労働関連2法案、労使共に反対で成立1カ月見送り

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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本誌2002年9月号でお伝えした労働関連の2法案、労使紛争解決に関する1957年第22号労働大臣令と、労働保護に関する1969年第14号労働大臣令の改訂版は、7月にも成立を見込まれていたが、労使双方からの反対意見が強く、1カ月程度の成立延期となった。

労働関連法案改訂の背景と労使の反対意見

上記の2つの労働法案は、当初2002年7月9日の国会で成立する予定であったが、当日の審議において国会に招聘された62労組とインドネシア経営者協会(Apindo)の双方が、これらの法案に対して反対の意思を表明したため、成立延期となった。特に批判が集中したのが、労働保護に関する1969年第14号労働大臣令である。

同大臣令に対しての労使の意見をまとめたものが下記の表である。反対の意見は、ストライキ、解雇、労働時間、退職金などに関する項目に集中している。

経営側代表のApindoジマント副会長は、同大臣令第140条にある「ストライキ中の賃金の支払い義務」について、「スト期間中、労働者は何も生産していないのだから、賃金を支払う義務はない」と批判。また、夜勤の労働時間や病気で休業中の従業員の賃金支払いなど、あまりに労働者に対して過保護との意見が強く出された。

一方労組側の意見として、インドネシア労働者国民闘争戦線(FNPBI)のディタ議長は、「ほとんどの労組が、これらの法案が経営者に有利な法案だとして反対している。特に労働者がストライキを行う権利が著しく制限されたことが最も問題」と語っている。

労働者側からの現状非難

先日開催されたイタリア・ジェノバのILO国際会議では、国際自由労働連合(ICFTU)がインドネシアにおける労組の乱立と労使紛争の多発に関して深い懸念の意を表明したばかりだ。東カリマンタンにあるThe Consultation and Information Institute(Leksip)のメソディウス労働保護部長は、「労働者を取り巻く不公平な環境は、労働問題と労働政策に対して政府が関心が低いため」と指摘し、「政府が労働者の社会福祉の向上に真剣に目を向けない限り、労働を取り巻く状況は変わらない。インドネシアは投資家にとっては、安価な賃金を享受できる好条件の国であり続けることになる」と現地紙アントラのインタビューで答えている。

同様に、東カリマンタンの森林材木組合(Kahutindo)のコイルル議長も、労働者を取り巻く環境の悪化は、政府の経済危機への対処方法が失敗したためだと批判している。インドネシアの近隣の国々であるマレーシアやタイ、中国などでは、経済危機からすばやく立ち直り、労働環境を整え、治安の向上に貢献してきたため、外国資本の導入に成功している。これらの国々を手本にすべきだと述べている。

全インドネシア労働者福祉連合(SBSI)のパクパハン議長も、「インドネシアの労使関係の不安定さや、外資投入の減退は、法制度の未整備に原因がある。しかも、政府は、外国資本の優遇政策や長く続く経済危機からの脱出政策を怠ってきた。政府はインドネシアへの外資回避の要因が労使紛争の多発にあると指摘するが、ILOやOECDの調査によると、その要因は7番目に過ぎない」と指摘している。同調査の結果によると、外資が最も懸念する要因は、政治的な不安定さと法的保障のなさ、投資環境の悪さの3点であるということだ。

そのため2002年の上半期のインドネシアへの外国投資は、前年同期比で60%も減少している。

労組の反対活動は、7月15日に東カリマンタンで行われた数千人を動員したデモ、7月16日にFNPBIなど3つの労組が中央ジャカルタの大統領宮殿前で行った合同デモ、7月21日には、繊維・皮革労働組合連合(FSPTSK)西ジャワ支部において、8月19日にも西ジャワのバンタンで500人以上の労働者が法案の成立反対のデモを行った。

8月に行われた労使代表と国会の三者協議

このような労使双方の同法案反対の現状をみて、ヤコブ労働・移住省大臣は、8月8~12日に労使代表と国会の三者協議を開催し、意見の調整を図ることになっている。

表:労働者保護に関する改正法案で懸案となっている事項一覧
内容 使用者側の意見 労働者側の意見
76 夜間の労働時間 40時間/週 35時間/週
81 勤務中の乳児の世話 反対 賛成
86 最低賃金制度の設定 反対 賛成
91 病疾患で休職の従業員への賃金支払い 最長12カ月まで 疾患中の期間
134 ストライキ
スト中の従業員の配置換えの禁止
スト中の賃金支払い
前もって通知
反対
反対
いつでも可能
賛成
賛成
150 自己都合の退職者に対する退職金支払 反対 賛成
152 解雇の条件 反対 賛成

出所:Jakarta Post、2002年7月31日

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