「公正なグローバル化のための社会正義に関する宣言」を採択
―第97回総会、10年ぶりの宣言

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2008年7月

国際労働機関(ILO)は5月28日~6月13日、スイス・ジュネーブで第97回総会を開催した。182加盟国から4000人を超える政労使代表が集った今総会の目玉は、「公正なグローバル化のための社会正義に関する宣言」の採択。公正なグローバル化の実現に向けたILOの機能強化に関するこれまでの議論の集大成が、「宣言」として結実した。条約適用勧告委員会では、ILO第94号条約・第84号勧告(公契約における労働条項)の適用状況を総合調査したほか、個別審査案件では、ILO第87号条約との関連で日本の消防職員の団結権と公務員の労働基本権問題を審議。一般討議では、地域(農村地域)における貧困撲滅や技能開発向上について議論した。

日本代表団としては、政府側から伊藤渉・厚生労働大臣政務官、松井一實・厚生労働省総括審議官、北島信一・ジュネーブ代表部大使、労働者側から高木剛・連合会長、中嶋滋・連合国際代表(ILO理事)、使用者側から立石信雄・日本経団連国際労働委員長、鈴木俊男・日本経団連国際協力センター参与(ILO)ら総勢33名が出席した。

新宣言―ディーセント・ワークを中心に

ILOはここ数年、公正なグローバル化への対処策について様々な側面から議論を重ねてきた(注1)。今総会が採択した新宣言「公正なグローバル化のための社会正義に関する宣言」及び付属決議には、社会正義、生産的な完全雇用、持続可能な企業、社会的結束を基礎とした社会・経済の公正なバランスを実現する新しい戦略が盛り込まれている。ILOが宣言を採択したのは、1998年の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」以来10年ぶりだ。

宣言は、完全雇用及びディーセント・ワークを経済社会政策の中心に据え、4つの戦略目標を提示している。一つは雇用の促進。諸個人の能力・技能を維持・向上させ、雇用を保障する企業を持続させ、さらに良好な生活水準を達成する社会を持続させねばならないと主張している。二つは社会的保護の政策の強化。社会保障の対象をすべての人に拡大し、健康で安全な就業条件及び公正な配分と最低限の生活賃金を保障する政策の展開を打ち出している。三つは政労使の三者構成とその社会的対話の重視。この社会的対話は、ディーセント・ワークを軸とする政策を形成し、さらにその政策を効果的なものにするための最も適切な手段だと強調している。四つめには、ディーセント・ワークの実現に不可欠なものとして、職場における基本的原則及び権利(中核的8条約)の重要性を強調している。宣言は以上4つが、「不可分」「相互依存的」「相互補完的」な関係にあることを指摘している。

続いて、こうした目標を達成するために、ILOと加盟国双方の、それぞれの役割と方策について記述している。まず、ILOは(1)加盟国の取り組みに対し、技術協力と専門的助言を強化する、(2)実証分析や具体的経験によって蓄積した知識等の共有化を目指す、(3)多国籍企業、グローバルユニオンなどとのパートナーシップを強化する――などを進める。一方、加盟国に対しては、(1)ディーセント・ワークに向けて国内・地域の戦略を採択する、(2)その進捗状況を計る指標などを確立する、(3)ILO条約・勧告の批准・実施状況をチェックする、(4)ディーセント・ワークの成功例を情報交換する、(5)他国の取り組みに対し、適切な援助を提供する――などを求めている。このほか、他の国際機関・地域機関に対し、ディーセント・ワークを推進するよう働きかけるのがILOの役割であると述べている。

公契約の労働条項について討議

条約勧告適用専門委員会では、ILO第94号条約・第84号勧告(公契約における労働条項)の適用状況が総合調査の対象となった。1949年に採択された同条約は、公共調達手続きにおける社会的ダンピング、とりわけ賃金ダンピングの回避を目的とするもので、公の機関を一方の契約当事者とする契約において、団体協約、国内の法令等が定める最低基準を下回らない労働条件を関係労働者に確保する条項が含まれるよう批准国が措置を取る旨規定したもの(日本は未批准(注2))。経済のグローバル化とともに公的部門の民営化・業務外注化の動きが加速化し、公契約及び公共調達における経費節減への圧力も増すなか、労働者の賃金その他の労働コストへの影響に対する懸念も広がっている(注3)。こうした視点から、今回の討議では、公契約・公共調達の社会的側面の重要性が強調され、社会的ダンピングの危険性、官民パートナーシップの増大、公契約の遂行における労働条件規制を目的とする国内法規の不在などの課題に関する研究・分析に取り組む方向で合意。政労使三者構成の専門家会議の開催が提案された。

また、委員会では昨年に引き続きミャンマーのILO第29号条約(強制労働)の適用問題に関する特別会議を開催したほか、23件を個別審査。日本については、消防職員の団結権と公務員の労働基本権問題が取り上げられ、先に成立した国家公務員制度改革基本法にも言及した上で、消防職員組合の事実上の承認、法及び慣行双方での条約の完全適用を確保するために必要なさらなる条文検討における開かれた完全な社会対話の追求を政府に奨励した。

農村地域の貧困撲滅と技能開発について一般討議

一般討議では2つのテーマが取り上げられた。まず、「貧困削減のための地方(農村地域)雇用の促進」について、ディーセント・ワークの戦略目標である雇用、社会的保護、権利、社会対話における課題を統合的に検討するアプローチにより審議。地方における生産的な雇用とディーセント・ワークを実現するための政策指針を含む包括的な戦略や、加盟国政府労使及びILOの取り組みに関する指針が採択された。なお、世界の食糧危機に取り組むILOと三者構成員の役割に関する決議も併せて採択されている。

第2のテーマは、「生産性の向上、雇用の成長及び発展のための技能」。社会経済の発展、ディーセント・ワークに向けた技能開発の重要な役割について審議し、加盟国三者構成員及びILOが取り組むべき指針等を含む結論を採択した。

その他
このほか、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」に関するフォローアップとして、条約(結社の自由)及び第98号条約(団体交渉権)に関するグローバル・レポート「結社の自由の実践:学んだ教訓(Freedom of Association in Practice: Lessons Learned)」を公表。また、ILO理事会理事選挙では、労働者側は連合の中嶋氏が、使用者側は日本経団連国際協力センターの鈴木氏が再任された。

参考

  • 厚生労働省提供資料
  • ILO(2008)Provisional Record 13A/B, 97th Session, ILC, Geneva.
  • ILO(2008)Provisional Record 19, Part Two, 97th Session, ILC, Geneva.
  • ILO(2008)Report III (Part 1B): General Survey concerning the Labour Clauses (Public Contracts)
  • Convention, 1949 (No. 49) and Recommendation (No. 84), 97th Session, ILC, Geneva.
  • ILOプレスリリース
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