2001年 学界展望
労働調査研究の現在─1998年~2000年の業績を通じて(9ページ目)


8. 労働者意識とキャリア

論文紹介(守島)

守島

日本労働研究機構『フリーターの意識と実態』

最後に、若者の就業意識の変化ということで、フリーターの問題に触れましょう。日本労働研究機構から非常に大部の、かつマスコミで比較的話題となった報告書(No.136、2000)が出ましたので、それを紹介します。マスコミでの扱いは、フリーターの増加や、フリーターは何を考えているかに関心があったような気がするのですが、この調査報告のもう一つのポイントは、フリーターを結果として生むような、学校から職業への移行(school to work transition)に関する問題性を指摘していることです。

この調査は学校卒業時点で正社員としての就職や進学をしていない高卒者が主な対象になります。学卒無業者の増加、そして卒業後、アルバイトなど非正規で働く学卒者、いわゆるフリーターに関しての意識を探るために、具体的には97人(男性34人、女性63人)のフリーターを対象とした丁寧なヒアリングを行っています。

フリーター自身に関しては、大きく三つのタイプ、細かくは七つの類型を提出しています。三つとは、モラトリアム型、夢追求型、やむを得ず型です。おのおの3、4割程度で、おおよそ均等に分布しています。ただ、最も多いのは、報告書が離学モラトリアム型と呼ぶ、もしくは高校・大学中退後、進路未定のままフリーターとなるタイプです。ただし、男性に限った場合は、正規雇用志向型や期間限定型など将来の正規就業を目指すタイプも多く、女性とは少し異なります。

フリーターの意識という点では、多くがやりたいことへのこだわりを主張し、それを基盤としてフリーターであることを正当化する傾向にありますが、ただ、その中でも、やりたいことを見つけようとしているタイプと、やりたいことにこだわるタイプの、2タイプがあります。

しかしながら、多くは将来のキャリア形成を意識して、その方向を見定めようとしています。つまり、どういうことをやりたいか、どうキャリアを進んでいきたいかということについて、考えている人たちは多い。ただ、その考え方は具体性を欠いていて、またその状況に焦りを感じている。どうしたら自分のキャリアをこれから展開していけるかということがわからないという状況に焦りを感じている者も多い。特に20代後半までフリーターをしているような人たちは、そこの焦りが非常に強いということです。

この報告書のもう一つの大きなテーマは、上記を背景として、高校卒業時に職業選択について明確な意識が形成されていない状況にあるとしている点です。その理由は、大学進学や専門学校進学等についての進路指導は比較的適切に行われるのに対して、就職に関しては、あまり進路指導が行われていないのではないかというものです。高校卒業時点での進学に偏らない進路指導、早期からの職業情報の提供などを望むフリーターもいると言っています。つまり、高校卒業時点での進路指導、特に就職、職業選択に関する進路指導があまりうまくいっていないため、結果としてフリーターが多く出始めているということでしょう。

討論

就職指導とフリーター

柴田

守島さんが指摘された高校卒業時の職業選択ですが、私は毎年学部の講義で、日本・アメリカ・ドイツの経営を比較したビデオを使っています。そのビデオでは教育の違いも扱われており、日本の高校では非常に親切に就職指導が行われているのに対し、アメリカでは不十分で、そのためアメリカの若者は失敗と転職を繰り返しているとされています。確かにそうしたことも言えましょうが、バブル期の高い離職率などをみると、日本のやり方にまったく問題がないとは言えないように思いますね。企業をもっとよく知り体験できるインターンシップのような制度を、高校でも大学でも増やしてもよいように思います。

守島

そういう部分はあるでしょうね。ただ仮にフリーターにならなかったとしても、高卒で就職した人たちの転職率は、この不況期でも結構高いのです。就職あっせんとしての進路指導は、ある程度行われているにせよ、自分の適性や個性に合った仕事の選択に向けての情報提供や指導は、あまり効果的でなかったのかもしれない。では、インターンシップがいいのか、それとも何かほかのメカニズムがあるのかは私もわかりませんが……。

職業選択の幅と適職

松村

アメリカでも若いうちはあまり一つの仕事にこだわらないで、いろいろ経験してみるということも結構ありますよね。それはある意味ではいい面でもあって、そのこととフリーターの問題はどう関連しているのか。いろいろ試行錯誤しても、結局一つの決定に落ちつくのなら、必ずしも否定的な側面だけ持っているわけではないという気もするのですが。

守島

そうだと思います。フリーターという言葉自体がなかなか定義できないように、正規従業員としての就職を主流にして「それ以外のもの」という認識の構造の中でのフリーターの解釈だと思います。正規従業員で一つのところに長く勤めていくという今までのパターンからすればフリーターはたしかに逸脱ですが、もしかしたら、松村さんが言われるように、いろんな仕事を経験して、その中から自分にあった仕事を選んでいく、リアリスティックなプランに基づいた職業選択をやっているのかもしれない。

柴田

私は基本的に長期安定雇用は維持すべきだと思っておりますが、企業を選ぶチャンス、そして企業に入ってから、最近日本でも導入され始めた社内人材公募制や社内フリーエージェント制を利用しての適職を得るチャンスなど、もう少し個人の仕事選択の幅を広げてもよいのではないかと思います。より競争的な環境に向かうなか、やりたくもない仕事を与えられて悪い評価を受けることほど、働く人間にとっても経営側にとっても不幸なことはないのですから。

守島

それはあると思いますね。ただ、フリーターが選択の幅を広げているのかは、ちょっとまた別の問題です。

柴田

もちろんそうです。

守島

もうひとつ、一つの企業に入って、その中で仕事を渡されて経験を積んでいくという形以外に選択が広がるというのは、将来の人材開発を考えると、やはり問題があるのかもしれない。

ただ、正直な話、フリーターとは、今、柴田さんが言われたような「選択の幅の狭さ」に対する反発もあってそういう生き方を選択している側面があります。でも、そういう選択をせざるをえないような状況しか、われわれが提供できていないというのは悲しいですよね。将来、例えば、次回の学界展望で取り上げられるような大きな問題になるのかどうかわかりませんが、現在マスコミ的にも取り上げられているので、報告書としても取り上げる意味はあったと思います。