国有企業経営者のセカンドビジネス

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年4月

国有企業の経営者が、本職以外にプライベートな企業やビジネスを重ねて経営する「一経営者二制度」的な状況は、新聞で取り上げられ話題となっている。

東北地域の吉林市のある冷蔵庫メーカーは、数年前は企業規模や生産量で全国でも数えるほどの有名なメーカーだったが、近年、企業資金の無駄使いが多く、在庫が増え、経営不振に陥った。しかし、この企業が、生産停止を余儀なくされてからまもなく、企業の経営者たちが経営する高級飲食店が同市内でオープンすることとなった。「なるほど、国の企業は破産したが、個人の商売は始ったのか」と、元従業員達は冷ややかな目でみている。

かつて市内屈指の国有印刷工場も似たような道を辿った。数年前に、国有印刷工場の周辺に数社の個人経営印刷工場が現れてから、国有印刷工場は日を追って凋落し、生産低減を経て稼働停止にまで追い込まれた。逆に、個人経営の印刷工場は、生産が日増しに盛んになり大儲けしている。時間の経過につれて、個人経営工場は、国有工場経営者の身内によよるビジネスであることが発覚し、国有企業の生産は個人経営に横取りされたことが世間は知らされた。

一経営者二制度的な状況は、吉林市では一種の流行のように蔓延している。地元のある国有製薬企業の従業員は、「うちの経営者が別に経営している製薬工場の資本金は数百万にもなっているが、こんな大金はあの賃金だと来世があっても稼げない。経営者になって3年も立っていないのに、どこから来た金だよ」と、怒りながら告発している。

一経営者二制度的な状況は、国有企業から人材をも奪っている。吉林市のある大手国有建築会社では、元社長が自分で企業を起こし、半分に近い中堅技術者と管理者を連れ出していった。後任の社長は、「企業財産の半分を持ち出すよりも深刻だ」と嘆いている。

吉林市政府や国有企業に専念する経営者は、一経営者二制度現象に批判的である。国有企業の資産流出や腐敗を生む誘因となるし、国有企業の活性化にも悪影響を及ぼしかねないというのが批判の理由である。

しかし、プライベートなセカンドビジネスを営む経営者達には、それなりの言い分がある。国有企業経営者の賃金は決して高くなく、経営努力は報酬体制に十分に反映されず、65歳の定年制の壁があり、セカンドビジネスは将来に備えるためのものだという。

国有企業経営者のセカンドビジネスの実態は、国有企業経営者のインセンティブとモニターリングメカニズムの確立に大きな課題を提示する格好となっている。

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