2001年 学界展望
労働調査研究の現在─1998年~2000年の業績を通じて(8ページ目)


7. 非正規雇用

論文紹介(守島)

守島

日本労働研究機構『労働力の非正社員化、外部化の構造とメカニズム』

非正規労働力一般の議論は比較的今までの労働調査研究のレビューでなされていますので、ここでは大きく2点だけを見たいと思っています。

一つは、企業側で非正規雇用をこれからより拡大的に活用していく場合、今まではコスト削減や柔軟性の上昇などの要因で拡大してきた経緯があるのですが、それが、少し戦略的になっているのかどうか。すなわち、パートタイマーや契約社員等の非正規労働力を会社の仕事上のニーズに従った形で使っているのかです。

日本労働研究機構(報告書No.132、2000)は、この点を見た調査であり、帝国データバンクのデータベースから、従業員規模30名以上の条件で、無作為抽出された6813事業所に調査票を送り、1379社から有効回答を得ています。回収率は20%です。調査時期は1998年でした。一つ大きな発見は、まず平均人数で見た場合に、平均的な企業で正社員が大体75%弱にとどまっているというのが現状のようです。他は、パートタイマーが約17%、契約登録社員が約3%などで、非正規社員が大体2割ぐらいいることになる。派遣などの外部労働者も約4%おり、非正規社員は、トータルで約25%になっているというのが、一つの発見です。

その使い方に関しては、まずパートタイマーと派遣労働者のうち約72%が、コスト削減や柔軟性の維持などの補助・定型的業務をやっている。最近、増加傾向にある契約登録、契約者、社内下請などの人たち(コントラクター)の約60%近くが、基幹専門的業務を行っている。つまり、企業は外部労働力を一様には扱わずに二つのタイプに分けて、それぞれ異なった活用をしているようです。

また、企業の製品戦略別に見た場合、高い品質を重視するような事業所では非正社員の割合が2割程度にとどまっており、仮に全体の平均が25%とすれば、これは平均より5%ほど少なく、正社員が8割近くを占めていることになる。それに対して、コスト削減や低価格を志向するような事業所では、非正社員が3割近くとなっており、5%ほど高い。また、品質重視の事業所でコントラクターの比率が高くなる傾向もあり、製品戦略別にも多少違いがあることをうかがわせています。

企業の経営状況による違いに関しては、経営が好調な事業所では非正社員・外部労働者と正社員の両方とも増加しており、特に正社員の増加の度合いが高い。つまり、業績が良好な企業は両方とも人数を増加しており、非正社員よりも正社員を増やす傾向にある。逆に経営状況が悪化している事業所では、正社員がより多く減少し、非正規社員・外部労働者が微増して、正社員を減らした部分の補填を、非正社員で行うという状態になっている。なお、このタイプの職場では削減された正社員の業務内容は、補助・定型的業務で、そういった作業に非正社員が従事するような傾向が見られます。

さらに、管理の問題に関しては、事業所ごとの非正社員や外部労働者の受け入れについてですが、個別具体的な人数の決定や費用の分担、そして仕事の手順などについては、事業所や事業部の管理部門など、分散的な管理が行われているという結果が出ています。

外部労働力の活用に関して踏み込んだ調査はおそらくこれが初めてで、企業は単にコスト削減、柔軟性の維持、補助・定型業務の外部化という形だけでなく、戦略や企業の経営環境に応じて、非正社員と正社員を使い分けているというのが、一つの結論だと思います。

もう一つ、パートタイマーを基幹労働力として活用していこうという企業が増えてきていますが、特にスーパー等を見た場合、現場監督者レベルまで、非正規従業員、特にパート従業員を使っていこうという傾向があります。それがどういう問題を引き起こすかというのが、次の論点だと思います。

労働省『パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告』

労働省(2000b)は、パートタイム労働に関わる雇用管理研究会の報告書で、かなり政策的でもあるため、その中でパートタイム労働に関するアンケート調査の部分だけを取り上げてみました。この調査は、従業員規模30名以上の全国事業所から無作為抽出された5000事業所に調査票を送り、1128通の有効回答(回収率23%)を得た事業所調査と、各事業所に配布を依頼した労働者調査とからなっています。労働者調査は、2521名が有効回答数でした。調査時期は1998年。それを見ますと、パート労働者、つまり短時間労働者の中で、みずから非正社員を希望した割合は53%であり、一方、正社員として働きたかった人は28%。また、今後について尋ねられると、41%が正社員になりたいと思っており、なりたくない人も50%いる。つまり、働いている人たちは、この調査から見る限り、非正社員である、もしくはパートであるということをポジティブに受け入れている状況にあります。

