労働関連の2法案をめぐる議論
 ―政労使それぞれの立場から

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

労働関連の2法案(労働者保護法と労使紛争解決法)の改定案に関しての議論を本誌2002年910月号でご紹介したが、その後議論はまだ続いている。2法案の成立は当初7月末を予定していたが9月末に延期、最終的に10月末まで成立は当面延期という結果になっている。この間の政労使の動きをまとめた。

労働者保護法と労使紛争解決法案について

2002年初頭から問題となっている労働者保護法及び労使紛争解決法案は、それぞれ1964年労働大臣令第12号と1957年労働大臣令第22号を改正したものである。

これら2法案が施行された場合は、2002年10月1日まで施行を延期されていた1997年第25号新労働法は破棄されることになる。

労働者保護法では、労働者がストライキを実施しているときの賃金の支払いや夜勤労働者の週労働時間などの規制が、労働者への過保護と使用者側から批判されていた。労使紛争解決法も、紛争の解決はすべて労働裁判所を仲介して行われるという点が労使双方からの批判の的となっていた(各法の詳細と各分野からの批判点は時報2002年10月号を、1997年第25号新労働大臣法に関しては時報2001年2月号を参照)。

労働側の主張

インドネシア労働者国民闘争戦線(FNPBI)のディタ議長は、「仮に法案が成立した場合、他の大手労組とともに大規模デモを行う用意がある」と発言。同議長が問題点として挙げているのは、ストライキの権限が著しく制限された点である。

9月19日にはインドネシア金属労連の組合員約千名が大統領宮殿前に集結し、2法案の成立延期を求めてデモ行進を行った。続いて9月23・24日の両日には、首都圏の労働組合員ら約数千名が同法案の廃止を求めるデモを開催し、ジャカルタ市内が大渋滞に陥った。

しかし、基本的に今回の法改正では労働者保護の観点が色濃く出ており、労働者側が強硬に反対するのには、扇動者によるパフォーマンス的な要素も強いとの意見もある。

使用者側の主張

経営者が問題としている点は、労働者保護法の第78条で、勤続6年以上の従業員に対しては、最低3カ月以上の長期休暇を義務付けているということである。また、4時間の労働時間後に1時間半の休憩を設けるなど細かい規定も問題視されている。

インドネシア経営者協会(Apindo)のジマント副会長は、政府と国民議会に対して、同法案が原因となって外国資本の他国へのシフトや産業拠点の移転が起こりかねないと警告した。その結果、大量の失業者が生み出されることにもっと注意を払うべきだとしている。

政府の主張

これらの強硬な反対意見に対しても、ヤコブ労・移大臣はあくまでもこれらの法案を成立させるとの姿勢を崩さない。大臣は、労使からの提案を受け入れつつも、すべての意見を取り入れることはできないと説明。労働者のデモは扇動的な要素もあることを指摘した。使用者団体の主張する外資の流入妨げにならないように、且つ労働者保護の原則は貫きたいと述べている。

新労働法の廃止は決定

2002年9月27日、国会は1997年第25号新労働大臣法の実施を行わず、上記労働関連2法案の早期成立を目指すことで合意した。これにより、1997年の新労働法は完全に廃止された。

また同時に、かねてから使用者側の強い批判にさらされていたため、暫定的措置とされていた「退職金に関する2000年第150号労働大臣令」を正式に適用することが発表された。同法令は、新労働者保護法の中に含まれる形で施行される予定であったが、2つの新法令の施行延期が決定したことにより、単独で適用されることとなった。 1997年第25号法は、97年、スハルト政権の終盤時に労使関係の関係改善を目的に立案された。しかし、スハルト政権崩壊後、労働者が活動の自由を取り戻すと、労働者に不利な同法案の施行を反対する活動を起こした。その結果、毎年施行延期が行われ、今年で5年が経過しついに廃止となった。

同150号大臣令は、外資系企業や使用者団体からの激しい批判により、2001年5月に2001年第78号労働・移住大臣令と、その補足令である2001年第111号大臣令に変更され、その後、再び政府が第150号令を有効とするなど、2転3転したという経緯がある。政府は、解雇に関する法令は、この第150号大臣令だと主張しているのに対して、Apindoといった使用者団体は後者の2法令が有効であると主張し、意見が食い違っている(退職金に関する法令の議論は本誌2001年4月号を参照)。

再び延期された労働関連2法案

1997年第25号新労働法に代わる役目を果たす上記の2法案だが、労使の賛同を得るのは、上記のように困難な状況が続いている。ヤコブ労働・移住省大臣は9月までの成立を見込んでいたが、労使双方の強い反発に合い、9月23日の国会本会議において、正式に同法案施行の当面の延期を決定した。

これまで数カ月の延期を繰り返してきた同法だが、1997年の新労働法と同様に、度重なる延期が行われる可能性も出てきた。

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