OECD、ILOの両機関、危機対応策を提示
―G8労働大臣会合

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2009年4月

主要8カ国(G8)の労相が金融危機後の労働・雇用情勢について討議するG8労働大臣会合が3月29日から3日間、ローマで開催された。会合は、7月上旬開催予定のマッダレーナ・サミットの関連会合で、経済開発協力機構(OECD)、国際労働機関(ILO)など国際機関の代表に加え、EU雇用・社会問題・機会均等担当委員や中国、インド、ブラジルなど新興6カ国代表らが参加した。グリアOECD事務総長とソマビアILO事務局長は、最新の失業予測を踏まえ、両機関の今後の対応策を明らかにした。G8労相は、統合的な経済・社会アプローチで各国が足並みをそろえて危機の社会的側面に対応する方向で一致し、とりわけ、相互補完的な経済・雇用・社会政策を講じ、失業の軽減や、所得支援、訓練サービスの提供を中心とする人的資源の保護に取り組むことに合意した。会合の結果は、4月に開催予定のG20ロンドン会合にも反映される見通しだ。OECD、ILOの発言とG8議長総括(注1)の概要をまとめた。

グリアOECD事務総長――労働・社会政策への財源確保、脆弱層支援など提言

OECDの最新予測(表1)(注2)によれば、OECD加盟諸国の平均失業率は2007年の5.6%から2010年までに10%近くまで悪化し、失業者数は2500万人増える。今回の会合で演説に立ったグリアOECD事務総長は、「世界の労働・雇用情勢は悪化しており、減産、工場閉鎖、解雇が相次いでいる」と述べ、「若年労働者、低熟練労働者、移民、非正規労働者などの脆弱層は真っ先に雇用調整の対象となるが、社会的セーフティネットへのアクセスが制限されていて、新たな職を見つけるのも難しく、長期失業リスクを抱えている」と訴えた。そのうえで、各国が講じる景気対策について、「適切な雇用・社会政策を伴うものでなければ、最良の成果は得られない」として、労働市場・社会面での5つの課題を提示した。

表1 OECD失業率予測(%)
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
アメリカ 5.5 5.1 4.6 4.6 5.8 9.1 10.3
日本 4.7 4.4 4.1 3.9 4.0 4.9 5.6
ドイツ 9.7 10.5 9.7 8.3 7.3 8.9 11.6
フランス 8.8 8.8 8.8 8.0 7.4 9.9 10.9
イタリア 8.1 7.8 6.8 6.2 6.8 9.2 10.7
イギリス 4.8 4.8 5.4 5.4 5.7 7.7 9.5
カナダ 7.2 6.8 6.3 6.0 6.1 8.8 10.5
OECD主要7か国 6.3 6.1 5.8 5.4 5.8 8.2 9.6
OECD計 6.8 6.6 6.0 5.6 6.0 8.4 9.9
OECD欧州12か国 8.8 8.8 8.2 7.4 7.5 10.1 11.7
主要7か国と欧州を除くOECD加盟国 7.3 7.1 6.2 5.5 5.6 7.8 9.4

注:2008年以降の数値は予測値。

出所:OECD(2009)OECD Economic Interim Projection(2009年3月31日公表)

一つは、雇用危機に十分に対応できる規模の労働市場プログラムへの追加財源の確保だ。グリアOECD事務総長は、G8諸国およびその他の諸国の景気刺激策の大半が労働市場・社会政策措置への追加財源を盛り込んでいることを評価しつつも、その規模が十分でないと訴えた。アメリカおよびフランスでは支出全体の約8~10%が注入されたが、その他の国ではそれを下回る水準の財源しか確保されていない。

二つは、労働需要を喚起し、不必要な解雇を回避すること。需要減に応じた労働時間短縮(日本の「緊急避難型ワークシェアリング」(注3)に該当)への助成措置(例えば、日本の雇用調整助成金やドイツの操業短縮手当)や社会保険料負担の軽減措置を時限的に講じることで、一部の雇用が維持できる。その場合、マイナスの副作用を最小化するとともに、助成を景気回復までのあくまでも「一時的な」救済措置として注意深く設計する必要性を強調した。

