JILPTリサーチアイ 第56回
コロナ禍における離職と再就職

著者写真

雇用構造と政策部門 副主任研究員 高橋 康二

2021年2月24日(水曜)掲載

1 はじめに

新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大により、日本経済は大きな打撃を受けた。特に2020年第2四半期(4~6月)においては、実質GDP成長率が前期比マイナス8.3%となり戦後最悪を記録した[注1]

そういった経済ショックにもかかわらず、雇用への影響は比較的小さかった。日本の完全失業率(季節調整値)は、2020年1月に2.4%だったものが10月に3.1%へと上昇したが[注2]、その上昇幅は先進諸国と比べて小さい[注3]。そこには、もともと人手不足基調だったことに加え、雇用調整助成金の支給要件緩和・支給水準引上げなどにより、政府が企業に従業員の雇用を守るよう働きかけたことなどが関係していよう。

しかし、上記のような公的統計では分からないこともある。全体的に見て失業率が小幅な上昇にとどまっていたとしても、一部の人々が高い確率で離職(転職、失業・無業)を経験していたかもしれない[注4]。どのような人々がコロナ禍で離職を経験したのかを多重回帰分析により明らかにすることが、本稿の第1の課題である。

また、この間に失業・無業を経験した人々のうち、再就職しやすいのはどのような人々なのかも、公的統計からは明らかにならない。元の仕事と再就職後の仕事にどのような違いがあるのかも不明である。それらの点を明らかにすることが、本稿の第2の課題である。

2 データと分析概要

使用するデータは、JILPTが実施した「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査(第1回・第2回・第3回)」である。第1~3回調査の実施時期は、それぞれ2020年5月、8月、12月となっている[注5]。一連の調査はインターネット調査会社のモニターを対象としたパネル調査であり、本稿では第1~3回調査の連続回答者で、2020年4月1日時点で民間企業雇用者だった3172名を分析対象とする。

本稿の分析は2段構えとなっている。1段階目として、4月時点で雇用者だった3172名を、①同一企業に定着して働いている人々、②(失業・無業の経験なしに)他社に転職して働いている人々、③失業・無業を経験した人々の3カテゴリーに分け、どのような属性でどのような働き方をしていた人々がそれぞれのカテゴリーに入りやすいのかを明らかにする。

2段階目として、失業・無業を経験した人々のうち、どのような人々が再就職しやすく、どのような人々が失業・無業状態を継続しやすいのかを明らかにする。なお、正社員としての再就職と非正社員としての再就職とでは意味合いが異なるため、両者を別々のカテゴリーとして捕捉する。加えて、元の仕事と再就職後の仕事の違いについても明らかにする。

使用するカテゴリーおよび分析概要を図示すると、図1のようになる。

図1 使用カテゴリーと分析概要

図1画像

3 離職を経験しているのは誰か

はじめに、4月時点の民間企業雇用者を対象として、基本属性と5~12月の8ヶ月間の経験の関係を見てみたい(表1)。なお、調査設計上の都合および回答の信頼性への配慮から、自営等に移動している38名については分析から除外している(N=3134)。

ここから、全体の92.9%は同一企業に定着していること、女性の方が転職率、失業・無業経験率が高いこと、若年者は転職率、失業・無業経験率が高いこと、非大卒者は失業・無業経験率が高いこと、生計維持者以外において失業・無業経験率が高いこと、非正社員において転職率、失業・無業経験率が高いことが分かる。

表1 基本属性と8ヶ月間の経験

表1画像

注:「正社員」、「非正社員」は4月1日時点の状況。

次に、多項ロジスティック回帰分析により、離職に対する複数の説明変数の効果を同時に見てみたい(表2)。ベースカテゴリーは同一企業定着者である。モデル①は、性別、年齢、学歴の効果を見たものであり、女性は転職、失業・無業経験をしやすいこと、若年者は転職、失業・無業経験をしやすいこと、大卒以上は失業・無業経験をしにくいことが読み取れる。

表2(1) 離職の規定要因(多項ロジスティック回帰分析)

表2(1)画像

注:ベースカテゴリーは「同一企業定着者」。**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。

モデル②は、性別、年齢、学歴に加え、生計維持者か否か、4月時点で非正社員だったかどうかを説明変数に投入したものである。ここから、生計維持者は、転職はしやすいが失業・無業経験はしにくいこと、非正社員は、転職も失業・無業経験もしやすいことが読み取れる。他方、女性の転職しやすさ、失業・無業経験のしやすさは統計的に有意でなくなっている。モデル①にて女性は転職、失業・無業経験をしやすいという結果が得られたのは、女性に生計維持者が少ないこと、非正社員が多いことが関係していると考えられる[注6]

