個人独資企業法の公布

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年4月

1999年8月、全国人民代表大会(全人代)は、「個人独資企業法」を批准したが、これは、中国で初めての私営企業に関する具体的な法律として、内外に注目されている。

改革開放後、私営企業や個人経営体の発展は極めて急速である。1998年末には、全国の私営企業は120万社に達しており、そのうち、個人独資企業は44万1700社で、私営企業の36.78%を占めている。私営企業の登録資金は1兆200億元で、年間生産高と営業収入はそれぞれ5853億元と5323億元に達しており、従業員数は1700万人を超えている。個人経営体も3120万に達しており、そのうちの大多数は個人単独資本企業に属している。個人経営体の登録資本は3120億元で、年間生産高と営業収入はそれぞれ5960億元と1兆7500億元に達しており、従業員は6114万人となっている。上海市では、平均的に1日100社以上の個人経営体と私営企業が誕生している。

個人経営体や私営企業が1998年に納めた税金は700億元に達しており、全国税収入の8.5%を占めている。また、私営企業と個人経営体の発展は、国有企業の統廃合による下崗労働者の吸収にも寄与している。1998年に私営企業や個人経営体に就業した国有企業の下崗労働者は310万人に上っている。

しかし、個人経営者や私営企業主はこれまで必ずしも法・制度的に恵まれてはいなかった。1993年に公布した「公司法」(会社法)は、私営企業は最低限、従業員が8人以上で、登録資本が数十万元でなければならないと定めており、登録資本の最低限を定めない国際ルールとは抵触している。また、私営企業や個人経営体の利益は十分に保護されておらず、全国200余りの市と県の1947社の私営企業に対する中国社会科学院のサンプル調査をみると、私営企業の利益が侵されることが頻発しており、特に資金と技術が持ち出され企業利益が損なわれるトラブルが多い。

以上の理由に加えて、近年の経済成長減速のため、1998年以降、個人投資の増加は1990年代中期より低減し、国内経済の安定的な発展に影響を及ぼす恐れが出ている。1998年に、非国有経済の投資増加率はわずか8%で、全社会固定資産投資よりも6.1%低い。民間投資、特に個人投資の低減が、1998年以降投資の減速を招いた原因と見なされている。

市場経済のさらなる発展と国有企業改革に伴う失業者の急増を解決するために、中国は私営企業の容認に留まらず、現在、私営企業の発展に大きな期待を寄せる時代にまでなっている。1987年から、「都市農村の個人経営体管理暫定条例」「私営企業暫定条例」(1988年)、「公司法」(1993年)、「共同経営企業法」(1997年)が相次いで公布され、1999年3月に「憲法」が修正され、「国家が個人経済、私営経済の合法的な権利と利益を保護し、国家が個人経営、私営経済に対して誘導、監督と管理を実施する」との文言が盛り込まれた。それを踏まえて、1999年8月に全人代は「個人独資企業法」を可決した。

「個人独資企業法」の公布は、企業立法の基準をこれまでの所有制から、投資方式と責任請負に変更した。一自然人が行う企業の合法性及びその権利と義務を明確に定め、個人資産を法律上認めることは、1949年以降の社会主義中国では画期的な出来事である。これまでのように私営企業が差別を受け、勝手に冥加金を徴収されることも法律上は許されなくなる。

「個人独資企業法」を理論的にいえば、人民元一元をもって、企業を設立することも可能であり、普通の庶民に対してだれでも起業家になる道を開いた。「個人独資企業法」の公布によって、新たな経済発展の波が押し上げられることが期待されている。

関連情報