三つ目には、失業者および低所得世帯に対する適切なセーフティネットの提供が挙がった。G8諸国は全て、またその他の諸国についても大半が失業給付制度を有しているが、失業給付期間が短い国では、一時的な給付延長措置を講じることで、長期失業や貧困を回避することが可能だ。その場合、受給要件の厳格なモニタリングと濫用を防ぐ工夫も必要となる。また、パートタイム、派遣などの非正規就労が多い国では、失業給付の受給権がない労働者のシェアが増えていることにも言及し、これらの労働者層に対して適切な社会扶助給付を提供する必要性を訴えた。加えて、失業保険制度のカバー率が低いという構造的な問題への取り組みも求めた。例えばフランスやイタリア、日本では、失業給付の適用対象範囲を拡大する方向に進んでいる。OECDはこうしたイニシアチブを支援しつつも、求職要件を付すなどといった就労インセンティブを確保する必要性を強調した。

四つ目は、効果的な積極的労働市場プログラムを拡充すること。ここ10年間、多くのOECD諸国は、効果的な再就職サービスを適度な給付制裁を伴う求職インセンティブと組み合わせてきた。こうした戦略は経済成長と雇用拡大の文脈では機能してきた。だが、労働市場が悪化し、雇用機会が減少しているなかでこうした政策スタンスを維持するには、積極的労働市場プログラムを拡充する必要がある。具体的には、(1)官民連携による職業紹介サービスの促進(2)労働市場ニーズに応じた訓練の提供(3)公共雇用創出措置など就職が困難な失業者層に焦点を絞った措置の活用――などが挙がった。

五つは、労働供給の確保だ。今後一層高齢化による人口減少が進むため、高齢層や若年層などの労働力参加を減らすこと(例えば、高齢者の早期引退促進や若年層の採用抑制)で今回の雇用危機に対応する方向は避けなければならない。

演説を締めくくるにあたってグリアOECD事務総長は、発展途上国については、雇用創出や適切なセーフティネットの構築に注入できる財源基盤が乏しいことに言及し、「一国のみの解決はもはや不可能だ。より包摂的な国際協力を通じて世界が連携する必要がある」として、あらためて国際協調を呼びかけた。

ソマビアILO事務局長――「世界雇用協定」を提唱

ILO推計によれば、世界の失業者数は2009年末までに4000万人増加する見通しだ。ILOは3月にスイス・ジュネーブで開催したILO第304回理事会で、金融危機対応に関するハイレベル三者構成会議を設け、昨年ILOが採択した「公正なグローバル化のための社会正義に関する宣言」(注4)を軸として「世界雇用協定(Global Job Pact)」を策定する方向で合意している。三者構成会議での討議は、ILO国際労働問題研究所がG20諸国を含む32カ国の危機対応策を検討した報告書『金融・経済危機:ディーセントワークの対応(The Financial and Economic Crisis: A Decent Work Response)』(注5)に基づいて行われた。

報告書は、2009~10年に労働市場への新規参入者を吸収し、求人不足の長期化を避けるためには、9000万人近い新規雇用創出が必要となると予測。また、各国の危機対応策について、(1)景気刺激策の重点が雇用創出や社会的保護よりも金融救済措置や減税に置かれている(2)景気刺激策全体に占める社会政策措置の財源規模が調査対象の22カ国平均で9.2%、雇用政策については僅か1.8%に過ぎない(3)若年層など脆弱層への支援措置が不十分である(4)労使の社会対話が限られている(5)各国間の調整が不十分である――などの問題点を指摘している。

三者会議はまた、今後の対応策について、(1)4月に開催予定のG20ロンドン会合で危機の雇用・社会的側面への取り組み強化を呼びかける(世界雇用協定に関する提案を含む)(2)経済危機を6月に開催されるILO総会のメーンテーマに位置付ける(3)関連する国際会合に積極的に参加し、雇用・社会面での取り組み強化を促すとともに、政策助言サービスを向上する――などを挙げた。