ただ、活用の実態を見ると、今度は正社員との職務内容としての区別はだんだん明確でなくなってきている側面もあり、労働者本人に聞いた場合、正社員と非正規従業員が同じ仕事をすることがあると答える割合は77%、企業側の回答では81%に上っています。

さらに、短時間労働者の入社時時給を、高卒一般社員の入社時月給を時給換算した場合で比較すると、正社員に対する割合が8割を超える事業所が74%。つまり、基本給ベースで考えれば、少なくとも約70%はもらっていることになる。ただ、短時間労働者の年間賞与額を同様に高卒一般社員と比較した場合、0%という事業所が38%で、6割以下の事業所が全体の74%を占めており、賞与までカウントすると、パート労働者は一般の従業員に比べて、非常に処遇が悪いという実態がある。

したがって、こうした実態を短時間労働者が納得しないケースが出てくる場合も多く、全体の75%が、自分の賃金が正社員よりも低いと思っており、51%しかその差に納得していない。納得できない理由としては、一番大きいのが「職務内容が同じだから」で、次に、職務内容や責任の違いに見合った給与ではないというのが29%と、いずれにしても、職責や仕事の内容が類似しているにもかかわらず給与が違うということに対する反発が多く、ここから同一労働同一賃金のような均衡の議論が出てきます。

小林裕「パートタイマーの基幹労働儀化と職務態度」

小林(2000)は、ある企業で、正規従業員の仕事を代替する仕事についているパート労働者が、その状況に対してどう意識しているかを見ています。具体的には、化学製品製造業に働く労働組合員3750名を対象にしたアンケートをデータとして用いており、回収率は67%でした。調査時期は1994年です。

理論的な枠組みとしては、「労働の人間化」施策の立場から、職務特性モデルに依拠して、職務労働力化はパートタイマーの職務態度にプラスの影響を与えるだろうという仮説を立てています。

ところが、結果は逆で、パートの基幹化は、満足度などの職務態度の上昇には影響を与えず、若干マイナスの影響も見られます。その理由として、パート労働を選択する労働者は、基幹化及びそれに伴う責任や仕事範囲の増大を受け入れることが難しい。つまり、もともと正規従業員のような働き方を選択していないと言えます。また、基幹化に労働条件やスキル開発が伴わないことへの反発も、満足度を下げていて、結論として言えば、安価な正社員として扱われることに反発しているわけです。

いずれにしても、パート労働、非正規労働に関しては、まず企業が戦略的に使い始めていて、その大きな流れの一つが、パート労働者などに今まで正社員がやってきた仕事を引き受けさせる基幹化という現象がある。ただ、その基幹化は、処遇の差を緩和し人材開発の条件がそろわない限りは、パート労働者には受け入れがたいということになります。

討論

基幹労働力化と同一労働同一賃金:パート労働者のモラール

柴田

ご報告された調査にはパートのうちの、何割くらいの人が正社員になっているかという数字はでているのでしょうか。

守島

僕の学生で今、自分の働いているスーパーマーケットで調査をしている人がいるのですが、そこでは3割ぐらいだと言っていましたね。

柴田

パートの人の時給や賞与などの待遇は、全体として改善されてきていると言えますか。

守島

正直に言えば、わかりません。ただ、おそらくよくなってはきているんだろうと思います。でも、賞与はシステムが別立てになっていて、払わないというのが40%近くあるというのが、大きなネックなんでしょう。年収に占める賞与の割合は、きわめて大きいため、トータルな処遇格差を考えると、「同じ仕事をしているのに」と不満に思うのは無理ないでしょう。

柴田

企業が安易に考えて、パートの人に正社員と同じ仕事をさせているというケースもあるのでしょうか。

守島

それはちょっとわかりにくい問題ですが、そうだと思いますね。なぜ基幹化、パートタイマーにより多くのより高い意思決定レベルの仕事をさせるか、調査で企業の議論を聞いていると、安くて、かつ柔軟だからというわけです。でも、それは、企業の論理です。だから、最近、均衡とか同一労働同一賃金が論じられている背景には、単にその問題が浮かび上がってきたという、以上に、企業のほうがパート労働者に正社員の仕事を代替させるような傾向が、だんだん増えてきた。つまり、外部労働力に正社員の仕事を代替させるという意図を持ち始めたということも、少しはあるような気がします。