緊急コラム
正規・非正規雇用とコロナショック─回復しない非正規雇用、底堅い正規雇用(6月「労働力調査」から)─

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雇用構造と政策部門 副主任研究員 高橋 康二

2020年8月4日(火曜)掲載

約1ヶ月前、総務省「労働力調査」の2020年1月~5月調査を用いて、その間のコロナショックが正規・非正規雇用にどのような影響を与えたのかについて、このコラム欄で私見を提示した[注1]。具体的には、(1)非正規雇用の労働時間・人数調整は5月調査の段階で一巡しており、非正規雇用の動向は好転している、(2)他方で正規雇用の動向に陰りが見え始めている、との見解を示した。本稿では、「労働力調査」の6月調査およびJILPTが6月に実施したアンケート調査の結果を加味して[注2]、コロナショックが正規・非正規雇用に与えつつある影響について認識を修正・アップデートしたい。

修正・アップデートの強調点は3つある。第1に、非正規雇用の回復の動きは思いのほか弱かったということである。それゆえ、正規・非正規を合わせた雇用量もコロナ感染拡大前の水準に戻っていない。第2に、他方で、正規雇用は底堅かったということである。第3に、人手不足の見通しが基調にあってか、非正規雇用が「雇用のバッファ」としての役割を果たした経緯にもかかわらず、企業が雇用ポートフォリオを意図的に修正(非正規化)する可能性は、調査時点での企業の方針に基づくならば低いということである。

本稿で主に使用するのは、前回コラムと同様、「労働力調査」の従業上の地位・雇用形態別の「就業者数」、「休業者数」、「従業者数」の値である。同調査においては、「就業者」は「休業者」と「従業者」から構成される[注3]表1はそれらの実数を、表2は前年同月差を示したものである[注4]

表1 従業上の地位・雇用形態別にみた就業者数・休業者数・従業者数(実数、万人)

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資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」より。表2においても同じ。

注:「就業者」、「(就業者のうち)休業者」、「(就業者のうち)従業者」のいずれにおいても、「従業上の地位不詳」の回答者がいるため、「自営等」~「非正規」の4つの区分を合計しても「計」に一致しない。表2においても同じ。

表2 従業上の地位・雇用形態別にみた就業者数・休業者数・従業者数(前年同月差、万人)

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はじめに確認しておきたいのは、就業者計が、3月調査までは前年同月差で増加していたということである。それは、特に正規雇用の拡大に牽引されていた。ちなみに正規雇用の就業者は、4月調査まで前年同月差で増加していた。これまでの緩やかな景気回復の中で人手不足の基調が続いていたことを読み取ることができる。

そのような状況下、最初にコロナショックの影響として捕捉されたのは、就業者の中の休業者の増加であり、その中心にいたのは非正規雇用者であった。非正規雇用の休業者(実数)は3月調査において急増し、4月調査では300万人に達した。また、就業者も4月調査では前年同月差でマイナス97万人となった。多くの非正規雇用者がこの時点で仕事を離れたのである。

5月調査では、非正規雇用の休業者(実数)は209万人へ減少する。そのことに後押しされて、非正規雇用の従業者(実数)は4月から5月にかけて117万人増加し、就業者(実数)も同時期に26万人増加した。非正規雇用の回復の兆しが見えたのである。しかし、6月調査を紐解くと、実数ベースで休業者の減少、従業者の増加の傾向は続いているものの、就業者は1万人減少した。結局、非正規雇用の就業者は前年同月差でマイナス104万人となっており、コロナ感染拡大前から通観すると、非正規雇用の規模は縮小したように見える。

これに対し、4月調査まで前年同月差で増加していた正規雇用の就業者は、5月調査で同マイナス1万人となり、少し遅れてコロナショックの影響が表われ始めたかに見えた。しかし、6月調査では同プラス30万人、実数でも5月と比べて27万人増加した。それと並行して、完全失業率(季節調整値)も4月調査で2.6%、5月調査で2.9%と上昇したところ、6月調査では2.8%と低下した。失業者の内訳を見るに、「主にしていく仕事」を探している人の増加も止まった[注5]

すなわち、非正規雇用について言うと、広範な休業要請や営業自粛に伴い真っ先に雇用のバッファとしての役割を果たして労働時間・人数調整の対象となり、5月調査の時点では緊急的な調整が一巡して雇用量が回復し始めたかに見えたが、結局、6月調査の段階でその水準は元に戻っていなかった。そのため、正規・非正規を合わせた雇用量もコロナ感染拡大前の水準に戻っていない。他方、5月以降になって要員水準の見直しが少しずつ始まったかに見えた正規雇用については、6月調査の時点での雇用量を見る限り、底堅さを示している。

