資料シリーズNo.268
デジタル人材の能力開発・キャリア形成に関する調査研究
―「デジタル人材」「IT人材」をめぐる先行研究等のレビューに基づく考察・検討―

2023年3月31日

概要

研究の目的

プロジェクト研究「デジタル人材の能力開発・キャリア形成に関する調査研究」は、日本の「デジタル化」を支える「デジタル人材」の能力開発・キャリア形成、およびデジタル化が進行する状況下での人材育成・能力開発における現状の把握分析から、それぞれにおける課題を明らかにし、政策的対応の方向性・内容について検討することを目的とする。具体的な調査研究活動としては、➀これまで十分に実態把握や分析が進んでこなかった、「デジタル人材」育成に関する企業の取組み、ならびその取組みに影響を与えうる各社の事業活動や人的資源管理、②「デジタル人材」と目される人材の能力開発やキャリアに関わる活動を把握・分析することを予定している。

しかしながら、「デジタル人材」という用語は、近年急速に人口に膾炙する一方で、それゆえに意味内容が多様・曖昧化している。本書では、調査研究における問題意識と対象を明確化するために、「デジタル人材」をはじめとしてデジタル化に関わる人材についてのこれまでの調査・研究結果をレビューし、何が明らかにされてきたのかを改めて振り返るとともに、今後の「デジタル人材」の調査・研究にあたって求められる観点や検討課題についての考察を行った。

研究の方法

先行調査・研究、政策資料のレビュー

主な事実発見

  1. DXに対応するまたはDXを推進する人材としての「デジタル人材」に関しては、多くの企業が、DXを事業運営面で主導する人材と、DXを技術面で支える人材の双方について、不足感を感じている現状を各種調査の結果から読み取ることができる。

    また、既存の調査結果からは、企業におけるDXが進展するほど、「アーキテクト」や「データサイエンティスト」といった、ITの専門的スキル・知識を持つ人材へのニーズが高まるとともに、ITのシステムや製品を活用して各現場で仕事をする人材の重要性も高まることが推測される(図表1)。

    図表1

    (複数回答・単位:%)
      全社DXリーダー 全社DX企画・推進者 現場DXリーダー 現場DX企画・推進者 アーキテクト
    回答全体(n=1061) 52.8 61.7 57.8 53.8 37.8
    全社的に推進している(n=445) 59.8 69.2 65.8 61.1 51.7
    一部部署等で推進している(n=231) 47.2 58.4 56.3 53.7 36.8
    取り組み検討中(n=239) 51.9 54.8 53.6 50.2 22.6
    情報収集段階(n=146) 41.8 55.5 42.5 37.7 21.9
      データサイエンティスト エンジニア 現場のデジタル活用人材 その他 分からない
    回答全体(n=1061) 39.5 39.2 27.9 0.9 3.0
    全社的に推進している(n=445) 50.8 47.6 34.6 1.3 2.7
    一部部署等で推進している(n=231) 37.7 37.7 27.3 0.9 3.9
    取り組み検討中(n=239) 28.9 34.3 23.8 0.4 2.5
    情報収集段階(n=146) 25.3 24.0 15.1 0.7 3.4

    出所:パーソルプロセス&テクノロジー株式会社(2021)「デジタル人材育成に関する調査」より。

  2. 「デジタル人材」と同様、デジタル化に関わる人材として取り上げられる「IT人材」については、先行調査研究のレビューから、①事業戦略上必要なIT人材については、IT企業、ユーザー企業ともに9割が量・質両面での不足を感じており、こうした状況は2020年前後の数年間続いていること、②IT企業におけるIT人材確保の方法は、新卒採用、中途採用、外部人材の活用がメインであり、ユーザー企業でも同様の方法がメインになっているが、IT企業に比べると活用度が低いこと、③IT関連産業に属する各企業にとって、IT人材の育成・能力開発はとりわけ重要な人事課題として取り組まれてきたこと、④多くのIT技術者がスキルアップに対し興味と関心を示して前向きである一方、スキルアップに対する興味や関心の裏に自らの能力やキャリアに関する不安や展望が開けない思いを抱えているといった状況がうかがえること(図表2)、といった知見を確認することができる。

    図表2

    多くのIT技術者がスキルアップに対し興味と関心を示して前向きである一方、スキルアップに対する興味や関心の裏に自らの能力やキャリアに関する不安や展望が開けない思いを抱えている

    出所:IPA(2016)「IT人材動向調査・IT技術者調査」より作成。各事項について「よくあてはまる」、「どちらかと言えばあてはまる」の回答割合の合計を示している。

  3. 先行調査研究のレビューを基に、「デジタル人材」と「IT人材」の関係について検討すると、まず、より先端的なデジタル技術の活用(IoT、AI、ビッグデータなど)に対応できる「IT人材」が「デジタル人材」として注目された。さらにそうしたデジタル技術の活用を企業経営のより広い範囲において実現していこうとする動きのなかで、事業や業務の運営や企業経営全般におけるデジタル技術の活用を支える人材や、デジタル技術が普及した就業環境下で業務を遂行する人材もまた「デジタル人材」として捉えられるようになっている。

  4. 本書では「リスキリング」という、デジタル化やDXの必要性が社会的に強調される中で、「デジタル人材」とともに急速に注目されるようになった現象・取組みについて、近年のアンケート調査を中心に現状を概観した。企業調査からは、DX推進とリスキリングへの取組みとの間には一定の相関がみられること、個人調査からは、リスキリングやデジタル・リスキリングに取り組む程度は職種によって大きな差が見られること、勤務先の人事労務管理や所属部門の上司のマネジメントのあり方がリスキリングへの取組みに影響をあたえることといった知見が得られている。

政策的インプリケーション

既存の政策方針や調査研究において見出された「デジタル人材」や「IT人材」のタイプは、①デジタル環境を「つくる人材」と「つかう人材」という軸と、②所属する企業がIT企業か非IT企業かという軸の2軸によって形成される人材タイプの中に位置づけることができる。また、こうした位置づけにより、今後の調査研究における優先的な対象についての検討や、導きうる政策的インプリケーションについての考察も可能となる。

政策への貢献

デジタル化およびDXが進行する状況下での能力開発およびキャリア形成の支援に資する政策を検討するための基礎資料として用いられる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「デジタル人材の能力開発に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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