その後開催となったG8労働大臣会合に出席したソマビアILO事務局長は、回復と経済成長を促す新たな雇用・社会保護政策に向けたG8その他の諸国のリーダーシップを呼びかけた。そのうえで、ILOが今後内容を詰める「世界雇用協定」について、「雇用拡大や社会保護、ならびに労働関連制度の強化に関する各国レベルの行動とグローバルレベルでの行動と組み合わせたもの。危機対応に関する各国の政策決定や国際協力、ならびに政策ガバナンスに関するILOの柱に位置付ける」などと解説した。具体的には、(1)失業者対策(2)社会保護・年金保護の拡大(3)脆弱層・脆弱部門に焦点を絞った支援(4)労働者の技能開発への投資(5)職業紹介サービスの強化(6)中小企業支援(7)緊急公共事業などの公的インフラ投資(8)省エネ技術および「グリーン・ジョブ」へのインセンティブ・投資促進(9)社会的責任のある企業・産業再編(10)団体交渉制度の強化と賃金交渉の推進による実質賃金の維持および消費促進――などが盛り込まれる予定だ。

ソマビアILO事務局長はまた、危機対応策の効果を国際的な調整によって向上させる必要性を訴えるとともに、財政基盤が十分でない国への国際協力を促した。

G8労働大臣会合――労働時間短縮への助成措置や職業訓練拡充などで合意

国際レベルでの合意には一定の収斂がみられる。今回のG8労働大臣会合での合意も、基本的にはOECDやILOが示した方向性と一致する。G8は、危機に対処する上で有効な4つの戦略を挙げている。一つは、雇用創出および効果的な雇用・労働市場政策の推進だ。二つ目は、効果的な社会保護制度(社会保障・労働者保護)によって個人及び世帯の所得を支援し、消費や投資の再活性化することで迅速な回復を目指す。三つ目は、適切な教育訓練政策を講じて人的資源開発を促進することで、人々の雇用を維持し、社会的疎外を防ぐとともに、経済成長を支え、個々人の人的資本を育成する。四つ目は、持続可能な成長と開発を達成するうえで必要な社会・金融・経済問題に積極的に取り組む。

そのうえで、成長と生産性、ひいては長期的な社会的連帯を維持する構造政策と雇用・社会保護措置の整合性を確保する必要性を再確認するとともに、グローバル化の社会的側面を拡充する方向を強調した。

G8は、今後必要とされる取り組みについても明らかにしている。具体的には、(1)失業の軽減に資する効果的かつターゲットを絞った積極的労働市場政策を推進する(失業給付と職業紹介サービスの効果的な組み合わせの確保等)(2)労働市場ニーズに応じた技能開発や求人・求職支援の促進と労働時間短縮(緊急逃避型ワークシェアリング)に対する助成措置を組み合わせ、人々の労働市場参加を維持し、大量失業を回避する(3)危機の影響を受けた労働者や世帯に対する効果的な社会保護制度を確保する(脆弱層・貧困層を対象とした最低賃金を含む所得支援と就労インセンティブの組み合わせ等)(4)失業者や雇用調整のリスクのある労働者への訓練・技能向上、解雇の回避や再採用コストの抑制ならびに企業特殊的な人的資本の損失防止を目的とした労働時間短縮など労働形態の一時的柔軟化等)――の4項目が掲げられた。

G8はまた、今後の雇用創出が見込まれる分野として、再生可能エネルギーなどの環境(グリーン・ジョブ)、育児・介護などの社会サービスの2分野を挙げ、それに向けた適切な技能訓練を提供する措置を講じることでも一致した。

最後に議長総括は、これらのゴールの実現に向け、労使の積極的な関与――具体的には社会対話の推進――が不可欠であることを再確認するとともに、国際的な連携強化により持続可能な開発と社会的連帯を推進する各国の意思を明記。そのうえで、あらゆるレベルでの政策整合性を確保するため、国際通貨基金(IMF)、OECD、ILOの協力を呼びかけた。会合の結果は、4月のG20ロンドン会合に提示される。

参考資料

  • OECDウェブサイト、ILOウェブサイト、G8社会サミット2009公式ウェブサイト

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