労働者の組織化、権限強化を提言
 ―ホワイトハウスの検討部会

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  • 国別労働トピック:2022年4月

ホワイトハウス(米大統領府)は2月7日、「労働者の組織化と権限強化に関する検討部会(White House Task Force on Worker Organizing and Empowerment)」の報告書(以下「部会報告」)を発表した。連邦政府が率先して労働者の組織化、権限強化を進める方針を示し、その具体的な取り組みを提言している。同部会は8月までに報告内容の進捗状況をまとめる予定。

連邦政府を雇用主のモデルに

検討部会は2021年4月26日の大統領令で設置された。ハリス副大統領を議長、ウォルシュ労働長官を副議長とし、労働者の組織化や権限の強化に向けた取り組みを検討してきた。部会報告は「行政機関の既存の権限を行使し、労働者の組織化、権限付与に対する長年の障壁を取り除く」ことを目的に据え、約70項目に及ぶ提言を列挙。それらの柱として、(1)連邦政府を雇用主のモデル(模範)と位置づけ、その職員の組織化や団体交渉を進展させる、(2)団体交渉に関する一般の理解や支援を向上させる、(3)現行法の効果的な執行を確保する、(4)労働者の組織化と権限強化に関する政策推進のための調査やデータ収集を促進する、といった方針を掲げている。

「説得者」に関する情報開示

部会報告は「労働者、労働組合、株主、出資者らは、その会社の雇用主が労働者の組織化の努力を打ち負かすために行う「説得者(Persuader)」の活動の範囲と費用について知っておく必要がある」と指摘する。そして、労組結成を阻む雇用主の行動に関する情報の開示を進める観点から、連邦労働省に対して「説得者」に関する報告政策の強化を促した。

「説得者」とは、雇用主の依頼で労働者側との交渉に携わる弁護士やコンサルタントを指す。労使情報報告・公開法(The Labor-Management Reporting and Disclosure Act 、LMRDA)は、雇用主とコンサルタントに対して、団体交渉権について従業員を説得するため、または労働争議に関連する従業員または労働組織の活動に関する情報を入手するための合意や取り決めについて、連邦労働省労使基準局(Office of Labor-Management Standards、OLMS)に報告することを定めている。また、2009年に当時のオバマ大統領が、連邦請負契約の資金を、労働者の組織化を阻むための費用(資料の作成・配布、法律顧問・コンサルタントの雇用など)に充てることを大統領令(EO13494)で禁じた。

部会報告はEO13494の趣旨を徹底させるため、OLMSへの報告フォームに(1)申請者が連邦請負契約の事業者に該当するかどうか、(2)「説得者」の活動が連邦請負契約に関連しているかどうか、を記載する欄を設けることなどを提案している。

雇用主による報復からの保護

また、部会報告は連邦労働省などに対して、労組の組織化や団体交渉を行なう権利を行使する労働者らを雇用主による報復から保護する取り組みを積極的に行うよう求めた。連邦労働省が全国労働関係委員会(National Labor Relations Board, NLRB)と協力し、全国労働関係法(National Labor Relations Act 、NLRA)の下で保護されている労働者の権利を行使する者への報復の苦情の照会に関する覚書(Memoranda of Understanding、MOU)を活性化する必要性などを提言している。連邦労働省OLMSとNLRBとのMOUでは、法令違反の団体や個人に関する情報の共有、調査・調整などについて取り決めを交わしている。

組織化推進政策の意図

なお、部会報告では「(バイデン)大統領が「労組は中間層を築き、労働者全体を向上させる」と述べたように、我が政府は「労組がみなに利益をもたらす」ことを信念にする」との見解を表明している。そして労組組織率と年間国民所得に占める上位10%層の所得の比率の推移を分析したリベラル系のシンクタンク・経済政策研究所(Economic Policy Institute, EPI)による調査報告の図(図1)を引用。労組の組織率上昇が所得格差の縮小につながるとして、労組の組織化や強化を進める政策の必要性を強調している。

図1:米国における労組組織率と年間所得の上位10%層比率の推移
画像:図1

  • 出所:Celine McNicholas, Heidi Shierholz, and Margaret Poydock (2021) Union workers had more job security during the pandemic, but unionization remains historically low, Economic Policy Institute.(「年間所得の上位10層比率」の数値はThomas Piketty and Emmanuel Saez (2003) “Income Inequality in the United States, 1913–1998,” Quarterly Journal of Economics 118, no.1 をもとにEPIが更新)

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧:2022年4月6日)

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