表2(2) 離職の規定要因(多項ロジスティック回帰分析)

表2(2)画像

注1:ベースカテゴリーは「同一企業定着者」。**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。

注2:「正社員」、「非正社員」は4月1日時点の状況。

モデル③は、コロナ禍特有の説明変数として、5月までに休業ないし休業日数の拡大があったか[注7]、5月調査直近の月収がコロナ前の通常月の月収と比べてどのくらいの水準であったか(月収指数)[注8]、を説明変数として追加投入したものである。ここから、休業・休業日数の拡大が転職しやすさに若干のプラスの効果を与えていること、月収低下が転職しやすさと失業・無業経験のしやすさの両方にプラスの効果を与えていること(特に、失業・無業経験のしやすさに対する効果が大きいこと)が読み取れる。勤務先の休業は転職をやや促し、月収低下は失業・無業化を強く促すと言える。休業だけであれば企業にとっても労働者にとってもまだ「余裕がある」が、月収が低下すると双方にとり深刻度が増すものと考えられる。

表2(3) 離職の規定要因(多項ロジスティック回帰分析)

表2(3)画像

注1:ベースカテゴリーは「同一企業定着者」。**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。

注2:「正社員」、「非正社員」は4月1日時点の状況。

注3:「休業・休業日数の拡大あり」、「月収指数」は5月調査でたずねたもの。そのため、5月調査までに転職をしている13名、失業・無業を経験している29名については、分析対象から除外している。

4 失業・無業経験者の再就職

続いて、失業・無業経験者の再就職状況を分析する。表3は、失業・無業経験者131名のうち、11月までに失業・無業経験をしている122名について、12月にどのような状態にあったかを、基本属性ごとに整理したものである。

ここから、第1に、12月時点で再就職しているのは半数弱であること、第2に、男性および4月時点で正社員だった人々は正社員に、女性および4月時点で非正社員だった人々は非正社員として再就職している傾向にあること、第3に、若年者、生計維持者以外、4月時点で非正社員だった人々は無業化している傾向が強いことが読み取れる。

表3 失業・無業経験者の基本属性と12月の状態(行%)

表3画像

注:「正社員」、「非正社員」は4月1日時点の状況。

失業・無業者については、何月の時点で失業・無業状態であり、何月に再就職したかの情報が得られている。そこで、サバイバル分析の一種である離散時間多項ロジスティック回帰分析により、失業・無業状態だった人々のうちどのような人々が早く再就職をしているのかを明らかにしたい。分析対象は、t月に失業・無業状態だった人々であり、被説明変数はt+1月に「正社員」、「非正社員」、「失業・無業継続」のいずれであったかである(「自営等」は除外している)。ベースカテゴリーは、「失業・無業継続」である。

表4は、その結果を示したものである。まず、失業・無業継続月数が「正社員」に対しても「非正社員」に対してもマイナスで有意である。このことは、失業・無業期間が短いほど再就職しやすいことを示している。逆に言えば、失業・無業期間が長くなると再就職しにくくなることを意味する。

また、生計維持者は、統計的に有意に正社員として再就職しやすいことが読み取れる。非正社員としての再就職についても、(統計的に有意ではないが)係数の符号がプラスであるため、生計維持者は概して再就職しやすいと言える[注9]

加えて、非正社員ダミーの効果から、4月に正社員であった人々は正社員として再就職しやすく、非正社員であった人々は非正社員として再就職しやすいことも読み取れる。

表4 失業・無業経験者の再就職の規定要因(離散時間多項ロジスティック回帰分析)

表4画像

注1:ベースカテゴリーは「失業・無業継続」。**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。標準誤差にはクラスターロバスト標準誤差を使用している。

注2:分析対象者は121名。「5月に失業、6月に自営等」の1名は分析から除外されている。

それでは、元の仕事と再就職後の仕事にはどのような違いがあるだろうか。図2は、11月までに失業・無業を経験しており、12月時点で雇用者として再就職している56名について、再就職前後の雇用形態と、月収の変化(コロナ前の通常月と比べた増減)を示したものである。

