JILPTリサーチアイ 第84回
解雇等無効判決後における復職状況

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研究所長 濱口 桂一郎

2024年12月20日(金曜)掲載

去る2024年7月、調査シリーズNo.244『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』を上梓した。これは、厚生労働省の要請を受けて当機構が実施した調査研究結果を取りまとめたものである。その概要は既に2024年5月10日に、内閣府に設置された規制改革推進会議働き方・人への投資ワーキング・グループの第7回会合に、厚生労働省事務局より報告されているが、そこに含まれていなかった詳細な調査結果も今回の調査シリーズには盛り込まれているので、関心のある皆さまには是非この調査シリーズ自体を見ていただければと思う。このリサーチアイでは、今回の調査シリーズに至るこの分野の先行研究の推移を概観した上で、今回の調査の結果の概要を説明していきたい。

1 解雇の金銭救済制度に係る検討と調査の全体像

まず、今回の調査が含まれるJILPTにおける調査研究プロジェクトと、その要因である政府における政策の展開についてごく簡単に触れておく。

JILPTは5年ごとの中期計画を立てて調査研究を進めているが、現在は2022年度から2026年度までの第5期プロジェクト研究期間の3年目である。研究プロジェクトの中の「多様な働き方とルールに関する研究」のうち、解雇の金銭救済制度に係る分野においては、厚生労働省労働基準局労働関係法課と密接に連携しつつ、5年間の研究計画を立てて、それに基づいて調査研究を進めている。これは、過去20年以上にわたって労働法政策の重要論点として議論され続けてきた解雇の金銭救済制度の政策検討に資するために、JILPTが2003年に創設されて以来断続的に行われてきた調査研究テーマである。そこで、過去20年にわたる政府における解雇の金銭救済制度の検討状況と、それに関わるJILPTの調査研究の推移をごく簡単に要約しておく。

この問題が政策的に提起されたのは、1990年代末から2000年代初めにかけて、政府の総合規制改革会議が「解雇の際の救済手段として、職場復帰だけではなく、金銭賠償方式という選択肢を導入することの可能性を検討すべき」と主張したことにある。これを受けて厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で審議が進められ、2002年12月の建議に金銭補償制度の創設が盛り込まれ、翌2003年2月の法案要綱にもその旨の規定が含まれていたが、国会提出時に削除され、成立に至らなかった。

この時、厚生労働省の要請を受けて、当時第1期中期計画期間であったJILPTは、「労働条件決定システムの再構築に関する研究」の一環として「解雇無効判決後の原職復帰の状況に関する調査研究」を実施し、2005年8月に資料シリーズNo.4『解雇無効判決後の原職復帰の状況に関する調査研究』(平澤純子執筆)を公表するとともに、「我が国における雇用戦略の在り方に関する研究」の一環として「裁判経験と雇用調整についての研究」を実施し、2007年6月に資料シリーズNo.29『解雇規制と裁判』を公表した。前者の資料シリーズNo.4は、今回の調査の直接の先行研究であり、後に詳しく紹介する。後者のうち、神林龍による「東京地裁の解雇事件」は裁判所の訴訟記録に基づいて和解金額の全数調査を行っており、その後の解決金額調査の出発点となった。

政府では2007年制定の労働契約法に向けて、2004~2005年に労働契約法制の在り方に関する研究会で解雇の金銭救済に関しても詳細な議論が展開されたが、2005~2006年の労働政策審議会労働条件分科会では議論が収縮し、解雇権濫用法理を確認するだけに終わった。

一方JILPTでは第2期中期計画期間のプロジェクト研究として「個別労働関係紛争処理事案の内容分析と今後の政策対応の検討」を立て、都道府県労働局におけるあっせん事例の内容分析を実施し、2010年6月に労働政策研究報告書No.123『個別労働関係紛争処理事案の内容分析─雇用終了、いじめ・嫌がらせ、労働条件引下げ及び三者間労務提供関係─』をとりまとめた。その中では、労働局あっせんにおける解決金額が示された。

