上海市における高技能人材の育成と優遇政策

カテゴリー:人材育成・職業能力開発地域雇用

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  • 国別労働トピック:2019年2月

近年、中国において研究者や専門家等のハイレベル人材に対する需要が高まる一方、現場で活躍する技能人材の不足が課題として挙げられる。中国政府による政策提言が行われるなか、上海市は、技能人材、とりわけ高技能人材を対象とした優遇政策を進めている。

技能人材の状況と中央政府の政策

中国では、日本の「技能士」に相応する、国家職業資格を持つ技能労働者が、2017年末時点で1.65億人存在する。この国家職業資格は、技能レベルと経験年数等に基づき、初級工、中級工、高級工、技師、高級技師の5段階に分かれる(注1)。高級工、技師、高級技師の資格を持つ労働者は「高技能人材」と呼ばれ、全技能労働者の3割にあたる4971万人を数える。

最上位の資格である高級技師の資格を取得するには、優れた技能はもちろん、当該職種で最低15年程度の経験を要する。それにもかかわらず、学歴社会を重視する中国社会では、技能者に対する待遇や社会的評価が低く、さらに、反復的で退屈な技能作業を避ける若者も増えるなど、技能人材が希少な存在となりつつある。

このような状況を受け、中国政府は、技能人材、特に高技能人材を養成するため、「新時代における産業労働者チーム創設の改革法案」(国務院、2017)や「職業技能への終身育成制度の推進に関する意見」(国務院、2018)、「技能労働者の待遇の向上に対する意見」(国務院、2018)などの促進策を立て続けに発表した。

上海市の優遇政策

上海市では、2010年より「首席技師の育成と選抜の千人計画」に着手し、重要な産業における高技能人材育成施設の建設、大企業の自主的な職業技能訓練の奨励、助成金の付与などを通して高技能人材の育成を図ってきた。2017年末時点で、同市には高技能人材育成施設が102カ所あり、330万人超の技能人材のうち高技能人材が32.08%(106.8万人)を占める。

同市政府はまた、技能人材の育成と高技能人材の誘致のために、今年6月に「技能向上行動計画(2018~2121年)」を発表した。2021年までに、毎年100万人の技能労働者を対象とした技能訓練を実施、高技能人材を技能労働者の35%以上に拡大するという目標を掲げている。同計画は、「サービス」、「製造」、「ショッピング」、「文化」の4つの領域における上海ブランドの発展に向けた、技能人材育成に関する包括的な取り組みを示すものである。その内容は、養成、評価、技能競技、誘致、待遇、激励、保障等の多岐テーマにわたり、例えば、技能人材の待遇面では、収入水準の上昇に向けた取り組み、特に高技能人材に対する年俸制と自社株報償などの激励制度や、住宅問題を解決するために各地域・企業が技能人材に公的賃貸マンション(注2)や住宅手当を付与することなどが計画に含まれる。

上海市における技能人材の賃金水準

上海市人力資源と社会保障局は、2017年上海市の2700社企業で、国家職業資格を持つ約13.5万人の技能労働者を対象に調査を行った。これによると、彼らの基本賃金、賞与、手当、残業代などを含む年間収入中央値は9.54万元(約158万円)で、同年の上海市の8.56万元(約142万円)の1.1倍であった(注3)。技能レベルが高いほど年間収入が高く、技能レベル別の年間収入中央値は、初級工7.31万元、中級工10.24万元、高級工12.25万元、技師12.43万元、高級技師14.22万元である。上位3資格のいずれかを有する高技能人材の年間収入中央値は12.5万元と、平均年収の1.5倍にのぼる。

業種別に見ると、交通運輸、倉庫、郵政業に従事する高技能人材の収入が最も高く、彼らの年間収入中央値は14.76万元であった。次に製造業の13.87万元、卸業と小売業の9.28万元、住民サービス・修理とその他のサービス業の8.8万元、宿泊と外食業の8.5万元が続く。

上海市における高技能人材の賃金水準は年々上昇しており(注4)、優遇政策はこの傾向を一層強めるものとなる。

参考資料

  • 人民網、中国新聞網、中国政府網、上海市人力資 源と社会保障局

参考レート

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