資料シリーズNo.285
過重負荷による労災認定事案の研究 その6

2024年11月6日

概要

研究の目的

本研究は、労災認定された脳・心臓疾患事案の過重負荷について、時間外労働の長さだけではなく、休息時間の確保に関わる拘束時間の長さや、勤務と勤務の間にある休息時間(勤務間インターバル)の状況を分析することを通じて、労働者に健康の悪化をもたらした労働環境を考察することを目的に分析を行った。

研究の方法

分析方法として、2010(平成22)年度から2020(令和2)年度における脳・心臓疾患の労災認定事案のうち、「長期間の過重業務」が過重負荷として認定された事案を扱っている。具体的には、労災の「調査復命書」に付属する「労働時間集計表」の記録を、過労死等データベース(労働安全衛生総合研究所において作成されたもの)の属性情報と接続したものを分析データとして使用し、労働時間集計表データに欠損がない2,266事案を分析対象としている。

主な事実発見

分析の結果の概要は以下のとおり。

  • 一勤務あたり平均の拘束時間については、16時間以上の事案が8.2%となっている。特に、「漁業」、「運輸業、郵便業」等の業種や、「農林漁業従事者」、「輸送・機械運転従事者」、「保安職業従事者」等の職種で、一勤務あたりの拘束時間が長い。
  • 1か月あたりの拘束時間は、平均313.93時間であり、320時間以上の事案が32.9%を占めている。特に、「農林業」、「漁業」、「運輸業、郵便業」、「宿泊業、飲食サービス業」等の業種や、「農林漁業従事者」、「保安職業従事者」、「輸送・機械運転従事者」、「サービス職業従事者」等の職種で、1か月あたりの拘束時間が長い。これらの業種・職種では、労働時間に対する拘束時間の比率も高い傾向にある。
  • 勤務間インターバルについては、9時間未満の日の事案が12.3%あり、9~11時間未満の事案を合わせると、11時間未満の日の事案は36.9%であった。9時間未満の日の事案が占める割合は、「漁業」、「運輸業、郵便業」等の業種や、「農林漁業従事者」、「輸送・機械運転従事者」等の職種で高くなっている。9~11時間未満の日の事案を合わせると、11時間未満の日の事案が占める割合は、上記の業種・職種に加え、「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「宿泊業、飲食サービス業」等の業種や、「サービス職業従事者」等の職種でも高いことが分かった。

図表1-1 1 か月あたりの時間外労働時間(PDF:556KB)

図表1-2 事案における平均始業・終業時刻の分布(PDF:369KB)

図表1-3 各事案における平均始業時刻(PDF:555KB)

図表1-4 1勤務あたりの拘束時間(PDF:585KB)

図表1-5 1 か月あたりの拘束時間(PDF:585KB)

図表1-6 労働時間に対する拘束時間の比率(拘束時間/労働時間)(PDF:553KB)

図表1-7 勤務間インターバルの事案ごとの平均値(PDF:553KB)

図表1-8 事案における勤務間インターバルの分布(PDF:338KB)

図表1-9 勤務間インターバルの集計(勤務を単位とした集計)(PDF:553KB)

政策的インプリケーション

本研究で対象とした脳・心臓疾患の労災認定事案は、長時間労働事案が多くを占めるが、同時に、拘束時間が長い事案、勤務間インターバルが短い事案が少なくない。こうした働き方は、休息時間を制約し、働く者の健康を著しく悪化させるものであろう。過労死等防止の観点からは、長時間労働の防止はもちろんのこと、働く者の健康を損なわせる働き方について多角的に考察し、問題に対処することも求められる。あわせて、拘束時間の長い勤務、勤務間インターバルの短い勤務は、特定の業種・職種に偏って存在している面もあり、その背景には、営業時間や業界の慣行など業態的な要因が関わると推測される。働く者の健康確保に向けて、実態をふまえた過重労働の是正策が求められる。

政策への貢献

「令和6年版過労死等防止対策白書」において活用されたほか、長時間労働抑制など過重労働に関連する諸問題にかかる政策の企画・立案に貢献するものである。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な働き方と処遇に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等人事管理に関する研究」

研究期間

令和5年度

執筆担当者

池添 弘邦
労働政策研究・研修機構 統括研究員
高見 具広
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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