ところで、雇用調整のタイミングを遅らせ、程度を和らげたという意味で、企業や正規雇用者は、雇用のバッファとしての非正規雇用者により恩恵を受けたと言える。この経緯のもとで、企業は今後の雇用ポートフォリオについてどう考えているのだろうか。図1は、JILPTが6月上旬に実施した「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」から、業績の回復見込みと今後の人材活用の方向性(一部の選択肢のみ抜粋)の関係を示したものである[注6]

図1 業績の回復見込み別にみた今後の人材活用の方向性(複数回答(一部の選択肢のみ抜粋)、%)

表1画像

資料出所:JILPT「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(2020年6月実施)より筆者が作成。

注:今後の事業継続について「分からない」と回答した企業等106社は、集計から除外。

左端の「合計」を見ると、人手不足の基調を反映してか、「正規従業員の比率を高めていく」(16.0%)が「パート・アルバイト・契約社員の比率を高めていく」(5.1%)や「派遣社員の比率を高めていく」(1.3%)を上回っている。長期的にみて人手不足であることが間違いない中、意図的な非正規化によってコロナショックを乗り切ろうと考えている企業は、現時点では少ないと言える。

しかし、赤枠部分が示すように、業績の回復に時間がかかると考えている企業ほど「正規従業員の比率を高めていく」と回答する割合が低くなり、パート・アルバイト・契約社員等の非正規雇用比率を高めると回答する割合が高くなる傾向がある。また、図表は省略するが、「外部委託化(アウトソーシング)を進める」と回答した企業が、「合計」で7.8%、「2年超」で11.8%あり、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員等による非正規化の可能性を上回っている点にも注意が必要である。外部委託の具体的な形態は不明であるが、その形態次第では(仮に、雇用と自営の中間的な働き方が少なからず念頭に置かれているならば)、実質的な雇用ポートフォリオに影響を与える可能性があるだろう。

断るまでもなく、単月の調査結果、1回限りのアンケート調査結果に一喜一憂するのは禁物である。また、ここでの見解は現時点で得られるデータに基づくものであって、実際にはデータへの反映にタイムラグを伴いながら、事態が別の方向に向かっている可能性もある。周知のように、7月に入ってからコロナ感染者が急増し、経済の先行きがいっそう見通しにくくなった事実を踏まえるならば、足元では、非正規雇用だけでなく正規雇用についても抑制圧力が強まり、雇用ポートフォリオの修正を検討する企業も増えているかもしれない。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 高橋康二(2020)緊急コラム「正規・非正規雇用とコロナショック─休業が明けた非正規雇用、伸びが止まった正規雇用─」を参照。

注2 2020年6月実施「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」。調査対象はインターネット調査会社のモニター登録企業3000社であり、有効回収数は1293社(有効回収率43.1%)である。調査実施概要の詳細および結果速報は、JILPT中井雅之による記者発表『「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(一次集計)結果(5月調査・連続パネル個人調査)』(PDF:956KB)を参照。この場を借りて、データを提供してくださった中井氏に御礼を申し上げる。

注3 「休業者」は、「仕事を持ちながら、調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、(1)雇用者で、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者、(2)自営業主で、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者」を指している。本稿の表では、6月調査「追加参考表」の「休業者」および各月基本集計の第Ⅱ-4表で「月末1週間の就業日数」が0日の者の人数を用いた。「従業者」は「調査週間中に賃金、給料、諸手当、内職収入などの収入を伴う仕事を1時間以上した者」を指している。

注4 同調査では、毎月月末一週間の状態についてたずねている。それゆえ、本稿において「○月調査」と言う時には、○月の最終週の状態をあらわしている。

注5 完全失業者のうち、「かたわらにしていく仕事」を探している人は4月調査、5月調査、6月調査でそれぞれ35万人、34万人、34万人であるのに対し、「主にしていく仕事」を探している人はそれぞれ145万人、154万人、152万人である。

注6 業績の回復見込みの設問は、「今後(緊急事態宣言解除後)の見通しについてお聞きします。貴社の業績はいつ頃から回復して元の水準に戻る見込みですか。あるいは回復しないとお考えですか。」である。

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