失業保険制度の現状と課題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

国務院は、1999年に失業保険条例を公布し、都市、地方の民間企業、公営企業が失業保険制度に加入することを義務付けた。しかし、本保険制度への加入と保険料徴収において、多くの問題が生じている。

失業保険料率(国務院の標準値と北京市)
  「単位」負担 労働者個人負担 補記
国務院の失業保険条例による標準保険料率 全労働者の賃金総額 本人の賃金の100分の1
(例)北京市 民間企業と公営企業の労働者 全労働者の賃金総額の100分の1.5 本人の賃金の100分の0.5  
市内で就労する農民労働者 全労働者の賃金総額の100分の1.5   農民労働者からは、個人負担を徴収しない。

公営企業の未加入

経営の安定している公営企業の中に、失業保険料を未納する企業が続出し、全国的な問題になりつつある。

全支出を政府の財政支出で運営している公営企業は、財政部門が、代行して失業保険料を納入しているので問題は発生していない。しかし、赤字部分を財政援助に依拠している公営企業の中には、失業保険制度の対象企業であるにもかかわらず、未登録の企業が多い。また、登録後、様々な理由をつけて、保険料の納入を拒否する企業も出始めている。

この原因は、公営企業は、倒産する可能性が低いためである。多くの公営企業の経営者は、公営企業であっても経費節減が求められる中で、失業保険制度に加入するより養老保険、医療保険制度への加入を優先し、失業保険制度加入に要する費用を企業内の他の有用な福祉事業に使用した方が良いと考えていることが大きな理由だ。

好景気の民間企業の未加入

一部の好景気の民間企業は、失業保険制度に加入するのは、「割が合わない」ことだと考え、一部の人員だけ加入させるか、或いは、理由をつけて非加入にしている。数社が連合して、加入を拒否している地域さえある。

こうした民間企業は、「養老保険制度は、退職後の労働者の生活の安定に寄与している。医療保険制度は、個人や企業の医療費の負担を軽減してくれる。しかし、失業保険は、当面関係ない」と考えている。同時に、労働者も、好景気のため収入が多く、従って高額の保険料を納入することに消極的である。

赤字の民間企業の未加入

経営の悪化している民間企業は、人員削減の必要に迫られている。こうした企業では、労使双方が、失業保険制度の重要性について十分理解している。しかし、賃金さえ支払不能の状況が続く中で、失業保険料を支払う余力がないのが現状である。

自営業者、郷鎮企業の非正規雇用就業形態における未加入

自営業者、郷鎮企業の非正規雇用労働者は、元々就労を一時的なものと考えているため、就労が長期的になっても、労使は、共に失業保険料を納入しない場合が多い。

今後の課題

このような現状を改善し、失業保険制度を普及させ、失業者の生活を保護するためには、次のような改善策が要望されている。

  1. 調整制度の導入
    保険料を規定通りに支払い、しかも失業者をほとんど出していない企業には、一定の割合で、保険料を返金すべきという意見が出始めている。この方式が採用されれば、企業の参入を促進すると予測される。
  2. 宣伝強化
    この制度は、施行されてまだ期間が短く、制度の趣旨が労働者に十分理解されていない。このため、広報活動を積極的に展開する必要があると見られている。特に、地方では、この必要が高い。
  3. 保険料未払い企業に対する対策
    公営企業においては、失業保険料を予算化し、財政支出の項目に加えるべきである。財政状況に余裕があるにもかかわらず、失業保険料を納入していない企業には、規定に基づいた処罰をするべきである。赤字経営のため、保険料の納入ができない企業に対しては、今後の納入計画を提出させるべきである。
  4. 法律による強制徴収制度の整備
    政府は、法改正により保険料を徴収する権限を強化する必要がある。特に、各地方の失業保険制度の実施機関が、法的強制力をもって保険料の徴収ができるように法改正する必要がある。また、この制度に関する専門的知識を有した、保険料徴収員を養成する必要がある。
  5. 保険金の支払いの迅速化
    この制度が整備途中の地域では、保険料の徴収には積極的だが、保険金の支給には、消極的で、労働者の信用を得られていない。失業者が、保険料を申請し受給できるまでの期間を短縮し、労働者の信用度を高める必要がある。
  6. 総合的な事業計画の作成
    この保険料徴収から生じる基金により、就職情報の収集と提供、各種技術研修、各種技術検定制度の整備事業を展開する必要がある。特に、個々の失業者の特徴を把握し、転職情報を提供したり、労働市場の需要に合った技術研修を実施する必要がある。

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