米国救済計画法と失業保険加算措置

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2021年5月

バイデン大統領は3月12日、総額1兆9000億ドル規模の経済・雇用対策を内容とする「米国救済計画法(American Rescue Plan Act of 2021)」に署名した。個人への3回目の直接給付(一人あたり1400ドル)や失業保険給付の加算・特例措置の9月6日までの再延長などを盛り込んだ。同大統領が就任前の1月14日に発表した「米国救済計画」をもとに法制化した。失業保険給付の加算措置等については、「就職意欲を阻害している」との見方から、半数近くの州が6~7月中にも打ち切る意向を表明している。

「連邦最賃引き上げ」は削除

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大規模な経済・雇用対策は、トランプ前政権時代の20年3月(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法、CARES法、9000億ドル規模)、同12月(21年統合歳出法、2.2兆ドル規模)に続いて3回目。今回の法案は2月27日に下院で可決されたが、与野党が拮抗している上院での審議は難航。民主党穏健派議員の承認を得るため、(1)最低賃金の15ドルへの引上げに関する条項の削除(注1)、(2)直接給付対象者の縮小、(3)失業保険加算の減額、などを修正のうえ、3月6日に可決された。修正後の法案は下院で同10日にあらためて可決され、大統領が12日に署名して成立した。

1400ドルを直接給付

成人1人あたりの直接給付額は初回(20年3月)の1200ドル、2回目(同12月)の600ドルから1400ドルに増やした。初回は500ドルとしていた子どもに対しても、2回目と同様に成人と同額を支給することとなった。年収7万5000ドル(夫婦で15万ドル)を超す者への給付は段階的に減額し、年収8万ドル(夫婦で16万ドル)を超す者には支給されない。この支給対象者の上限は、当初法案の10万ドル(夫婦で20万ドル)から縮小された。

失業保険加算の影響

失業保険については20年3月の対策で(1)週600ドルの加算支給(連邦パンデミック失業補償、FPUC)、(2)ギグ・ワーカーやフリーランス、自営業者らを対象にした特例給付(パンデミック失業支援プログラム、PUA)、(3)受給期間満了者に対する最長13週間の継続給付(パンデミック緊急失業補償、PEUC)などの制度が設けられた。その後、21年統合歳出法によりFPUCの加算額を週300ドルに縮減したうえで、一連の特例措置の期限を3月中旬まで延長していた。

バイデン政権の当初の計画では加算額を週400ドルに増やす方針だったが、上院の審議で週300ドルのままとされた。その一方で、所得が15万ドル未満の世帯に対し、20年に支払われた最大10200ドルの失業保険給付を非課税の扱いとすることにした。一連の特例措置の期限は9月6日までとしている。

連邦労働省によると、米国の2021年4月の失業率は6.1%で前月より0.1ポイント上昇した。コロナ禍で2020年4月の失業率は前月の4.4%から14.7%へ急上昇。その後は改善を続けていたが、1年ぶりに悪化した。また、非農業部門の就業者数は、アナリストらによる約100万人増との予測を大幅に下回る前月比26万6000人の増加にとどまった。現地報道によると、予防接種を受けた人が増加し、経済活動が本格的に再開するにつれ、「募集をかけても人が集まらない」と各地で求人難の声があがっている。失業手当の加算措置等で就職意欲が低下していることも背景にあるのではと指摘されている。

全米商工会議所は5月7日、「政策立案者が今行うべきことは、毎週300ドルの失業給付の加算を終了することだ。会議所の分析によれば、受給者のおよそ4人に1人は仕事で稼ぐよりも、失業状態でいるほうが多くを得ている」とのコメントを発表。ニューヨークタイムズ紙によると、5月18日現在、全米50州のうち22の州(アラバマ、アラスカ、アリゾナ、アーカンソー、ジョージア、アイダホ、アイオワ、インディアナ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、ノースダコタ、オハイオ、オクラホマ、サウスカロライナ、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、ウェストバージニア、ワイオミング、ウィスコンシン)で、州知事らが6~7月中に加算措置を打ち切る意向を表明したりしている。フロリダ州でも24日、6月最終週より加算を打ち切る方針を示した。CNBCニュースによると、アリゾナ州とモンタナ州では、失業状態から新たに就職した者に1000~2000ドルの「ボーナス」を支給する。アリゾナ州では少なくとも10週間、モンタナ州では4週間働くことなどを条件とする。このほか、ニューハンプシャー州とオクラホマ州でもこうした「職場復帰ボーナス」の実施を発表している。

ただ、就職を阻害する要因としては、職場での感染の警戒、健康上の懸念、学校や介護・育児施設などが通常の運営体制に戻っていないことなどもあり、打ち切りの動きを危惧、批判する人も少なくない。

「給与保護プログラム」の期限を5月末に延長

従業員の雇用や給与水準を維持した場合に返済を免除する中小企業向け融資制度である「給与保護プログラム(PPP)」について、民主党では「何百万もの中小企業等を助けたが、数十億ドルは、だまし取られた可能性がある」(20年9月の下院小委員会における民主党の予備報告書)と執行の実態を問題視していた。バイデン大統領は就任後、改善策のひとつとして、従業員20人未満の小規模事業者だけを2週間の期間限定で受付の対象にする措置などをとった。米国救済計画法ではPPPの予算に72.5億ドルを追加し、21年3月末としていた申し込み期限を5月末に延長した。PPPは21年5月24日現在で合計約1162万件、総額約7959億ドルの融資が認められている。

このほか、経済的損傷災害融資(EIDL)の返済不要な補助金(所定の要件を満たす中小企業に最大10000ドルを提供)に150億ドル、レストランやバーなどの飲食店に対する助成金として250億ドルを計上している。

有給病気休暇、児童税額控除

従業員500人未満の中小企業等を対象にした緊急家族医療休暇(有給病気休暇、拡大家族・医療休暇)に基づく休暇付与の法的義務は20年12月に失効した。その後は企業が自主的にこうした休暇を付与する場合、税額控除の措置を設けることとした。今回の対策では税額控除を申請できる1人あたりの休暇日数をそれまでの50日(10週間)から60日(12週間)に拡大。これに伴い、控除額の上限を10000ドルから12000(1日200ドル×60日)ドルへと引上げた(期限は9月末まで)。

税制面では、17歳未満の子ども1人あたり2000ドルとしている児童税額控除(CTC)について、対象に17歳の子どもを含むこととし、1人あたり3000ドル(6歳未満は3600ドル)に引上げた(夫婦の総所得が15万ドルを超えると段階的に減額される)。

バイデン大統領は4月28日に「米国家族計画(The American Families Plan)」を発表し、こうした有給病気休暇や税額控除拡大措置を恒久制度化する考えを明らかにしている。

参考資料

  • CNBC、全米商工会議所、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、ホワイトハウス、連邦議会、連邦財務省、連邦中小企業庁、連邦労働省、各ウェブサイト

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