ミスマッチ解消に向け「産教融合」

カテゴリー:若年者雇用人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2019年2月

国務院(政府)は2017年12月に「産教融合の深化に関する若干の意見」(以下:「意見」)を発表した。最先端分野で活躍できるハイレベルの人材を育成するため、職業に関する教育への企業の参入を促すなど、産業界と教育界が「融合」して取り組む方針を決定。高度な技術を身に付けた学生を採用したい企業と、身に付けた技術や知識を活かせる職場に就職したい学生とのマッチング向上の効果も狙う。

相次ぐ政府方針

企業が求めるハイレベルの人材を育成するため、政府(国務院)は産業界の参入による職業教育の改革を進めている。まず2014年6月に「現代職業教育発展の加速に関する決定」を公布し、職業教育への企業の積極的参加、「産教融合」(産業界と教育界の融合)による学校教育と職業との接続の推進などの方針を示した。2015年11月には「世界一流大学・学科の建設方案に関する通知」を出し、世界トップクラスの大学・学科建設に向けた「産教融合」の深化を呼びかけた。

そして2016年3月に中国共産党中央委員会が「人材育成の制度改革の深化に関する意見」を通知し、企業と学校の協力による技能人材育成モデルを確立すべきだと主張した。また、同年12月には教育部と人力資源・社会保障部、工業・情報化部が「製造業人材発展計画指針」を公布し、製造業の人材育成のため教育界と産業界が協力すべきとの方針を掲げている。

2017年12月に政府が発表した「意見」は、「産業と教育の融合を深め、教育、人材、産業、イノベーションを結びつけることは、現在の人的資源供給側の構造改革推進にとって切迫した課題」だと指摘。そのうえで、「業界や企業が教育に参入する程度を徐々に高め、多様な学校運営体制を用意し、学校と企業の連携による人材育成を全面的に推進する」「今後10年程度の時間をかけて、教育界と産業界が協力して、人材教育の供給側と産業需要との間に存在するミスマッチを基本的に解消する」ことなどを提起している。

中国では9年制の義務教育(小学校、初級中学)の後、普通教育を行なう高級中学(3年制)と、職業教育を行なう中等職業学校に分かれる。後者には、中等専門(専業)学校(3~5年制)、技術労働者学校(技工学校、3年制)(注1)、職業中学(2~3年制)などがある。また、職業教育の高等教育機関として、職業技術学院が設置されている。

「意見」は「産教融合」を職業教育にとどまらず、教育システム全体に波及させる考えを示したものだ。

具体的には、(1)職人精神の育成を基礎教育に組み込む、(2)ものづくり体験を小中学校の関連授業に入れ込み、生徒の素質を評価する、(3)条件の許す普通中学に職業系履修科目を開設する、(4)職業学校における実践訓練の拠点施設を普通中学に開放する、(5)条件の許す地方は、大企業や産業団地の周辺に、普通科と職業科の融合した総合高校を試験的に創設する、(6)学術型人材と応用型人材と分けて育成する高等教育(大学)のシステムを整え、応用型人材を育成する比率を高める、(7)ハイレベル大学でのイノベーション人材の育成を強化する、ことなどが提案されている。

このほか工業・情報科部が2017年12月に出した「次世代人工知能(AI)産業の促進に関する3年行動計画(2018~2020年)」にも、学校と企業が協力し、大学でのAI関連学科の創設や、産業発展のため緊急に求められる技能人材を職業学校で養成する計画が盛り込まれている。

ミスマッチと「校熱企冷」

復旦大学と清華大学が2016年10月に発表した「中国労働市場の技能者不足研究」によると、高度技能者への企業のニーズは高いが、供給側(学校教育)との間にミスマッチが生じており、必要な人材を確保できていない。大卒者の場合、入社して半年以内に離職する者が3分の1にのぼり、約7割の企業が「大学で学ぶ知識はあまり実用的なものではない」と考えている。

一方、中等職業教育では学生不足、規模縮小、専任教師不足といった問題に直面している。国家財政の経費の投入は普通教育に偏重。実践的な教育が欠如し、企業の参入意欲は低く、産業界との連携もかみ合わない。農民工の教育水準の低さ、技能不足も問題となっている。

産業界と教育界の協力については、「校熱企冷」(学校は熱心だが、企業は冷静)と言われるように、現状では両者で温度差があるようだ。

華泰(ホワタイ)証券が2017年12月に発表したレポートは、両者の連携が進まないのは、以下の理由があるからだと指摘している。学校は企業で在校生に実務を経験させたいが、それが企業の利益に直結するには限界がある。中小企業は短期の利益を重視し、教育への投資意欲が高くない。大企業の数は少ないので、学校側の需要を満たせない。学校側は連携相手として、業界のトップで、技術研究の実力を備え、長期的な関係を築ける企業を探すが、そのハードルは高い。連携のための枠組みが欠けている。

「意見」は「産教融合」にあたって、企業が主体的な役割を果たすことが重要だと強調した。そして、企業が学校を設立するための参入条件の透明化、手続きの簡素化を行い、「引企入教」(企業を学校教育に誘導する)の改革を実行する方策を提示。企業が単独投資、合弁投資、業務提携などの形で職業教育、高等教育に参入することを勧めている。

IT大手・科大訊飛(アイフライテック)は2012年に安徽工程大学と連携して、安徽工程大学機電学院を創設した。2016年には安徽情報工程学院に改名し、科大訊飛の全額出資の普通高等学校(大学)となり、コンピュータ・ソフトウェア、情報、機械などの学部が設けられ、約9000人が学んでいる。

武漢凡谷電子技術有限会社は2008年に武漢凡谷電子職業技術学校(中等専門学校)を創設した。3年間の中等職業教育のほか、従業員訓練・継続教育も行っている。生徒は約2000人で、ほとんどの卒業生が同社(グループ企業を含む)に就職している。

政府はこのような企業の教育分野への参入を進め、必要な人材を供給できるように教育の枠組みを整備したい考えだ。

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