アマゾン倉庫労働者の労組結成をめぐる動向

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  • 国別労働トピック:2021年11月

アラバマ州ベッセマーにあるアマゾン・ドット・コム社(以下アマゾン社)の倉庫(商品の保管・梱包・発送等を行なう配送センター)で働く労働者が2021年2~3月、労働組合結成の賛否を問う従業員投票を行った。「反対」が投票者の約6割に達して組織化を否決。民間企業では全米で二番目に多い従業員を有する同社で初めての労組結成には至らなかった。結成に取り組んだ小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)は、公正な環境下で投票が実施されなかったと主張。NLRBに対して異議を申し立て、8月に再投票の勧告案が示された。また、これとは別に、ニューヨーク市のアマゾン社倉庫群でも労組結成の動きが生じている。

反対多数で否決

NLRBが4月9日に発表した集計結果によると、従業員5876人のうち3041人が郵便で投票。賛成票を投じたのは738人にとどまり、反対票が1798人(投票者の59.1%)にのぼった(このほか無効76票、要再集計が505票)。賛成票は労組結成に必要な投票者の過半数に遠く及ばなかった。

アマゾン社は「組合は『従業員を脅迫したので勝った』と言うだろうが真実ではない。従業員は組合への加入に反対票を投じることを選択したのだ」との声明を発表した。現地報道によると、会社は従業員に最低でも時給15ドル(同州最低賃金の2倍)の賃金を支払い、健康(医療)保険にも加入。会社側は「こうした待遇を提供しているのに組合費を払う必要がどこにあるのか」と訴え、「(組合の)会費なしでやろう(Do it without dues)」をスローガンに、反対への投票を促した。

職場環境の改善求める

労組の結成にはRWDSUが取り組んだ。ニューヨークタイムズ紙によると、昨夏に同倉庫の従業員がRWDSU支部と接触。彼らは「勤務状況が監視カメラなどのテクノロジーで厳格に管理され、トイレ休憩も満足にとれない」と過酷な職場環境の改善を訴え、会社側と交渉するため組合結成を求めた。

米国で労働組合を結成するには、まず、従業員が相当数(従業員の30%以上)の支持を集め、その証拠(署名カード)をNLRBに提出する。NLRBが組合結成の対象となる職場で選挙を実施し、過半数の労働者が賛成すれば、組合を結成できる(注1)

従業員側は2000人の署名カードを集めてNLRBに提出した。その後、会社側が労組加入のデメリットを説明する会議に従業員を参加させたり、社内のいたるところに先述のスローガンを記載したポスターを掲示するなど、労組結成を食い止める試みを強めたため、労組への支持は減っていったという。

投票結果を受け、RWDSUは「会社側の行為が混乱、強制、報復の恐れといった雰囲気を生じさせ、従業員の選択の自由、組合活動に従事する従業員の保護された権利を不当に妨害した」と主張。選挙が法に基づく公正な環境の下で実施されなかったとして、NLRBに対して異議を申し立てた。

RWDSUの主張によると、アマゾン社は米郵政公社に依頼し、倉庫施設入口付近の監視カメラに映る場所に郵便箱を設置。会社側は個々の従業員の投票行動を把握できるようになり、例えば投票に参加しないよう圧力をかけられるなど「公正な環境」が損なわれたという。

労組結成支援の動き

コロナ禍の店舗閉鎖でオンライン購入の需要は急増した。これに対応するためアマゾン社では2020年に全世界で約40万人を採用し、大きな雇用の受け皿となった。米国における同社の従業員数も80万人を超え、ウォルマートに次ぐ規模になった。だが労組はどの職場にも作られていない。

米労働統計局によると、2020年の米国の労組組織率(賃金・給与所得者に占める労組加入者の割合)は10.8%で、40年ほど前(1983年)の20.1%から半減している。とくに1983年に16.8%だった民間部門の組織率は6.3%まで低下した。米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)や主要労組は、組織率の低下に歯止めをかけるとともに、公共部門や製造業などを中心とする労働組合運動を新たな産業分野へと拡大する狙いから、同社での労組結成を重視して支援した。

また、同倉庫の従業員の75%以上がアフリカ系であることから、結成推進者は「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)運動」との連帯も試み、黒人が多く働く職場の労働条件の改善を訴えた。

バイデン大統領も2月28日に「誰が組合に加入するかどうかを決めるのは私ではないが、雇用主でもなく、労働者しだいだ。すべての労働者は、組合に加入するための自由で公正な選択をすべきだ」と述べ、同社での組合結成の動きに事実上賛同する立場を表明していたが、実現に向けた試みは頓挫する形になった。

再投票の勧告案

RWDSUからの申立てを受け、NLRBは調査を実施。NLRBの聴聞官は8月2日、「郵便箱を設置した行為は、会社側が投票用紙を収集・集計する役割を果たす印象を従業員に与え、労働組合選挙の管理におけるNLRBの専門的役割を侵害した」などと指摘し、再投票の実施を勧める勧告案をまとめたことを明らかにした。NLRB地方支局長が承認すれば、正式に決定する。この内容に不服があれば、NLRB本部に申立てを行うことができ、本部の委員が勧告の是非を判断する。

こうした中、輸送・流通関係者を組織するトラック運転手労組(チームスターズ)が6月24日、アマゾン社の倉庫で働く者を支援する決議を採択。労働条件向上、労働者の権利確保のため、必要な資金を提供するとした。11月18日に新会長に選出されたショーン・オブライエン氏(22年3月就任予定)はこうした決議の努力は遅すぎたと主張し、アマゾン社の従業員を組織化することの重要性を訴えている。

一方、ニューヨーク市スタテンアイランドのアマゾン社倉庫群でも労組結成の動きが生じている。「アマゾン労働組合(Amazon Labor Union)」の組織化をめざす元労働者らのグループ(注2)が10月25日、6カ月間で約2000人の署名を集めてNLRBに提出し、組合結成の投票を申請した。これに対し会社側は「署名は投票に必要な数に満たない」と主張。同グループは「より多くの署名を集める」として申請を一時取り下げるなど、組合結成をめぐる労使の綱引きが続いている。

参考資料

  • アマゾン労働組合、ウォールストリートジャーナル、経済政策研究所、小売・卸売・百貨店労働組合、全米労働関係委員会、大統領府、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、米労働総同盟・産別会議、連邦議会、労働統計局、各ウェブサイト

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