基礎情報:フランス(2013年)
4. 賃金・労働時間・解雇法制

4-1 最低賃金制度

SMIC(Salaire minimum interprofessionnel de croissance)

根拠法令:
労働法典(1950年及び1970年改正)
決定方式:
審議会方式(最低賃金額に関する最終的な決定は、政府が行う) 定時改定方式
  • 消費者物価上昇率とブルーカラー実質賃金上昇率の半分を加味した引き上げ案をもとに、全国団体交渉委員会の賃金給与小委員会の意見を参考にして毎年7月1日付けで金額を改定。
物価スライド方式
  • 消費者物価指数が前回の金額改定の水準より2%以上上昇した場合、指数の上昇分だけ金額を改定。
設定方式:
全国一律
最低賃金額:
9.43ユーロ/時間(2013年1月1日~)
2008年12年の法改正により、2010年以降SMICの改定は毎年1月に実施。
適用対象:
フランス本土、海外県及び海外領土のSaint-Pierre-et-Miquelon
適用除外又は減額措置の対象となる労働者:
  • 17歳:10%減
  • 17歳未満:20%減
    (但し、6カ月以上勤務で減額措置なし)
  • 職業訓練生、若年の各種雇用援助措置を受けている者:22~75%減
適用除外
  • 労働時間を把握することができない労働者(訪問販売員などの一部)
減額措置
  • 18歳未満、見習訓練生・研修生等
罰則等:
労働者一人につき1,500ユーロ以下の罰金(再犯は3,000ユーロ以下)
ILO条約批准状況:
第26号条約(1930批准)、第131号条約(1972批准)
労働協約拡張適用制度:
あり

労働協約拡張方式

根拠法令:
労働法典
決定方式:
協約当事者の交渉による
設定方式:
地域・業種別
最低賃金額:
各労働協約による
適用対象:
一定の地域内の業種特に限定なし
適用除外又は減額措置の対象となる労働者:
  • 17歳:10%減
  • 17歳未満:20%減
    (但し、6カ月以上勤務で減額措置なし)
  • 職業訓練生、若年の各種雇用援助措置を受けている者:22~75%減
罰則等:
労働者一人ににつき罰金750ユーロ以下、未払い分の賃金の50%(100~5,000ポンド)の罰金
ILO条約批准状況:
第26号条約(1930批准)、第131号条約(1972批准)
労働協約拡張適用制度:
あり

資料出所:JILPT(2009)「資料シリーズNo.50 欧米諸国における最低賃金制度

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4-2 最低賃金額の推移

時給
1995 36.98フラン
2000 42.02フラン
2005 8.03ユーロ
2008 8.71ユーロ
2009 8.82ユーロ
2010 8.86ユーロ
2011 9.00ユーロ
2012 9.40ユーロ
2013 9.43ユーロ

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4-3 労働時間制度

根拠法:
労働法典L3121-10(2008年5月1日より)
法定労働時間:
1週35時間又は年1,607時間
罰則:
最長労働時間(例えば、1日当たり10時間)を超えて労働させた場合、第4種違警罪としての罰金が適用される。(違警罪は、違法に雇用された労働者数と同じ数だけ罰金刑を生じさせる。)
適用関係:
法定労働時間の適用除外
  • 国有企業(ガス、電気、国鉄等)
  • 商業代理人(判例、学説)
  • 家事使用人(判例、学説)
  • 住込み不動産管理人
  • 守衛(判例、学説)
  • 取締役
  • 上級幹部職員(幹部職カードル)
  • 家内労働者
法定労働時間の特例
法定労働時間の適用除外の項目(上記)参照。
一部の産業では、超過勤務手当の支払い対象となる労働時間が異なっている(例えば、青果小売業などでは、週39時間目以降)。
弾力的労働時間制度:
1年変形労働時間制
使用者は、
  • (1) 拡張適用される産業部門別労働協約・労使協定又は意義申立権の対象とならない企業・事業場別協定を締結して、一定事項を記載すること、
  • (2) 労働時間が労働週で平均して週35時間を超えず、かつ年間1,607時間を超えないこと、
  • (3) 1日及び1週単位の最長労働時間を遵守すること、「労働時間が1日10時間以下、1週48時間以下、12週平均44時間以下であること」
を要件として、1年単位の変形労働時間制を導入することができる。
サイクル労働
労働時間の配分がサイクル(数週単位の期間)ごとに同様の形で繰り返される労働について、
  • (1) 継続的に操業される企業において、
  • (2) デクレで定められている場合、又は拡張適用される産業部門別労働協約・労使協定若しくは異義申立権の対象とならない企業・事業場別協定の締結がなされた場合、
サイクル労働を実施することができる。
この場合、労働サイクル期間を平均して週35時間を超える労働時間のみが超過労働時間とされる。
但し、1日及び1週単位の最長労働時間の規制(1日10時間以下、1週48時間以下、12週平均44時間以下)の適用は除外されない。
時間外労働(上限規制、割増賃金率):
上限規制
業界、グループ企業、企業、事業所単位で労使合意のもとに、従業員が希望し、かつ雇用主が認める場合、法定残業時間の上限)、又は  労働協定により定められた残業時間の上限を超えて、残業を行うことができる。法定の時間外労働時間の上限は、「時短緩和法」により180時間から220時間に引上げられた。
上限を超えた残業時間に対する手当の支給金額は労使協定で定められており、増額率は通常の残業時間に適用される率を下回ることはできない。また、週単位の法定最長労働時間(同じ週で、48時間、12週平均で週44時間)を超えることはできない。但し、年間枠を超えた残業時間に対して法定代休を与えることはできない。
割増賃金率 25%
従業員数20人未満の小規模企業については、2008年12月末まで割増賃金率を10%に設定する例外措置がとられていたが、「労働・雇用・購買力のための法案」可決(2007年8月1日)により、同措置の廃止及び2007年10月1日から企業の規模にかかわらず割増賃金率を25%とすることが決定した(企業規模による所得税・社会保険料の免除措置あり)。
休日労働(割増賃金率):
原則として、
  • (1) 1週につき6労働日を超えて労働させることの禁止。
  • (2) 週休は少なくとも継続する24時間。
  • (3) 日曜日に与えなければならない。
但し、一定の場合に適用除外あり。
割増賃金率
例えば、日曜日が定休日の商店が、例外的に日曜日に営業する場合、日曜日に就業する従業員に対して、少なくとも2倍の賃金を支払わなくてはならない。但し、観光地などの日曜営業の場合は、その限りではない。(2009年の法改正以降)(労働法典L3132-27条)
年次有給休暇制度における継続勤務要件:
同一の使用者の下で最低でも(実働で)10日間勤務すること。
年次有給休暇の付与日数:
1年30労働日(1月につき2.5労働日)
年次有給休暇の連続付与:
連続12労働日を超える有給休暇を、1年に1度以上与えなければならない。但し、連続して取得することのできる有給休暇の最高日数は24労働日。
年次有給休暇の付与方法:
休暇取得可能時期(労働協約又は団体協定で定めた5月1日~10月31日を含む期間)に労働協約、団体協定の規定又は慣習により付与。これらがない場合は従業員代表委員の意見聴取後使用者が付与。
未消化年休の取扱い:
一部の企業では、日数を限定して持ち越しを認めているが、原則として未消化の有給休暇は消滅する。但し、退職時に未消化の有給休暇は有給休暇手当として支給される。
また、「労働時間貯金制度」を業界、グループ企業、企業、事業所レベルでの労使合意に基づき制定できる。これまで1年間に貯蓄できる有給休暇の上限を22日とし、消化の有効期限を5年間とする規定があったが、「時短緩和法」により撤廃。条項を労使合意のもとに自由に決定できるようになると同時に、労働時間貯金の現金化(企業による休暇の買取り)も可能となった。

