資料シリーズNo.246
過重負荷による労災認定事案の研究 その3

2021年12月24日

概要

研究の目的

本研究は、過労死・過労自殺等過重負荷を通じた業務上災害の発生機序を、労働や職場の視点から明らかにすることを目的に行われるものである。具体的には、労働時間の長さを中心としつつ、その背景には様々な業務の事情や負荷、心理的負荷が複雑に絡み合って業務上災害が生じていると考えられるところ、定量的に傾向を把握し、また、個別事案の主な要因を解明し類型化などを試みるものである。

研究の方法

独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センターが保有する行政資料を基に調査研究を行った。下記研究担当者は、① 職場管理における実務的課題及び法制度運用上の課題の提示に向けた研究を行った。この際、既存のデータセットを基礎として新たな変数を整理するなどしたうえで定量的検討を行い、加えて、抽出条件を絞ったうえで個別事案を取り上げて定性的検討を行った。また、② 業務上認定された精神障害の労災認定事案(うち、自殺以外の事案(生存事案))において、特別な出来事「極度の長時間労働」に該当するケースを対象に、その事案特性に関する集計及び調査復命書等の記述内容の分析を行った。(なお、以下では、脳・心臓疾患事案を「脳心事案」と、精神障害事案を「精神事案」と、また、各認定基準の表記に従い、脳心事案については「発症」と、精神事案については「発病」と表記する。)

主な事実発見

第1章「職場管理の観点から見た労災認定事案の検討」は、上記①について調査研究を行ったものである。その結果、職位が上がると長時間労働など過重な負荷がかかること(図表1-29, 1-33~35. 本文中の図表番号。以下同じ。)、実労働時間の客観的な記録方法であるタイムカードが活用されていても労働時間の長さには影響がないと考えられること(図表1-30, 1-36~38)、労働組合の存在は長時間労働の抑制に効果がある可能性があるものの(図表1-31, 1-39~41)、個別事案(検討事案の概要1・2)を見る限り労働組合は長時間労働・過重負荷の予防・抑制に関与していないこと、過半数従業員代表は36協定の締結に関与するのみで実質的に“代表”としての意義を果たしていないこと(図表1-32, 1-42~44)、36協定が締結されている場合であっても、検討した事案の限りで、当該協定が定める時間数を超える時間外労働が行われている事案が存在すること(検討事案の概要1・2)が分かった。

第2章「精神障害の労災認定事案における「極度の長時間労働」事案の検討」は、上記②について調査研究を行ったものである。労災認定事案に係る調査復命書記載の「労働時間集計表」をもとに、発病前1か月間の労働時間の状況(拘束時間、就業時間帯、休日取得状況等)を検討するとともに、長時間労働となった要因を、精神障害を発病した労働者本人の仕事の状況(業務量や進め方)、会社・上司による仕事管理、労働時間管理の観点から考察している。併せて、精神障害発病に至る本人の心理的負荷の認識、上司・同僚等の事実認識を検討し、長時間労働による精神障害労災認定事案を読み解いている。

「極度の長時間労働」が認定された71事案(検討対象期間における全数)を分析した結果、相当数の事案で、頻繁な深夜労働や、休日がきわめて少ない連続勤務の実態が確認された。また、長時間労働になった要因については、出退勤管理や時間外労働に係る自己申告制の運用等に伴い労働時間が正確に把握されていなかった事案や、管理監督者扱い等に伴って労働時間の状況の把握が疎かになっていた事案、実労働時間は把握されていたものの、実効性のある長時間労働対策が行われていなかった事案が見られた。さらに、長時間労働を防げなかった理由として、関係者の申述からは、人手不足や繁忙期に伴う膨大な業務量、業態的に長い営業時間、顧客都合によるタイトな納期・スケジュール、専門性・個別性の高い業務特性、業務責任者であったこと(店長や管理職等)、本人の仕事の進め方や性格特性が関わることが示された。そして、こうした長時間労働の状況等によって、心身の極度の疲弊、消耗を来し、精神障害発病の原因となっていたことが、各事案の記述内容から確認された。

政策的インプリケーション

第1章「職場管理の観点から見た労災認定事案の検討」では、過労死・過労自殺等の労災事故の予防に当たっては、管理職をして管理業務を行わせるべきこと、またそのために職場において業務改善等を行う必要があること、タイムカード等客観的な出退勤管理方法を長時間労働・過重負荷の予防・抑制に活用すべきこと、労働組合はその存在意義たる労働条件の維持改善を果たすべく、長時間労働・過重労働の予防・抑制に取り組むべきこと、過半数従業員代表についてはその責務の重大さから本質的な“代表”として制度政策上位置付けるべく議論すること、使用者においては36協定を労働時間管理の自主的規制としてよく認識し適切に運用すべきこと、を結論として述べている。

第2章「精神障害の労災認定事案における「極度の長時間労働」事案の検討」では、上記の分析から、長時間労働を当然視する職場風土を見直す等、過労死等を予防するための労務管理(労働時間管理、仕事・職場管理)が求められる、と結論付けている。

政策への貢献

過労死・過労自殺防止対策のほか、長時間労働抑制など過重労働に関連する諸問題にかかる政策の企画・立案に貢献するものである。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」

研究期間

令和2年度

執筆者

池添 弘邦
副統括研究員
高見 具広
副主任研究員
藤本 隆史
リサーチアソシエイト

関連の研究成果

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