障害者100万人に無料職業訓練

国務院(政府)人力資源・社会保障部など(注1)が2016年10月に発表した『障害者就職促進「第13次5カ年計画」(2016~2020年)実施方案』によると、2016年からの5年間で、都市部の障害者100万人に無料職業訓練を提供して50万人の新規就業を実現することや、中西部の農村貧困障害者50万人に無料技術訓練を行うことなどの目標を掲げている。本稿では中国における障害者雇用対策の現状を概観する。

「集中就業」と「分散就業」

中国では障害者を「心理上、生理機能、身体上の組織や機能を喪失、あるいは異常があるため、正常な状態での活動能力の全てあるいは一部を失った人」(障害者保障法)と定義している。そして、視力障害、聴覚障害、言語障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、重複障害、その他の障害をもつ者を含むとされている。

国家統計局の推計によると、2010年末時点の全国の障害者数は8502万人で、視覚障害1263万人、聴覚障害2054万人、言語障害130万人、肢体不自由2472万人、知的障害568万人、精神障害629万人、重複障害1,386万人である。障害の程度別に見ると、重度障害が2518万人、中度・軽度障害が5984万人となっている。

国務院が2007年5月に公布した「障害者就業条例(以下:「条例」)」は、障害者の就職支援の枠組みとして、(1)政府設立の福祉企業や盲人按摩(マッサージ)機構などへの就業、(2)常用労働者の数に対する一定の割合の雇用を事業主に義務づける、障害者雇用率(割当雇用)に基づく就業、(3)創業・自主就業、(4)公益性ポスト(注2)への就業、をあげている。また、知的障害者、精神障害者、重度の肢体不自由者に対しては、2015年に中国障害者連合会(注3)などが公布した「障害者補助性就職の発展に関する意見」に基づく(5)補助性就業(注4)がある。なお(1)は「集中就業」、(2)~(4)は「分散就業」といわれ、「条例」は両者を組み合わせて、障害者の就業を進める方針を示している。2011~15年のそれぞれの就業者数は表1のとおりである。

表1:都市部の障害者の就業者数(2011~15年) (単位:万人)
  2011 2012 2013 2014 2015
都市部就業者 440.5 444.8 445.6 436.0 430.2
都市部新規就業者 31.8 32.9 36.9 27.8 26.3
内訳
(1)福祉企業などでの集中的な就業 9.7 10.2 10.7 7.6 6.8
(2)雇用率に基づく就業 7.5 8.0 8.7 7.0 6.6
(3)創業・自主就業 12.5 12.3 14.6 10.7 10.3
(4)公益性ポストへの就業 2.1 1.8 1.5 1.2 1.2
(5)補助性就業 0.7 1.3 1.3 1.3
  • 資料出所:鄭功成編(2017)

障害者就業サービス機構の役割

「条例」が定める法定雇用率は、各雇用単位(政府機関、団体、企業等)で従業員総数の1.5%を下回ってはならないとするものである。具体的な数値は地方政府が当該地域の実情に基づいて定めることになる。

法定雇用率に達しない企業は「就業保障金」の支払いが義務付けられている。これは、障害者の就職支援策に充てられる。具体的には、財政部や中国障害者連合会などが2015年に公布した「障害者就業保障金徴収・使用管理弁法」に基づき、(1)職業訓練、職業教育、職業リハビリテーション、(2)「障害者就業サービス機構」が提供する各種支援事業、(3)障害者の創業資金や少額ローンの補助金、などに活用する。

「障害者就業サービス機構」は「条例」第22条に基づき中国障害者連合会及びその地方組織につくられる。障害者に対して無料で、(1)職業情報の発信、(2)職業訓練、(3)職業カウンセリング、適性評価、職業リハビリテーション、職業紹介、(4)自主的な就業支援、などを実施するとともに、(5)障害者を雇用する企業に対して必要な支援を行う。

また、企業などでの障害者雇用を促進するため、2016年に財政部国家税務総局が出した「障害者の就業を促す税収優遇政策に関する通知」に基づき、月あたりの従業員の25%以上を障害者が占め、かつ障害者を10人以上雇っている企業は、税制優遇措置を受けられるようにしている。

訓練の種類と具体例

障害者に対する公共職業訓練は現在、(1)就業技能訓練、(2)在職者向けの技能向上訓練、(3)創業訓練、の3種類に分けられ、各種訓練機関等で実施されている(表2)。