政府で解雇の金銭救済制度の議論が再開されたのは、2014年6月の『日本再興戦略2014』によってであり、予見可能性の高い紛争解決システムの構築として、労働局あっせん、労働審判、裁判上の和解における解決金額の状況の調査を求めた。これを受けて厚生労働省の要請により、JILPTは急遽課題研究「日本の雇用終了等の状況調査」を立て、労働局あっせん、労働審判、裁判上の和解の実態調査を行い、2015年4月に労働政策研究報告書 No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』をとりまとめた。その概要は2015年10月に、厚生労働省労働基準局に設置された透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会に報告された。

同検討会は2017年5月に報告書を取りまとめたが、同年6月には解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会が設置され、2022年4月に報告書をまとめ、同月から労働政策審議会労働条件分科会で公労使三者構成による審議が始まった。そこで委員から解雇実態調査を再度実施するよう求められ、これを含め、解雇の金銭救済制度に関する一連の調査研究を2022年度から始まるJILPT第5期プロジェクト研究の中に取り込む形で調査研究計画を立てることとなった。

2022年度には労働審判及び裁判上の和解の実態調査を行い、その結果を2023年4月に労働政策研究報告書No.226『労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析』としてとりまとめ、それに先立ち2022年10月、12月に労働政策審議会労働条件分科会に概要を報告した。

2023年度には解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査を実施し、その結果を2024年7月に調査シリーズNo.244『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』としてとりまとめ、それに先立ち2024年5月に規制改革推進会議働き方・人への投資ワーキング・グループに概要を報告し、また、2024年7月の調査結果公表後に、労働政策審議会労働条件分科会においても概要を報告した。これが本稿で紹介する調査である。

2 復職状況に関する先行調査

このように、JILPTの解雇関係の調査研究においては、解決金額等の実態調査が最も関心を集め、繰り返し実施されてきたものであるが、2004年度に実施され2005年に公表された解雇無効判決後の原職復帰の状況に関する調査も、解雇の金銭救済の必要性に直接間接に関わる情報として注目されてきた。この調査が実施されてから20年近くが経ち、現実がどのようになっているのかについての関心が高まってきたことが、今回同様の調査を再び行うこととした最大の理由である。

なお、JILPTの2004年度調査に先行して前田達男調査、山口純子調査、京都府労働委員会調査があり、その概要が2005年の資料シリーズに紹介されている。今回の調査も含めた復職状況の比較は後述する。

さてJILPTの2004年度調査は、当時JILPTに在籍していた平澤純子研究員によって実施されたものであり、日本労働弁護団と経営法曹会議の全会員弁護士を対象としたアンケート調査(郵送調査)であった。ただ残念ながら、日本労働弁護団からの回収率は4.01%、経営法曹会議からの回収率は5.94%であり、アンケート調査としては回収率が低いものであった。

この資料シリーズによると、解雇事件総数は43件、被解雇者総数は76人で、このうち「解雇無効」が67.1%(51人/76人)、「解雇有効」が31.6%(24人/76人)、無回答が1.3%(1人/76人)であった。解雇無効判決後の復職状況は、「復帰してそのまま勤務を継続している」が41.2%(21人/51人)、「一度復帰したが離職した」が13.7%(7人/51人)、「復帰しなかった(即日退職を含む)」が41.2%(21人/51人)、「わからない」が2.0%(1人/51人)、無回答が2.0%(1人/51人)であった。

弁護士所属団体別に見ると、日本労働弁護団所属弁護士の場合は、「復帰してそのまま勤務を継続している」が41.9%(18人/43人)、「一度復帰したが離職した」が16.3%(7人/43人)、「復帰しなかった(即日退職を含む)」が41.9%(18人/43人)であった。経営法曹会議所属弁護士の場合は「復帰してそのまま勤務を継続している」が37.5%(3人/8人)、「復帰しなかった(即日退職を含む)」が37.5%(3人/8人)、「わからない」が12.5%(1人/8人)、無回答が12.5%(1人/8人)であった。

