障害者雇用に向けた新たな取り組み
―北京市
北京市は、2018年7月「障害者の就職を更に促進する若干+措置」を発表した。同措置は、障害者の最低賃金の引上げや起業の支援、および事業主に対する助成金や税制優遇を通じて、障害者の雇用促進を図るものである。
中国における障害者雇用法制
中国の障害者に関する雇用法制は、1982年憲法(現行法)、1990年障害者保障法(2008年改正)および2007年障害者就業条例からなる。1982年憲法により初めて障害者への言及がなされ、彼らが労働の権利・義務を有すること、国家がそれを支援することが明記された(注1)。また、障害者就業条例では、法定雇用率1.5%が定められた(注2)。
これらに基づく法規の制定により、以降、障害者の労働就業にかかる定めや政策が示されてきた。近年では、「障害者の雇用率の促進に関する意見」(2013)や、『障害者就職促進「第13次5カ年計画」(2016~2020年)実施方案』(注3)などが出されている。いずれも、実施には地方政府による具体的な定めが必要だ。
北京市で、障害者の最低賃金を引上げ
北京市人民政府によれば、2018年5月20日時点で障害者証明を持つ障害者は市内に51.76万人、そのうち、労働年齢を満たすものが18.86万人、就職しているものが13.03万人とされる(注4)。去る7月、市政府は障害をもつ人々の一層の雇用促進に取り組むため、「障害者の就職を更に促進する若干+措置」(以下:「措置」)を公布した。
「措置」により、まず、障害者従業員の最低賃金が、同市最低賃金基準の120%以上と定められた。同市における最低賃金はほぼ毎年引き上げられており、2018年9月1日、全日制従業員については、月額2000元から2120元に、非全日制従業員については時給22元から24元に、法定休日労働は時給52.6元から56元に上昇した(注5)。これにより、障害者の最低賃金は、全日制従業員の場合、月額2544元、非全日制従業員の場合、時給28.8元となる。
障害者を雇用する事業主に対する助成金
「措置」はまた、事業主が障害者を雇い入れた場合、ポスト助成金および社会保険助成金を付与するとしている。
「ポスト助成金」を受給できるのは、①事業主が障害労働者を雇用し、1年以上の労働契約を結び、かつ、当該市の最低賃金の120%以上の賃金を支払い、都市部従業員社会保険を支払っている場合、または、②公的機関や政府系事業組織が障害労働者を雇用し、かつ、当該市の最低賃金の120%以上の賃金を支払い、都市部従業員社会保険を支払っている場合―である。そのうち、同一の事業体で3年以下勤続する障害者であれば、事業主は障害をもつ労働者1人あたり毎年当該地域の月額最低賃金の6倍のポスト助成金を受け取ることができる。同一の事業体で3年を超えて勤続する障害者であれば、事業主は同一人あたり毎年当該地域の月額最低賃金の8倍のポスト助成金を受け取ることができる。付与されたポスト助成金は、事業主によって障害者従業員に賃金、福利、社会保険、安全衛生、職業訓練、障害者のための環境整備などに支出されなければならない。
このほかに「社会保険助成金」を同時に受領することも可能である。事業主は、重度身体障害者、知的障害者、精神障害者を雇用すると、社会保険料について企業負担分総額の50%を「社会保険助成金」として享受できる。
障害者の起業に対する助成
障害者の起業支援としては、これまでも2001年、2009年にそれぞれ、起業した障害者への助成を定める規定が作られてきた。今回、新たな「措置」と実施細則により、北京市に居住する障害者が自主的に起業する場合、最大5万元から10万元の助成金を受け取ることができるようになった。
障害者が個人事業主である場合、経営開始後1年で、最大2万元を超えない自主起業助成金が付与される。その後、経営が持続する場合、2回を限度として、1回につき最大1.5万元の助成金を受け取ることができる。従って、合計3回、最大5万元の助成金を受け取ることが可能である。
障害者が企業などの生産経営団体や、社会団体、NPOなどの社会組織を設立し、かつ法人代表を担当する場合、経営開始後1年で、最大4万元を超えない自主起業助成金が付与される。その後、経営が持続する場合、2回を限度として1回につき最大3万元の助成金が付与される。従って、合計3回、最大10万元の助成金を受け取ることが可能である。
障害者の職業訓練に助成
以上に述べた支援の他、事業主および障害者本人を対象とした職業訓練への助成もある。
事業主の場合、障害者従業員に自社で職業訓練を実施するか、あるいは職業訓練機構に委託して職業訓練を実施することで、北京市各区の障害者連合会に職業訓練費用基準の80%を助成金として申請することができる。
障害者本人の場合、自主的に国家または市レベルの障害者職業訓練所で職業訓練に参加して、職業資格証書や職業訓練修了証書などを取ると、訓練費用と資格取得費用の全額(2400元を上限)を助成金として受け取ることができる。人力資源と社会保障部の認定した職業訓練機構で職業技能訓練や起業訓練に参加し、職業資格証書や修了証書あるいは起業訓練合格証書などを取得すると、訓練費用の80%(2400元を上限)を助成金として受け取ることができる。ただし、1人あたり毎年1回に限られる。
注
- 障害者の雇用法制については、小林昌之「中国の障害者雇用法制」『アジアの障害者雇用法制:差別禁止と雇用促進 (PDF:331KB)』(アジ研選書、IDE-JETRO)(2011)を参照。(本文へ)
- 1.5%を下限として地方政府が各地の実状に合わせ定める。北京1.7%、上海1.6%、広州1.5%、大連1.7%など。(本文へ)
- 同5カ年計画については、JILPT海外労働情報参照。(本文へ)
- 数値については、北京市人民政府のウェブサイト参照。(本文へ)
- 全日制従業員とは、一般の労働契約を結ぶ労働者を指し、これには、期間の定めのあるもの、期間の定めのないもの、一定の仕事の完成をもって期間の定めとするものが含まれる。また、非全日制従業員とは、時間単位で賃金を得、一事業主につき日4時間以下かつ週24時間以下で就業する労働者のことを指す。(本文へ)
参考文献
- 北京市人民政府、北京日報、北京晨報網、北京市障害者連合会
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=16.31円(2019年2月19日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2019年2月 中国の記事一覧
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- 「企業年金新法」を公布
- 上海市における高技能人材の育成と優遇政策
- 障害者雇用に向けた新たな取り組み ―北京市
関連情報
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