表2:障害者職業訓練の種類
種類 対象者 訓練機関等 主な訓練内容
就業技能訓練 障害者の新成長労働力(新規学卒者等)、都市部登録失業者 技術労働者学校、職業学校、企業の職業訓練機構、就業訓練センター、民間職業訓練機構 初級技能
専門技能
在職技能向上訓練 在職中の障害者 各種職業訓練機構 技能レベル向上
創業訓練 創業希望の障害者 各種職業訓練機構 創業能力
企業経営管理
  • 資料出所:人力資源・社会保障部『障害者職業技能向上計画(2016-2020年)』

中国障害者連合会によると、2015年までに全国で6942カ所の障害者職業訓練施設がつくられ、都市部では2011~15年の5年間に、のべ175.1万人の障害者が職業訓練を受けた(表3)。

また、1950年半ばから導入された訓練講座である「盲人按摩」に関しては、2011~15年にのべ11万7110人が職業訓練を受けている。

表3:障害者職業訓練施設と都市部の障害者職業訓練(2011~15年)
2011 2012 2013 2014 2015
障害者職業訓練施設数(所) 5,254 5,271 5,357 6,154 6,942
都市部の障害者職業訓練受講者数(万人) 29.9 29.9 37.8 38.2 39.3
  • 資料出所:中国障害者連合会『中国障害者事業「第12次5カ年計画」(2011-2015年)発展要綱の実施概況』

障害者向けの職業訓練は、個々人の体力や能力を考慮して、職業分野別に設定される。訓練対象の職業としては、按摩(マッサージ)、情報技術、服飾デザイン、美容、調理、家電修理、工芸製品製造、農作物栽培、水産加工、畜産、養殖などがある。

職業訓練の期間を見ると、半年を超える「長期訓練」、1カ月~半年間の「中期訓練」、1カ月以下の「短期訓練」に大別される。このうち「短期訓練」を行っている地域が多い。

いくつかの具体的な訓練内容を以下に例示する。

(1)長期訓練

湖南省湘西トゥチャ族ミャオ族自治州では、2012年から障害者向けのコンピューター応用中専(高校レベル)のコースが設けられた。訓練実施機関である湖西民族職業技術学院では3年間、コンピューターの基本概念から応用技術、プログラミング、グラフィックデザインに至るまでの科目を障害者30人が受講した。修了者は「中専卒業証書」と「職業資格証書」を付与された。この間、学費や宿泊費は免除され、毎月400元の生活手当が支給された。卒業後は、現地にある「新中合光電科技術有限会社」(光ファイバー通信製造業)に就職できた。

(2)中期訓練

2012年、天津市濱海新区塘沽(ひんかいしんく・とうこ)の障害者連合会はアニメーション制作ソフトの操作に関する3カ月の訓練を実施した。試験の合格者には「全国ハイテク職業人材認定証書」の職業資格を与え、職業紹介を行なった。

また、広東省の広州市秀麗服装職業訓練学院は2016年に、障害者向けの服飾技術訓練コースを設け、21名の障害者が70日間の職業訓練を受けている。

(3)創業訓練

中国身体障害者協会(中国障害者協会に属する専門協会)と清華大学継続教育学院が提携して、2012年以降毎年、障害者向けの創業訓練コースを設けている。訓練期間は6カ月で、創業管理などの授業を行う。訓練課程は通学による短期集中講座とオンラインによるeラーニングが組み合わされている。集中講座は9日間(15科目)で72時間、eラーニングは7科目・34時間である。訓練費用は当該地域の障害者就業保障金から支出される。

五カ年計画期間中の目標

人力資源・社会保障部などは2016年10月に『障害者就職促進「第13次5カ年計画」(2016~2020年)実施方案』を発表した。それによると、2016~20年の間に、(1)都市部の障害者100万人に対して無料職業訓練を提供して職業能力を高め、50万人の新規就業を実現する。(2)中西部の農村貧困障害者50万人に対して無料技術訓練を行い、専門的な技術を取得させることで就業につなげ、貧困層の増収をはかる、(3)障害者に対する就業サービスを強化し、都市部、農村部の障害者があまねく職業紹介、職業指導を受けられるようにする、という目標が掲げられている。

参考資料

  • 人力資源・社会保障部、厚生労働省「2016年海外情勢報告」、中国障害者連合会、鄭功成編(2017)『中国障害者事業発展報告(2017)』人民出版社。

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