3 今回調査の概要

2004年度調査は郵送調査であったが、ネット環境が変わったこともあり、日本労働弁護団と経営法曹会議以外の弁護士団体も対象とし、郵送調査ではなく各弁護士会のメーリングリストを利用してWEB上の調査票で回答を記入してもらうやり方とした。調査期間は、2023年の10月6日から11月6日の1ヶ月間である。重要なのは日本労働弁護団と経営法曹会議であるが、そのほかにも日弁連の労働法制委員会、消費者問題対策委員会とか貧困問題対策本部、さらに第一東京弁護士会、第二東京弁護士会にある労働法の部会にもメールを送った。

その結果、全体の回収率は14.0%(231人/1655人)であった。これは前回に比べると2倍から3倍になっているが、普通のアンケート調査からするといささか物足りない数字である。これは、解雇の金銭救済制度が単に政策論として議論されるだけではなく、政治的にもセンシティブな議論になっていたことも背景にあるのかもしれない。

なお、今回調査の報告書中、労働者及び使用者の認識を問う項目については、あくまでも各代理人の主観にもとづく受け止めを回答している点には十分に留意が必要である。

アンケートの中では、労働事件をもっぱらどちら側の代理をしたかを聞いているが、意外なことに日本労働弁護団所属弁護士でも労使双方やっていると答えた人が一定数いた。専ら労働者の代理という弁護士が81人、専ら使用者の代理という弁護士が84人、労使双方の代理という弁護士が60人いた。そこで、弁護士の類別としては、所属団体別ではなく、もっぱら代理した当事者によって、「専ら労働者」、「専ら使用者」、「労使双方」という3分類にしている。

次に、解雇等事件の相談から訴訟提起に至った割合を聞いている。至った割合で圧倒的に多いのが10%未満で、全体の約30%である。次に10%から19%が全体の24%である。つまり20%未満で半数以上の割合になっている。言い換えれば、解雇の相談に来ても、大部分は訴訟の提起には至ってないということである。

解雇事件がどういう形で終局したかをみると、830人の労働者のうち和解になったのが639人(77%)である。つまり訴訟を提起しても、4分の3以上は和解で解決しているということである。

和解の中身がどんなものであったかをみると、地位確認という形で和解したものが61件(7.3%)、合意退職という形で解決したのは578人(69.6%)である。前述のように、筆者は裁判所の和解の実態を調査しているが、その肌感覚から見てもこんなものであろうと思われる。なお訴訟取り下げが6件(0.7%)ほどあった。和解せずに判決に至ったものは830人中185人(22.3%)であった。

判決に至ったのは、どういう弁護士のところに多いのかというと、やや意外な数字であるが、専ら労働者の側に立って訴訟活動をやっている弁護士の場合には、最終的に判決まで至ったというのは104人(18.8%)であり、専ら使用者側の立場に立って解雇事件に携わってきた弁護士の場合には50人(27.9%)であった。労使双方の代理をしている弁護士の場合には31人(31.3%)であった。

判決に至ったということは、和解案を拒絶したから判決に至っているわけである。そこで、労使いずれが和解案を拒絶したのかを聞いている。全160件中、労働者側が拒絶したのが72件(45.0%)、使用者側が拒絶したのが34件(21.3%)、双方が拒絶したのが54件(33.8%)であった。

労働者側が和解案を拒絶した理由を見てみると、「合意退職の和解案だったが、労働者が復職を希望」が34.7%、「合意退職の和解案だったが、解決金額が低かった」が30.6%、「合意退職の和解案だったが、解雇無効を確信」が22.3%となっている。また、使用者側が和解案を拒絶した理由については、「合意退職の和解案だったが使用者が金銭支払を希望せず」が19.4%、「合意退職の和解案だったが、解決金額が高かった」が13.9%、「地位確認の和解案だったが、使用者が復職を希望せず」が15.3%、「地位確認の和解案だったが、解雇有効を確信」が11.1%であった。

