新労働法、労組の反対を押し切りついに成立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

インドネシアの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年5月

新労働法(労働者保護法)が2003年2月25日、国会で可決され、成立した。1997年第25号労働法の代替案として、6年越しの議論を経てようやく成立した法案であるが、その内容とポイントとなる点、及び成立後の労使の反応をまとめた。

新労働法の内容と懸案項目

新労働法(旧労働者保護法)は、18章193条で構成され、均等な雇用機会、職業訓練、職業斡旋、賃金、ストライキ、解雇、退職金、各種罰則などの項目が記載されている。特に労働者の保護に重点を置いている点がこの法案の特徴となっている。

従来の法案との違いは、ストライキ期間中の労働者への賃金の支払い、及び退職者に対する手当ての支給額、業務委託や短期間の契約雇用(臨時工の採用)に関する項目などである。

退職に伴う手当てに関する項目は、手当ての上限が9カ月分と定められ(但し、雇用契約期間が8年以上の従業員が対象)、手当ては勤続年数の数字プラス1カ月分となった。例えば、勤続年数が1年未満の従業員の場合、退職手当ては1カ月分、8年間の場合、9カ月分となる。雇用期間が8年以下の従業員の場合、退職手当ては8カ月分以下となる。

また懸案となっていた自己都合退職者と、犯罪による退職者に対しての退職金は支払われないことが決定した。

退職金に関する法案は、長い間検討が重ねられ、2001年5月2000年労働移住大臣令第150号が施行されたとき、最大の混乱が起き、使用者団体の猛反発と外国資本の減少を招く結果となっていた(詳細は本誌2001年4月号及び2002年12月号を参照)。

ストライキ中の賃金支払いの是非に関しては、ストライキの要因が企業方針に関するものである時かつ、規定を満たした合法的なストの手順を踏んで行われた場合に限ってのみ、使用者はスト発生から裁判所への登録時までの賃金を労働者に賃金を支払うことが明記された。

更に、週の法定労働時間は40時間となり、近隣諸国の製造業の競争国、例えばベトナムや中国の48時間と比べても短時間となる。

児童労働の労働時間は1日あたり3時間までとし、臨時工の雇用契約期間は最大3年となった。

法案成立までの過程

(労働法に関する動きは本誌2001年4月号2002年910月号2003年1月号でも取り上げてきたので詳細は割愛)

スハルト政権以前の労働法は、オランダ領時代の6つの条例と1969年第14号労働基本法などをベースに構成されていた。しかし、スハルト政権崩壊後の自由化の流れの中で、労働者のストやデモが頻発し、それらの活動を規定する法律が未整備であるという点や、労働者の権利や人権の保護、新しい雇用形態や経済危機後の経済状態にとって適切な法律であるべきとの点から、新しい法律が労使双方から望まれていた。

そのため、国会は2002年6月から新労働法案の審議を開始し従来の労働法であった1997年第25号改正労働法を2002年9月に廃止した。

1997年法の代替案として当初、労働関係の2法案(労使紛争解決法案と労働者保護法案)を成立させることを予定していた。しかしながら、その内容に関して労使から相次いで反発が起こり、政府は政労使の三者構成での協議を実施。数度の法案成立見送りを経て、今回ようやく国会で可決し、法案成立となった。最終的に、新労働法は関連2法案を1本化するのではなく、労働者保護法のみが新労働法となる。

本誌2003年4月号でもお伝えしたように、今回のヤコブ大臣の決断は、国際通貨基金(IMF)からの勧告を受け強行されたという見方もある。大臣は勧告を受けた1月から新労働法の成立に画策し、2月初めには2月中に法案の成立を行うとの発言をしていた。

法案成立後の各界の反応

経営者団体の反応

インドネシア経営者協会(Apindo)のジマント副会長は、法案の最終案には賛成しており、成立に対して異議を唱える予定はないとコメントしている。しかし、ハサヌディン事務局長は、同法の中の使用者に対する多くの罰則や義務が、国内産業の低迷や外資の投資を減退させるのではないかとの恐れを示した。また、アントン副会長も、スト中の賃金支払いには不満が残るが、そのほかの点は「非常に良くもなく、非常に悪くもない」と感想を述べている。

インドネシア商工会議所(Kadin)のアブリザル会長は、同法の内容にほぼ満足しているとコメント。使用者として不満のある点もあるが、今後は労使での話合いによって譲歩しあっていくことで解決できるのではないか、と話している。会長は、法律そのものの内容よりも、労使双方が法律を遵守し、ストライキやデモ活動などを少しでも減らし、労働部門の投資環境を改善することが重要だと強調。その結果、国内経済が回復し、直接投資(FDI)も増加するだろうと述べた。

労働団体の反応

新労働法を静かに見守る経営者団体とは対照的に、労働者団体の反対活動は活発に行われた。新法案が国会審議中であった2月7日には、全国22の労組(労働組合協会(ASPEK)、全インドネシア労働者国民戦線(FNPBI)、首都圏労働者連合、全インドネシア労働者福祉連合(SBSI)など)が労働関連2法案の成立拒否声明を政府に提出した。

成立拒否の理由は、ストライキの事前通告の義務や退職金の算出方法、解雇に関する事項が、三者協議での検討内容を全く反映していないためと主張。臨時工に関する条項などにも、労働者保護の観点が抜け落ちているとして反対する労組が多数で、最終的に50以上の労組が、法案成立に反対した。

2月23日にはジャカルタの国際労働機関(ILO)前で300人程度の、26日の国会での法案成立後は、国会前で数百人規模のデモが決行された。新法案は、政府と特定のエリート労使が作り上げた粗悪品だ、と叫ぶ声が聞かれた。

2003年5月 インドネシアの記事一覧

関連情報