サンプルサイズが小さいため、結果の頑健性には留意が必要であるが、ここから、正社員から非正社員になった人々が22.7%であるのに対し、非正社員から正社員になった人々が8.8%であり、「正社員化」より「非正社員化」の方が起こりやすいことが分かる。また、月収についても、増加した人々は5.4%にとどまるのに対し、減少した人々は33.9%に上っている。

図2 再就職前後の状況(N=56)

図2画像

このように、コロナ禍での再就職を取り巻く環境は厳しい。しかし、図3にて失業・無業継続者(12月時点で失業・無業を継続している人々)と再就職者の生活満足度を比較すると、再就職者の満足度が高いことが歴然としている。厳しい環境下ではあるが、再就職支援が重要であることは言うまでもないだろう。

図3 失業・無業継続者と再就職者の生活満足度(%)

図3画像

5 おわりに

以上、コロナ禍での離職(転職、失業・無業)および失業・無業状態からの再就職の実態を分析してきた。得られた知見をまとめると、次のようになる。

第1に、非正社員が失業・無業を経験しやすいこと、若年者にもややその傾向があることが明らかになった。コロナ禍での非正社員や若年者の雇用の減少については、「労働力調査」などのマクロデータを用いた先行研究でも指摘されていることであり[注10]、本稿での分析結果はそれをミクロデータから裏付けるものである。

第2に、それに加え、コロナ禍特有の要因として、勤務先の休業が転職をやや促し、月収低下が失業・無業化を強く促していた。

第3に、失業・無業期間が短いほど再就職しやすいこと、逆に言えば、失業・無業期間が長くなると再就職しにくくなることが確認された。

第4に、生計維持者は失業・無業化しにくく、また、失業・無業化しても早期に再就職しやすかった。逆に言えば、生計維持者以外において長期の失業・無業状態に陥る人々が多いということである。

第5に、概して再就職を取り巻く環境は厳しかった。具体的には、再就職に際して正社員化より非正社員化の方が起こりやすく、また、月収についても増加するより減少することの方が多かった。しかし、失業・無業を継続している場合に比べれば生活満足度は格段に高く、再就職支援の必要性に揺るぎはなかった。

本稿は、あくまでコロナ禍での離職と再就職の実態分析をしたにとどまる。それゆえ、ここから明確な政策含意を導くことは難しいが、少なくとも、(1)失業・無業状態が長期化した人々(そこには生計維持者以外が多く含まれる)への特別な支援が求められること、(2)コロナ感染拡大を防ぎつつ失業・無業化を防ぐ観点からするならば、「休業はさせるが、給与はしっかり補償する」ことが肝心であることが示唆される。

付表 失業・無業経験者の再就職の規定要因(男性のみ)(離散時間多項ロジスティック回帰分析)

付表 画像

注1:ベースカテゴリーは「失業・無業継続」。**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。標準誤差にはクラスターロバスト標準誤差を使用している。

注2:分析対象者は42名。「5月に失業、6月に自営等」の1名は分析から除外されている。

参考文献

脚注

注1 内閣府「国民経済計算」(2020年10-12月期 1次速報値)を参照。

注2 総務省「労働力調査(基本集計)」を参照。

注3 コロナショック後の2020年内の最高失業率は、アメリカで14.8%(4月)、イギリスで5.0%(10月)、ドイツで4.6%(12月)、フランスで9.4%(7月)であり、それぞれ2020年1月と比べて11.3ポイント、1.0ポイント、1.2ポイント、1.7ポイント上昇している。OECD.Stat "Monthly Unemployment Rate"(2021年2月18日閲覧)より。

注4 本稿では、他社へ転職した場合、失業(求職活動あり)した場合、無業(求職活動なし)化した場合を合せて、「離職」と呼んでいる。

注5 第1~3回調査の調査実施概要および結果概要は、それぞれ渡邊(2020a)、渡邊(2020b)、渡邊(2021)を参照。

注6 図表は割愛するが、女性の転職しやすさ、失業・無業経験のしやすさは、主として女性に非正社員が多いことによって説明される。

注7 設問は、「休業(閉鎖、閉店等)や休業日数の拡大」があったか否かである。

注8 コロナ前の通常月を100とした指数であらわしている。

注9 ちなみに、男性については、生計維持者であることよりも有配偶者であることの効果が強い(付表を参照)。

注10 非正社員の雇用減少については高橋(2020)を、若年者の雇用減少については酒光(2020)を参照。