4 解雇等無効判決後の復職状況

ここでようやく、20年前の平澤純子研究員の調査の中核である解雇等無効判決後の復職状況に入る。世間的にも最も注目されている数値であろう。ただし、ここまでで分かるように、相談から訴訟提起に至る事案が限られており、さらに訴訟提起しても大部分が和解で解決するので、判決に至るものはさらに少なくなり、そのうち解雇無効判決に到達した事案は、件数で76件、労働者数ベースで99件に過ぎない。

この99件を100%として、解雇等無効判決後に復職をした者が37件(37.4%)である。ただし復職したと言っても、その後、継続就業している人と、不本意に退職した人がいる。復職後継続就業した者は30件(30.3%)であり、復職後不本意退職をした者が7件(7.1%)である。それに対して、解雇無効判決を勝ち得たものの、復職していないという人が、99人中54件(54.5%)となっている。この数字をどう解釈していくかは、解雇の金銭救済制度を、設計していく上で、重要な論点になっていくと思われる。いずれにしても、20年前の数字を、新しい調査によって更新できたのが今回の調査の一番大きなポイントだと考えている。

表1 解雇等無効判決後の復職状況
件/人 %
労働者数 99 100.0
復職した 37 37.4
復職後継続就業 30 30.3
復職後不本意退職 7 7.1
復職せず 54 54.5
不明 8 8.1

ここで前述した先行調査における数値と比較してみると(復職せずをカウントしていない山口調査と解雇無効判決ではない京都地労委調査を別にすると)、調査によってかなりの違いはあるものの、復職したとするものが3割台から5割台であり、そのうち不本意退職したとするものが1割前後存在し、その結果復職後も継続就業しているものは3割台から4割台を中心に分布しているようである。一方、復職しなかったものが4割台から5割台あることはほぼ共通しており、大きな傾向は変わっていないように思われる。

表2 解雇等無効判決後の復職状況の先行調査との比較
前田達男調査 山口純子調査 京都地労委調査 JILPT2004年調査 JILPT2023年調査
第2回 第3回
労働者数 37(100%)   32(100%) 31(100%) 51(100%) 99(100%)
復職した 16(43.2%) 710(100%) 11(34.4%) 18(58.1%) 28(54.9%) 37(37.4%)
継続就業 13(35.1%) 248(34.9%) 4(12.5%) 18(58.1%) 21(41.2%) 30(30.3%)
不本意退職 3(8.1%)   7(21.9%) 0(0.0%) 7(13.7%) 7(7.1%)
復職せず 21(56.8%)   20(62.5%) 9(29.0%) 21(41.2%) 54(54.5%)
不明     1(3.1%)   2(3.9%) 8(8.1%)

これを代理した当事者類型別にみると、専ら労働者の代理人を務める弁護士の場合には、復職した者が29人(40.8%)とやや多いだけではなく、復職後継続就業している者も24人(33.8%)と多くなっているのに対し、専ら使用者の代理人を務める弁護士の場合には、復職した者が3人(20.0%)に過ぎず、11人(73.3%)と多くが復職していないことが対照的である。とはいえ、専ら労働者の代理人を務める弁護士の場合であっても、過半数の38人(53.5%)は復職していないこと、復職後不本意に退職した者が5人(7.0%)いることは全体の傾向と変わらない。

表3 代理した当事者類型別解雇等無効判決後の復職状況
専ら労働者 専ら使用者 労使双方
事件数 53 11 12 76
労働者数 71(100.0%) 15(100.0%) 13(100.0%) 99(100.0%)
復職した 29(40.8%) 3(20.0%) 5(38.5%) 37(37.4%)
復職後継続就業 24(33.8%) 3(20.0%) 3(23.1%) 30(30.3%)
復職後不本意退職 5(7.0%) 0(0.0%) 2(15.4%) 7(7.1%)
復職せず 38(53.5%) 11(73.3%) 5(38.5%) 54(54.5%)
不明 4(5.6%) 1(6.7%) 3(23.1%) 8(8.1%)