資料シリーズ No.183
日本的雇用システムと法政策の歴史的変遷
―バブル崩壊以降の労働政策の変遷―
概要
研究の目的
プロジェクト研究サブテーマ「雇用システムと法プロジェクト」においては、今後の労働政策の中長期的な方向付けに資するため、日本的雇用システムの変化を把握分析し、今後の変化を見通しつつ、政策上の課題を提示することを目的としている。本資料では、「日本の労働法政策の変化と課題を整理するための作業」の一環として、バブル崩壊後の1996年以降の時期を大きく3つに区切ったそれぞれの期間において、我が国で講じられてきた労働法政策のうち、日本的雇用システムに関わるものを中心に整理し、基礎資料としてとりまとめた。
研究の方法
文献調査
主な事実発見
[1996年~2006年]
1995年の第8次雇用対策基本計画では、雇用対策の基本的事項の第1に「雇用の創出と失業なき労働移動の実現」が挙げられるなど、雇用の安定を最重要視してきたこれまでの雇用政策理念に変化がみられたが、実際に雇用維持から「雇用の創出と失業なき労働移動の実現」に政策転換がみられたのは1999年11月の「経済新生対策」における雇用対策から、いわゆるITバブル崩壊期にかけての時期であった。
1993年からの「就職氷河期」と呼ばれる新規学卒者の就職が極めて厳しい状況は長期化し、若年者の失業率が急速に高まった。また、フリーターと呼ばれる若年非正規労働者が増加・滞留し、初めて学卒者以外の若年者雇用対策が政策課題となった。
職業紹介事業や労働者派遣事業のネガティブリスト化、労働基準法改正による労働時間や契約期間の規制緩和等が行われたほか、個別労働紛争解決のための行政・司法上の専門手続・サービスを整備する個別労働紛争解決促進法や労働審判法が制定された。
さらには、福祉増進の法から差別禁止法へと転換する男女雇用機会均等法の改正、育児・介護休業法の制定や、厚生労働省が誕生し厚生・労働行政が1本の法律で連携する次世代育成支援対策推進法の制定がなされた。
[2007年~2012年]
リーマンショックを含む世界同時不況期において、雇用対策は雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金による雇用維持支援に回帰した。また、「派遣切り」の発生等を受けて、非正規雇用等雇用保険で支えられない人に対する職業能力開発等の支援も開始された。さらに、これまで緩和する方向に改正されてきた労働者派遣を規制する方向での法改正や、短時間労働者、派遣労働者に対して雇用保険の適用が拡大されるなど、セーフティネットの拡充が進んだ。
2011年の東日本大震災や、円高、原油高による景気後退局面における雇用対策についても、雇用創出事業の増額・延長とともに、卒業後3年以内の既卒者等を正規雇用として雇い入れる事業主への奨励金、雇用調整助成金の要件緩和など長期雇用・雇用維持重視という点で日本的雇用と親和的なものであった。
[2013年以降]
社会保障の安定のため消費税率の段階的引上げが予定される中で景気拡大を持続させるため、政府は2014年春闘に先がけて労使に対し異例の賃上げ要請を行った。
2012年夏以降、雇用情勢は改善傾向から人手不足基調となり、雇用対策としては女性、若者の活躍促進等が挙げられるなど、全員参加型社会を目指すものとなっている。また、成長戦略の一環として、衰退部門から成長部門への人材移動を促すとされた中で、雇用政策は「過度な雇用維持型から失業なき労働移動推進型へ」の転換が進められている。
政策的インプリケーション・政策への貢献
今後の労働政策立案の参考資料となることが期待される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・担当者・目次(PDF:511KB)
- 第1章 市場主義的規制改革期(1996 年~2006 年)(PDF:572KB)
- 第2章 市場主義の弊害是正期(2007 年~2012 年)(PDF:491KB)
- 第3章 人口減少本格化・成長戦略期(2013 年~)(PDF:527KB)
研究の区分
プロジェクト研究「企業の雇用システム・人事戦略と雇用ルールの整備等を通じた雇用の質の向上、ディーセント・ワークの実現についての調査研究」
サブテーマ「雇用システムと法プロジェクト」
研究期間
平成28年
担当者
- 永田 有
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
関連の研究成果
- JILPT第1期プロジェクト研究シリーズNo.4『多様な働き方の実態と課題─就業のダイバーシティを支えるセーフティネットの構築に向けて』(2007年)
- 資料シリーズNo.5『戦後労働政策の概観と1990年代以降の政策の転換』(2005年)
- 労働政策研究報告書 No.122『女性の働き方と出産・育児期の就業継続』(2010年)
- 『日本労働研究雑誌』2010年9月号(No.602)特集:若者の『雇用問題』:20年を振り返る」(2010年)
- 労働政策研究報告書No.129『「若者統合型社会援企業」の可能性と課題』(2011年)
- 労働政策レポート No.9『女性政策の展開』(2011年)
- 資料シリーズ No.99『雇用調整助成金による雇用維持機能の量的効果に関する一考察』(2012年)
- 資料シリーズNo.111『東日本大震災から1年半―記録と統計分析―(JILPT東日本大震災記録プロジェクト取りまとめ No.1)』(2012年)
- 労働政策研究報告書 No.140『シングルマザーの就業と経済的自立』(2012年)
- JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ No.3『非正規就業の実態とその政策課題─非正規雇用とキャリア形成、均衡・均等処遇を中心に』(2012年)
- 調査シリーズNo.121『改正高年齢者雇用安定法の施行に企業はどう対応したか―『高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査』結果―」(2014年)
お問合せ先
- 内容について
- 研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム