する。なお、カリフォルニア州の最賃(州最賃)は2024年7月1日現在、企業規模にかかわらず時給16ドルである。(本文へ)
- カリフォルニア州労使関係局ウェブサイト
参照(本文へ)
- カリフォルニア州立法情報ウェブサイト
参照(本文へ)
参考資料
- 経済政策研究所(EPI)ウェブサイト
- カリフォルニア大学バークレー校労働センターウェブサイト
- AP通信、ウェストハリウッド市、カリフォルニア州、シカゴ市、ブルームバーグ通信、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=161.57円(2024年7月3日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2024年7月 アメリカの記事一覧
- 首都やカリフォルニア州主要都市などで最賃引き上げ ―物価上昇に連動、7月から適用
- 残業代支給対象拡大の新規則施行 ―ホワイトカラー・エグゼンプション俸給要件引き上げ
- 「つながらない権利」に関する法案提出 ―カリフォルニア州議会
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2024年 > 7月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > アメリカの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 労働法・働くルール、労働条件・就業環境
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > アメリカ
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > アメリカ
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > アメリカ