技術労働者の国有企業離れ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年4月

国有企業改革と労働市場の形成に従って、近年、国有企業における技術労働者の人材流出が際だっている。このような傾向は沿海地域では特に強いが、内陸部でも決して少なくない。山西省のある中規模の国有企業では、最近3年間のうちに、103名の技術労働者が、自ら「下崗」(一時帰休)を要求したり辞職したりして、企業を去っていた。このような労働者がすでに現場労働者の12.8%にも及んでおり、企業の正常な生産活動にも支障を来たしている。

企業に必要な技術労働者が、なぜ相次いで国有企業を離れていくのであろうか。一つの理由は、国有企業はフルに生産活動を展開できず、現場労働者は十分に仕事を与えられておらず、ひどい場合にはまったく仕事がないことである。国有企業に見切りをつける技術労働者をみると、年齢は概ね35から45歳の間にあり、家族扶養、住宅購入及び子供の教育費等々で、最もお金のかかる年齢である。しかし、国有企業に留まると、生産がフルに行われず、給料も低減する一方である。技術をもつ熟練労働者は、非国有企業から声をかけられると断れない。国有企業から離れて、個人で企業や個人経営を起こす者もいる。

もう一つの理由は、近年における職業選択の考え方の変化である。国有企業の他には、いろいろな所有形態の企業が勢い良く発展しており、国有企業なら保障が最も充実しており、世間の評価も高いというかつてのような考え方は捨て去られつつある。「憲法」も修正され、私有経済の地位が保障されており、優れた技術労働者は、所有制よりも、自分の能力を十分に生かす企業に注目するようになった。

国有企業の経営不振や改革に伴う下崗労働者の増加も、技術労働者の国有企業離れに拍車をかけている。企業経営が行きづまり、リストラされる前に、先手を打って、新しい勤め先を見つけたい気持ちが技術労働者にある。

国有企業内部の労働人事管理システムの硬直化も人材流出の一因になっている。年功序列的な昇進制度の下で、上級資格への昇進はきわめて緩慢であり、中年層や若年層の労働者を失望させている。さらに、技術労働者に対する適当な評価システムの不足も事態をより深刻化している。賃金や福祉は、管理者と高学歴技術者に傾斜しているが、現場労働者はあまり重要視されておらず、技術労働者による現場での技術革新に対する評価が不十分である。

優秀な現場労働者を持たない企業は、熾烈な市場競争にも勝ち抜くことができない。国有企業は改革を進める中で、優秀な現場労働者の確保を迫られている。

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