ニューヨークのアマゾン倉庫、労組結成案を可決

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  • 国別労働トピック:2022年4月

ニューヨーク市にあるアマゾン・ドット・コム社(以下:アマゾン社)の倉庫(物流センター)で3月25~30日に労働組合結成の是非を問う従業員投票が行なわれ、賛成多数で可決された。全米で二番目に多い従業員を擁する同社で、初めて労組が誕生する見通しとなった。

投票までの経緯

投票はニューヨーク市スタテンアイランドにあるJFK8と名付けられた倉庫(物流センター)で実施された。どの産別労組にも所属していない独立組織「アマゾン労働組合(Amazon Labor Union、ALU)」が労組結成に向けた運動を推進した。リーダーのクリスチャン・スモールズ氏は同倉庫の元従業員で、2020年3月に職場での新型コロナウイルス対策の不備に抗議する行動を展開。その後、会社側は同氏を職場の「健康と安全のガイドライン」に違反したという理由で解雇した。

同氏は退職後、現職の従業員と連携し、労働条件改善のため労組結成をめざした。その資金としてクラウドファンディング「GoFundMe」で10万ドルを超す支援を取得。2021年12月までに労組結成投票の実施に必要な従業員数の署名(組織化対象従業員の3割)を集め、全国労働関係委員会(NLRB)に提出した。会社側は2022年2月に「十分な数の正当な署名があることには懐疑的」としながらも「従業員は常に労組に加入できるかどうかを選択できる」として投票の実施に合意した。

会社側の対応

新型コロナウイルスの感染拡大に伴いeコマース(インターネットを通した電子商取引)の需要が高まる中で、アマゾン社の従業員は全米で100万人を超え、民間企業ではウォルマートに次ぐ規模となっている。だが、これまでどの職場にも労働組合は結成されていない。2021年2~3月にアラバマ州ベッセマーで従業員投票が行なわれたが、反対多数で否決された(注1)

アマゾン社は労働条件について労働組合ではなく、従業員個人と直接交渉するとの立場をとる。今回の投票にあたってはウェブサイトを通して、(1)2018年11月に全米における同社職場の最低賃金を15ドルに設定し、各地の労働者の賃金を底上げした、(2)医療保険、確定拠出年金401(k)などで充実した福利厚生を提供している、(3)最大20週間の有給育児休暇を付与している、と訴えるなどして、労組結成に「反対」の投票を従業員に呼びかけた(注2)

なお、現地報道によると、同社では「組合つぶし」を指南するコンサルタントを雇い、その費用として2021年に全米で約430万ドルを支出したと連邦労働省に報告している。

投票結果

NLRBが4月1日に公表した投票結果によると、従業員8,325人のうち4,869人が投票した。賛成が2,654票で反対の2,131票を上回り、労組結成案が承認された(このほか、投票異議(challenge)」が67票、「無効」が17票。)(注3)

ALUは「JFK8の労働者は歴史をつくった」と勝利宣言。当面の要求として、(1)従業員が負傷した際に時間単位の有給休暇を直ちに付与する、(2)物価上昇に対応するため賃上げを行なう、(3)休憩時間を5分延長し、昨年10月より前の20分に戻す、などを求めていく考えを示した(注4)

アマゾン社は「投票結果に失望している。会社と直接関係を持つことが従業員にとって最善であると信じているからだ」とコメント。投票の際に「NLRBによる不適切で不当な影響」があったとして、異議を申し立てる可能性(注5)に言及している。

他の倉庫

22年4月25日にはスタテンアイランドの別の倉庫LDJ5(従業員規模約1,500人)でも同様の従業員投票が始まる予定になっている。

前述したアラバマ州ベッセマーの同社倉庫では、労組結成に取り組む小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)が2021年2~3月の投票を「公正な環境下で行なわれなかった」としてNLRBに異議を申し立てた。NLRBアトランタ地方支局は2021年11月29日にRWDSUの主張を認めて再投票を命令。これを受け、2022年2~3月に2回目の投票が行なわれた。

NLRBが3月31日に発表した投票結果によると、従業員数6,153人のうち2,343人が投票した。労組結成案は反対993、賛成875の反対多数となったが、「投票異議」が416票に達した(残る59票は無効)。「投票異議」票の総数が投票結果を左右する場合は、調査のうえ再集計する可能性があるため、結果は確定していない(注6)

 

参考資料

  • アマゾン・ドット・コム社、アマゾン労働組合、全国労働関係委員会、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、各ウェブサイト

(ウェブサイト最終閲覧:2022年4月6日)

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