2002年 学界展望
労働法理論の現在─1999~2001年の業績を通じて(3ページ目)


はじめに

大内

それでは、労働法学の学界展望座談会を始めたいと思います。

今回は、1999年から2001年の業績が対象となります。98年の業績についても、前回の学界展望において間に合わなかったものについては対象としております。今回、取り上げた業績は、これまでと同様、参加者全員で絞り込んでセレクションをしたものです。その際の第一の基準が、過去3年間において労働法学の理論的発展に貢献した業績であるかどうかという点であり、そのうえで労働法を専門としない方にもできるだけ労働法研究の広がりを知ってもらいたいということから、特定のテーマに偏らないようにするということにも配慮した選考をしました。

なお、今回の学界展望においては、形式的な点について従来と若干異なるところがあります。まず、今回、参加者が4名になりました。学界展望は幸いなことに、これまでの諸先輩方のおかげで大変注目を浴びる企画となっております。前回参加した私の経験からも、その反響たるや極めて大きなものでした。それだけ責任もあるわけですから、ここでの議論ができるだけ多様な意見を反映し、客観的なものに近づくよう、人数を増やすことになりました。また、最近の傾向として、業績の数が量的にかなり増え、また質的にも多様化しているなかで、3人でやるよりは4人のほうが、全体に目配りをしやすくなるということもあります。

さらに、今回は単行本を検討対象に加えたという点でも従来と異なっています。その理由は、労働法学の新たな理論的進展に貢献している業績から単行書を排除してしまうのは妥当ではないからです。これは、今回の選考において、これに該当する業績があったからというわけではなく、セレクションの前段階で4人で検討したうえでこのようなルールについて合意を得ていました。

そのほか、最終的な選考業績には含まれませんでしたが、外国語で書かれた文献も、事務局と参加者の把握できる限りにおいて目を通しましたし、また、比較法の論文についても、日本法の理論の進展に貢献したものがあるかどうかという点から検討したということもつけ加えておきたいと思います。

なお、単行本の中でも、教科書的なものについては慣例どおり、たとえ優れたものであっても選考からは除外しております。このような文献としては、諏訪康雄『雇用と法』、西谷敏『労働組合法』、盛誠吾『労働法総論・労使関係法』があります。また、モノグラフについても、大内伸哉『労働条件変更法理の再構成』や、土田道夫『労務指揮権の現代的展開』は、既に基となる論文がこれまでの学界展望で取り上げられていますので、初めから選考から除外しています。また、いくつかの論文を集めたもので、一つの業績として扱うことが困難なものは、ここでの検討対象に含めていません。そのような業績の中でも優れた注目すべき文献はあり、例えば、浅倉むつ子『労働とジェンダーの法律学』、鎌田耕一編『契約労働の研究』、道幸哲也『不当労働行為の行政救済法理』を挙げることができます。

それでは、早速、本論に入りましょう。唐津先生からお願いします。