(香港特別行政区)強制積立金(MPF)をめぐる動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

香港の労働力人口約330万人のうちで、退職により年金支給の保護を受けるのはその3分の1にすぎない。民間では使用者が任意に設ける職業退職計画(Orso)による年金支給を受けるが、現在これでカバーされているのは、使用者が設けている1万9000のOrso計画による約90万人である。Orso計画は熟練のスタッフを企業に確保する意図で設けられている。また公務員と教師は、政府の退職年金制度でカバーされ、その数は現在約20万人である。

強制積立金(MPF)は、この二つの制度でカバーされず、退職後の年金支給を受けない220万人に年金による保護を与えるために設けられたもので、2000年12月からの導入が決定されている。そしてMPFのもとでは、使用者と雇用者の双方が雇用者の賃金の5%を強制的に保険料として積み立てねばならない。しかもOrso計画では、雇用者が3年ないし5年勤務しなければ使用者は保険料を積み立てる必要がないのに対して、MPFでは勤務年数のいかんを問わず、使用者は保険料を積み立てなければならない。そして民間の使用者30万人は、2000年12月1日に保険料の徴収が始まるまでにMPFを設けなければならず、また現在実施されている1万9000のOrso計画のうち、1万4000はMPFを免除され、残りはMPFに移行しなければならないとされている。

このようにMPFの導入を年末に控え、民間のOrso計画と政府の退職年金制度との関係で、MPFが導入される際に従来の年金や退職金の支給額が減額される可能性等につき、労組側から懸念が表明されている。

ことの発端は1月末、香港のテレビ局TVBが3600人のスタッフに、MPFとの関係で従来の退職年金の見直しを図るとしたことである。TVBは現在従業員との契約で賃金の10%を保険料として積み立てると定めているが、今後MPFとの調整を図る必要があるとした。これに対して工連会(FTU)と職工会連盟(CTU)の2大労働組合は、企業がMPF導入にこのように対処すると将来果てしない紛争が生じることになると、直ちに警告を発した。またこれを受けて、MPF計画局のアラン・ウォン専務理事は1月31日、ほとんどの使用者はMPFの導入により従来の年金支給を減額することはないだろうと労組の懸念を和らげる声明を発し、さらにチャールズ・リー理事長は2月1日、減額があれば従業員の士気の低下につながると経済界に向けて警告した。

他方公務員関係では、1998年12月以降に採用された契約スタッフについては、MPF導入による政府の保険料積み立て額が退職金から控除されることになった。約3500人の公務員が影響を被るが、ピーター・ウォン中華公務員連盟副会長は、政府は民間企業の使用者にはMPFとの関係で支給額を減額しないように要望しているにもかかわらず、自らは退職金を減額するのは矛盾で、公務員の士気も低下すると述べている。

MPFはこのような問題を抱えながらも、香港の雇用者の退職後の生活保障として期待されているが、この新制度を周知させるために、MPF計画局は今後特に中小企業向けに公的キャンペーンを展開していく。中小企業にはMPFの導入が行き渡っていないからである。香港中小企業会議所は、400の中小企業で構成されているが、アラン・ユン会長は、ほとんどの小企業には年金制度の知識が不足しているとしている。従業員100人以下若しくは50人以下の企業を香港ではそれぞれ中企業若しくは小企業と定義するが、この定義による中小企業は28万存在し、労働力の3分の2を雇用している。ウォンMPF計画局専務理事は、中小企業を含めてMPF条例を遵守する企業は香港全体で70%ぐらいだろうとしているが、問題は法律の遵守であるから、保険料を支払わない使用者には厳しい態度で臨むとし、公的キャンペーンも拡大していくとしている。

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