資料出所:JILPT(2012)「資料シリーズNo.104 労働時間規制に係る諸外国の制度についての調査

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4-4 解雇法制

個別的解雇

1973年法等により解雇が規制されている。次の事由による解雇は無効である。

  • 妊娠中と産前産後休業中の解雇
  • 労働に起因する傷病期間及び再訓練期間中の解雇
  • 出身・性・家族状況
  • 民族・人種・政治的意見
  • 労働組合権の通常の行使
  • 宗教的信条

また、解雇には真実かつ重大な理由が必要であり、これが存在しないときは、労働裁判所によって不当解雇とされ、補償金の支払いが必要となる。真実かつ重大な理由とは、(1) 労働契約の履行、労働者自身、その能力、企業組織に関連したものであり、(2) 事実に基づいて証明でき、(3) 契約の継続を不可能ならしめるほど重大な理由をいう。

個別的解雇には、(1) 事前面談への召還、(2) 事前面談、(3) 解雇通知の送付、(4) 解雇予告期間の遵守、(5) 解雇手当の支払いといった手続が必要。


集団的解雇

経済的理由による解雇については、「真実かつ重大な理由」が必要であり、次のような特別な手続が必要。

  • 個人(1人)解雇の場合(2人以上の解雇の場合も共通)
    • 解雇される予定の労働者に対する呼出と面談
    • 労働者に対する書面による解雇予告(一定の待機期間がある。)
    • 労働者に対する一定期間の再雇用優先権の付与
    • 行政官庁への解雇実施計画の届出・通知
  • 2人以上10人未満の解雇
    • 企業委員会(ない場合には従業員代表委員)に対する情報提供と協議
  • 10人以上の解雇
    • 企業委員会(ない場合には従業員代表委員)への情報提供と少なくとも2回以上の協議。企業委員会は企業の費用負担により会計鑑定人の補佐を受けることができる。
    • 50人以上の労働者を雇用する企業が、30日以内に10人以上の労働者を解雇する場合には、使用者による再配置計画等を盛り込んだ「雇用保護計画」の作成が義務づけられる。行政官庁は、計画を審査し、補充・変更の提案等を行うことができる。
    • 企業、国、商工業雇用協会の三者による職業転換協定(職業訓練の提供、手当の支給を内容とするもの)を締結しなければならない。

このほか、1,000人以上の労働者を雇用する企業等は、解雇対象者に、最大9カ月間、労働契約を維持しながら職業訓練や休職活動をするための「再配置休暇」を付与しなければならない。この対象とならない企業は、解雇対象者に、職業能力評価票の作成と再就職支援の諸措置を提案しなければならない。

資料出所:JILPT(2005)「労働政策研究報告書No.39 諸外国の労働契約法制に関する調査研究」、日本労働研究機構(2003)「資料シリーズNo.129 諸外国における解雇のルールと紛争解決の実態― ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ」、生田大輔(2010)「我が国解雇法制における金銭解決制度導入の可能性―国際比較を通して―(東京大学法科大学院ローレビュー Vol.5, 2010.9)

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:フランス」